※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

鳥取県から全国へ、約50店舗のピラティススタジオ「Pilates Studio DEP」を展開する株式会社DEP。同社の特筆すべき点は、在籍する全スタッフが理学療法士・作業療法士の国家資格を持つ「医療の専門家集団」であることだ。単なるフィットネスや流行のボディメイクではない。「医療と社会の隙間を埋める」という明確な使命を掲げ、予防医療の新たなインフラ構築に挑む代表取締役社長、船越剛司氏。「起業してからの苦労は一度もない」と言い切るその自信の裏には、集中治療室での壮絶な原体験と、揺るぎない経営哲学があった。地方発のベンチャーが描く、日本の医療と健康の未来図に迫る。

原点は集中治療室での無力感「死生観」が経営のハードルを下げた

ーー鳥取で事業を始められた経緯についてお聞かせください。

船越剛司:
理学療法士として集中治療室といった命の最前線で勤務してきました。そこは生死が隣り合わせの非常にシビアな現場です。いくら努力を重ねて優れた技術を習得しても、病院へ来る頃にはすでに手遅れで、治すことが叶わない方を数多く見てきました。そのたびに、言葉にできないほどの悔しさと辛さを味わってきたのです。

発症してからでは遅すぎる。それならば、何十年も前から予防的に介入するサービスを提供すれば、人々の未来を明るいものへ変えられると考えました。病院と社会の断絶を埋め、故郷である鳥取の人々が末長く健康でいられる場所をつくる。その思いを実現する手段としてピラティスを選び、起業しました。

ーー資金や知名度がない中での起業に、不安やご苦労はなかったのでしょうか。

船越剛司:
よく聞かれるのですが、実は起業してから「苦労した」と感じたことは一度もありません。病院時代、病気になったことを後悔して泣いている人を助けてあげられなかったことよりは、ビジネスの壁など些細なことです。経営の課題は、自分が努力すれば解決できることばかりですから。「頑張ればどうにかなる」という確信がある以上、それは苦労ではなく、乗り越えるべきプロセスに過ぎません。この死生観に基づいたメンタリティが、私の経営者としての根幹を支えています。

ーーどのようにして事業を軌道に乗せていかれたのでしょうか。

船越剛司:
創業地の倉吉市は人口も少なく、当時はウェブマーケティングが機能しづらい環境でした。そこで私は、毎朝5時からのポスティングや、深夜に及ぶマーケティング学習など、泥臭い活動を徹底しました。そうした熱量は、SNSを通じて徐々に伝播していきました。「うちの地域にもスタジオが欲しい」「船越さんと一緒に働きたい」という同志が自然と集まり始め、それが現在の「のれん分け」制度、ひいては全国展開の礎となっていったのです。

「医療×ピラティス」でQOLを守る 全スタッフが実務経験を持つ国家資格者

ーー競合他社と比較した際、貴社の決定的な強みとは何でしょうか?

船越剛司:
最大の強みは、理学療法士・作業療法士としての「実務経験」があるスタッフだけで運営している点です。一般的なピラティススタジオが「美容」や「ファッション」としてのフィットネスを提供するのに対し、私たちは「医療的な知見に基づいた身体機能の改善」を提供しています。ピラティスはあくまで手段です。目的は、お客様のQOL(生活の質)を生涯にわたって守ること。本当に身体の不調に困ったとき、安心して頼れる「駆け込み寺」のような存在であること。これが、他社には真似できない私たちの圧倒的な優位性です。

ーー今後の事業展開についてお聞かせください。

船越剛司:
私たちは、医療機関との連携を本気で視野に入れています。将来的には、医師からの処方箋に基づいて運動療法を提供できる場所を目指しているのです。そのために現在、私たちのサービスがもたらす医学的効果について学会発表を行うなど、エビデンス(科学的根拠)の蓄積に注力しています。単に店舗数を競うのではなく、日本の予防医療システムの一部として機能すること。ここに本気で取り組んでいる点が、私たちの存在意義だと考えています。

「かかわる人全てを幸せに」組織拡大を支えるギブの精神

ーー急速な事業拡大の中で、組織づくりにおいて大切にされている価値観を教えてください。

船越剛司:
「かかわる人全員を幸せにする」という判断基準を徹底しています。たとえば、スタッフの働き方改革です。レッスン以外の事務作業を極限まで排除し、予約が入っていない時間は自由に過ごせるようにしました。また、給与水準も業界最高水準を目指しています。経営者である私がまずスタッフに「ギブ(与える)」し続けること。心に余裕が生まれたスタッフは、その分お客様に最高のサービスを還元してくれます。言葉で理念を語るより、仕組みと行動で示すことが、強い組織を作る近道だと信じています。

ーー経営者として、視座が高まった「転機」はありましたか。

船越剛司:
経営者コミュニティ「REAL VALUE CLUB(RVC)」に参加したことが大きな転換点でした。そこで出会った言葉が、今の私を形作っています。「人生は周りの30人で決まる。本当にやりたいことがあるなら、周りの人を変えていかないといけない」。この言葉にハッとさせられました。それまでは「50店舗展開」が目標でしたが、視座の高い経営者たちと切磋琢磨する中で考えが一変しました。「150店舗」はあくまで最低ライン。今の成長速度であれば200店舗は通過点に過ぎません。現在は「300店舗」という規模を見据えています。日本を変えるためには、それくらいの高さが必要だと基準が引き上げられました。

目指すは「気軽に行ける病院」 地方から東京、そして日本の当たり前へ

ーー最後に、今後のビジョンと読者へのメッセージをお願いします。

船越剛司:
今後5年以内に150店舗体制を確立し、全都道府県への出店を完了させます。戦略としては、競合の参入障壁が高い地方で圧倒的なシェアを固め、満を持して東京へ最高品質の店舗を出店する計画です。私たちが目指すのは、「気軽に行ける病院」です。病気になってから行く場所ではなく、肩こりや腰痛、ダイエットなど、日常の悩みを気軽に相談できる医療インフラのような存在になりたい。今、私たちは日本を代表する予防医療企業へと進化する、最もエキサイティングなフェーズにいます。まだ世の中にない価値を共に創り、日本の健康の常識を変えていきたいという情熱ある方と、ぜひお会いしたいですね。

編集後記

「苦労を苦労と思わない」。船越社長の言葉は、単なる強がりではなく、人の命と向き合い続けてきた医療人としての覚悟に裏打ちされていた。スタッフが専門職としての誇りを持って働ける環境、そして顧客が心から信頼できるサービス。この両輪が噛み合っているからこそ、DEPは地方発の企業でありながら全国を席巻しているのだろう。「気軽に行ける病院」が街のあちこちにある未来。それは、超高齢社会を迎える日本にとって、一筋の光明になるに違いない。

船越剛司/1986年鳥取県生まれ。理学療法士として基幹病院で10年以上リハビリに従事。病気前の予防医学の必要性を痛感し、2020年に「Pilates Studio DEP」を創業した。2022年に株式会社DEPを設立し、代表取締役に就任。現在は鳥取を拠点に国内50店舗以上を展開、2030年までの150店舗体制を目指す。理学療法士・作業療法士のみを採用する国内唯一の組織として、医療とフィットネスを繋ぐ予防医学の発展に尽力。