※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

大阪泉州に本社を置き、常識破りの「時間無制限」焼肉食べ放題を展開する左近商事株式会社。同社を率いるのは、兄の急逝により30歳で家業を継承し、当時巨額の負債を抱えていた会社を再建した代表取締役社長の左近哲也氏。同氏は倒産の危機を乗り越え、現在、楽天ふるさと納税などのランキングで全国1位を獲得するまでに会社を成長させた。独自の経営手腕と、その根底にある「従業員とその家族の幸せ」を願う思いに迫る。

突然の家業承継 30歳で背負った家業再建への道

ーー家業を継がれるまでの経緯をお聞かせください。

左近哲也:
実は、会社を継ぐつもりは全くありませんでした。優秀な兄が後継者として会社を守ってくれていたので、私は大学卒業後、自分の夢であるプロゴルファーを目指してアメリカへ留学し、ゴルフ漬けの日々を送っていました。

しかし、私が30歳の時、運命は一変します。社員旅行先での不慮の事故により、兄が突然亡くなってしまったのです。父からは「お前はゴルフを続けていい」と言われましたが、父と兄が守ってきた会社を潰すわけにはいかない。その一心で、私はプロへの道をきっぱりと断ち、家業を継ぐ決心をしました。

ーー事業を継承された当時、会社はどのような状況でしたか。

左近哲也:
入社して蓋を開けてみると、そこには当時の売上高に匹敵するほどの莫大な借金がありました。社内に危機感を持っているのは私一人だけという状況で、焦った私は、コスト削減のために賞与を減らすなどの改革に着手しましたが、当然ながら従業員からは猛反発を受けました。

業績悪化と従業員の反発に悩んでいたときに、参加していた研修で、「自分が変わらなければ、周りも変わらない」という原則に気づきました。それからは従業員に対し、謙虚に頭を下げ、「こういう会社にしていこう」という目標を伝え続けました。最初は誰も耳を貸しませんでしたが、必死に訴え続けるうちに、徐々に組織が一つになり始めました。

ーー経営再建の道のりには、どのような試練がありましたか。

左近哲也:
2001年に発生したBSE(牛海綿状脳症)問題の時は売上高が半減し、本当に倒産を覚悟しました。売上高が激減し、会社がアルバイトの雇用を削減せざるを得ない状況で、社員への負担が大きくなることが予想されました。また、残業代を支払う余裕もありませんでした。その状況下で、従業員たちが、「残業代はいらないので、私たちに働かせてください」と申し出てくれたのです。

そして、皆でナイロン袋一枚すら無駄にしない徹底したコスト意識を持ち、一致団結して危機を乗り越えました。そこから長い時間をかけ、私が50歳になった2015年に、ついに借金を完済しました。両親や兄が築いた会社を守り抜けたことに、重圧から解放され、胸がいっぱいになりました。

性善説に基づく独自の「時間無制限」食べ放題システム

ーー貴社の焼肉店が持つ、他社にはない強みとは何ですか。

左近哲也:
創業以来のスタイルである、セルフサービスの「時間無制限」食べ放題です。これは1980年に父が始めたもので、お客様を信頼しているからこそできる形です。徹底したセルフサービスを採用することで、人手不足の時代でも少人数運営が可能となり、人件費を抑制しながら高い収益性を確保できています。

また、「お腹がいっぱいになれば、お客様は自然に席を立たれるもの」という性善説に基づき、あえて制限時間を設けない独自の仕組みを貫いています。お客様が時間を気にせずゆっくり食事を楽しめる点は、他社にはない大きな価値だと自負しています。おかげさまで、新規のお客様の約7割がリピーターとして度々足を運んでくださっています。

ーー質の高いお肉を安定して提供できる秘訣は何ですか。

左近哲也:
創業以来、仕入れ業者を一度も変えていないことが最大の秘訣です。「お取引先様を大切にできない会社は、お客様も大切にできない」。これは父の教えです。長年の信頼関係があるからこそ、BSEのような危機の時でも、高品質な肉を安定して供給していただけたのだと思います。

飲食の危機を支えたふるさと納税返礼品事業の柱

ーー現在、店舗運営以外に取り組まれている事業について教えてください。

左近哲也:
ふるさと納税の返礼品を扱う事業を行っています。会社名は私の父の名前からとり、「アキラ商店」と名付けました。主力商品は、焼肉店でも人気のハラミを商品化した「泉州元気ハラミ」です。納税者の方が泉佐野市に寄付をする際に、返礼品として弊社の商品を選べる仕組みになっています。この事業はまだ4年目ですが、コロナ禍で飲食店の売上高がゼロになった時に会社を支え、今では店舗事業と並ぶ大きな柱に成長しました。

ーーふるさと納税事業では、どのような実績を上げられているのですか。

左近哲也:
おかげさまで「泉州元気ハラミ」が、楽天ふるさと納税などの主要サイトにて、全商品の中での「総合ランキング全国1位」を獲得しました。一時期は生産が追いつかないほど注文が殺到し、全国から大変大きな反響をいただきました。現在は工場を増設して対応しております。

高付加価値化への転換と従業員とその家族の幸せを追求する経営

ーー今後の展望として、どのような戦略を描かれていますか。

左近哲也:
これからは高付加価値化に注力します。具体的には、インバウンド需要を見据えた「高級和牛の食べ放題」の展開を進めています。海外のお客様に日本の本物の焼肉文化を体験していただきながら、単価アップと収益向上を目指します。

しかし、最も大切なのは「従業員の幸福」だと考えています。そのため、無理な店舗拡大はしません。利益は、従業員が土日休暇や長期休暇をしっかり取れるような人員体制の強化や、待遇改善に還元していきます。

ーー最後に、求める人物像について教えてください。

左近哲也:
特別なスキルは必要ありません。「明るく、元気で、親切であること」。この3つがあれば十分です。「お客様の喜びの中に私達の幸せがある」。この経営ビジョンに共感し、お客様や仲間に笑顔で接することができる方と共に、次のステージをつくっていきたいです。

編集後記

20年にわたり数億円規模の負債を背負いながら会社を再建した左近氏の物語は、まさに重責と向き合う覚悟の歴史である。長年取引を続ける業者、そして困難な状況でも会社を支えた従業員への強い信頼が、独自のビジネスモデルを支える土台となっている。「共に楽しむ仕事をして、従業員とその家族が幸せになる」という経営者の揺るがない理念が、今、高付加価値化と労働環境の改善という具体的な戦略へと結実している。その歩みは、経営者が目指すべき一つの理想像である。

左近哲也/1965年大阪生まれ、大阪工業大学卒業。1995年左近商事株式会社に入社、2003年に同社代表取締役社長に就任。焼肉食べ放題の老舗として多店舗を展開中。