※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

奈良県宇陀市を拠点に、再生原料を用いた環境にやさしいフィルムの製造事業を展開する宇陀化成工業株式会社。同社の最大の特徴は、品質管理が極めて難しいポリエチレンフィルム製造において、リサイクル原料100%を安定して実現している点にある。30歳という若さで代表取締役社長に就任し、リーマンショックという荒波の中で舵を取ることになった栗林浩二氏。同氏はいかにして、現在のビジネスモデルを確立したのか。そこには、先代との対話から導き出した大胆な業態転換と、「社員の安定が品質をつくる」という徹底した合理主義があった。

工場が遊び場だった幼少期と外の世界で学んだ「安全管理と規律」の重要性

ーー幼少期から、家業を継ぐ意識はあったのでしょうか。

栗林浩二:
自宅のすぐ横に工場があり、私にとってそこは絶好の遊び場でした。職人さんたちに囲まれて育ち、周囲からも「将来は社長やな」と声をかけられる環境でしたので、親から強制されたわけではなく、ごく自然に「自分はこの会社を継ぐものだ」と受け入れていました。

ーー実際に貴社へ入社されるまで、どのようなキャリアを歩まれましたか。

栗林浩二:
将来の経営を見据え、経営管理やマネジメントの基礎を習得できる専門学校で後継者としての素養を身につけた後、すぐに弊社へ入社する道は選びませんでした。客観的な視点を持つために、まずは他社で経験を積もうと考え、工業用ゴムの製造販売を行う会社へ入社したのです。そこで3年間、営業として現場を回る中で痛感したのは「安全管理と規律」の大切さです。

ーー入社後にまず注力されたことも併せて教えてください。

栗林浩二:
その後、22歳で弊社に入社しましたが、当時の現場にはルールが定着していない部分もありました。そこでまず着手したのは、制服の着用徹底や工場内禁煙、ラジオ体操の導入です。これらは単なる形式ではなく、ミスの許されない製造現場において、社員の意識を一つにまとめ、事故を防ぐための不可欠な土台だと考えたからです。

リーマンショックがもたらした岐路 先代との議論の末に掴んだ経営権

ーー社長就任当時、大変だったことは何でしょうか。

栗林浩二:
2008年にリーマン・ショックが起きたときは、特に大変でしたね。当時は、工場が現在の場所に移転した直後のタイミングで、主力だった『環境に優しいゴミ袋』は、不況下でコスト意識の高まったお客様から敬遠され、安価な輸入品へと流れていってしまいました。環境への配慮という付加価値だけでは安さには勝てない、という厳しい現実を突きつけられたのです。

このままでは立ち行かないと痛感し、より高い技術力と品質が求められる産業資材分野への転換を父に提案しました。

ーーその提案に対し、お父様とはどのようなやり取りがあったのでしょうか。

栗林浩二:
それまで私の提案を快く受け入れてくれていた父でしたが、この時ばかりは真っ向から対立しました。長年会社を支えてきたゴミ袋事業への愛着に加え、未開拓の分野へ舵を切るリスクを懸念してのことだったと思います。何度も議論を重ねる中で、父から「そこまで言うなら、お前が責任を持ってやってみろ」と社長の座を託されました。喧嘩別れではなく、私の覚悟を試した上でのバトンタッチだったと感じています。

ーー貴社の製品が高い評価を受ける理由は何だとお考えでしょうか。

栗林浩二:
弊社が使うリサイクル原料は、石油から精製される新品のプラスチック原料に比べて安価な一方で、品質のバラつきが大きいのが難点です。そこで私たちは、仕入れ先に対して「どんなときでも必ず全量買い取る」という約束を交わし、信頼関係を築いてきました。この姿勢により、良質な原料を優先的に、かつ安定した価格で確保できる体制を整えています。

こうした安定した仕入れ背景があるからこそ、商社にとっても「宇陀化成の製品は欠品がなく、品質も安定しているから、安心して提案できる」と信頼を寄せていただいています。商社が私たちの代わりに価値を伝えてくださることで、無理な営業活動をせずとも、必要とするお客様へ製品が届く好循環が生まれているのです。

熟練の技が支えるリサイクル原料100%の品質

ーー経営理念に「従業員の幸福」を掲げている背景についてお聞かせください。

栗林浩二:
弊社の経営理念は「想いやりと感謝の気持ちをもって社員の幸福を実現し、環境と経済の好循環型社会の役割を担います。」です。

リサイクル原料を用いた製造は、気温や原料の状態に合わせた微細な機械調整が必要で、経験豊富な職人の存在が欠かせません。だからこそ人が定着し、技術が蓄積される環境をつくることが何よりも重要です。

弊社では、現場の負担を軽減するために生産規模に対して余裕を持った人員配置を行い、有給休暇取得率90%以上を実現しています。また社員の頑張りを還元するために、特別賞与の支給も7年間継続しています。社員が経済的・精神的に安定して働ける環境があって初めて、高い品質が維持され、結果として会社に利益をもたらしてくれる。これこそが、私たちが目指す「幸福」のあり方です。

ーー最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

栗林浩二:
今後は、欧州などで基準となっている「ポストコンシューマー材」を100%活用した製品づくりにも力を入れていきたいと考えています。これは従来の産業端材を利用するよりもさらに高度な技術を要しますが、創業以来40年以上にわたって培ってきた配合ノウハウがあれば必ず実現できると確信しています。日本の優れたリサイクル技術を世界水準へ。社員と共に、この挑戦を続けていきたいです。

(※)ポストコンシューマー材:消費者が使用した後のリサイクル材

編集後記

取材中、栗林氏が工場のメンバーと交わす言葉や、清潔に保たれた現場の様子から、この会社に流れる「相互の信頼」を強く感じた。若くして事業を承継し、父との葛藤を乗り越えながら危機をチャンスに変えてきた同氏。その言葉の一つひとつには、単なる精神論ではない、現場を知り尽くした経営者としての重みが感じられる。社員の生活を守り、その上で世界レベルの技術に挑む。同社の強さは、この極めて真っ当で力強い経営論に支えられているのではないだろうか。

栗林浩二/1981年奈良県生まれ。専門学校を卒業後、地元企業へ就職。3年の営業経験を経て、2003年に宇陀化成工業株式会社へ入社。2011年に同社代表取締役社長に就任。