※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

社会を支える通信インフラや高周波誘導加熱による熱処理加工を核に、76年の歴史を刻む電気興業株式会社。企業間取引が主のため一般には馴染みが薄いものの、暮らしに不可欠な電波技術で社会に貢献し続けている。同社を率いる代表取締役社長の近藤忠登史氏は、北米事業の立ち上げや、顧客の声を反映するために工場に行きたいと志願した経験を持つ、現場主義のリーダーだ。社長就任後は「考動する組織」を掲げ、未来に向けた変革を推進する。その信念の源泉と、同社が描く成長戦略について話を聞いた。

知名度ゼロから北米市場を切り拓いた歩み

ーーこれまでの歩みの中で、ご自身の糧となった経験は何ですか。

近藤忠登史:
1995年に入社してから15年ほど、携帯電話の通信鉄塔と工事関連の営業を経験しました。その後、弊社の主力事業であるアンテナの製造部門へ異動となり、ゼロから勉強し直したのが第二のキャリアのスタートです。

その中で最も大きな転機となったのは、北米事業の立ち上げに挑戦したことです。それまでは先輩方が築いてくれた土台がありましたが、北米では知名度も実績も全くのゼロ。英語も話せない状態で、何から手をつければいいかすら分からない、まさにゼロからの出発でした。初めての契約をいただくまで、全米各地を飛び回る過酷な営業を2年半続けました。

ーー苦境から突破口を見出した際の状況を教えてください。

近藤忠登史:
状況が好転したのは、仲間たちと手を取り合い、お客様の真の困りごとを解決しようと奔走したことがきっかけでした。あるお客様から寄せられた具体的な要望に対し、即座に応えたことが突破口となったのです。この苦境を乗り越えて、弊社製品が設置された瞬間の喜びは、今も鮮明に覚えています。人との出会いの大切さを学んだこの経験は、私のキャリアにおける最大の財産となりました。

ーーこれまでのキャリアの中で、大きなターニングポイントとなった経験を教えていただけますか。

近藤忠登史:
北米事業を進める中で、お客様の要望に工場が迅速に応えられないという壁に直面しました。営業と工場の一体化こそが不可欠と考え、営業の側面しか知らなかったこともあり、モノづくりの現場を見たいとの思いから工場への異動を自ら志願しました。2019年に工場の責任者として着任してすぐに気づいたのは、技術者のこだわりと、営業現場が求めるスピード感の間に大きな溝があることでした。そこで私は、伝統を受け継いできた技術者の自負を尊重しつつ、お客様目線を取り入れる方法を模索するよう、粘り強く伝え続けました。この両者の融合が弊社を強くし、私自身の価値観をも大きく変える貴重な経験となりました。

中長期経営計画の策定と古い体質からの脱却

ーー社長就任時はどのような目標を立てたのですか。

近藤忠登史:
2021年の社長就任時に私が真っ先に取り組んだのは、健全な経営の土台となるガバナンス体制を根底から強化することでした。当時の弊社は、どちらかといえば内向きな体質が強く、まずは社内外に対して私たちが目指す方向性を明確に発信していく必要があると考えたのです。

その第一歩として、中長期経営戦略を改めて軸に据え、実行フェーズへ移すための方針と体制を整え、会社が進むべき道を全社で共有することからはじめました。昭和から続く古い体質を脱却し、風通しの良い組織へ変えていきたいという強い思いがありました。

ーー経営者として大切にされている信念についてお聞かせください。

近藤忠登史:
2つあります。1つは、社員一人ひとりが自ら考えて動く「考動」する組織をつくることです。これまでは、お客様から言われたものをつくるという文化が強かったかもしれません。それを変え、自分たちで考えて動く自走する集団を目指しています。

もう1つは、「チームワーク」と「感謝の心」です。私は学生時代に10年間バレーボールに打ち込んできたのですが、そこでの経験が私の原点になっています。個人の力には限界がありますが、チームが一つになれば、1+1が5にも10にもなり得るのです。私は社長という立場ですが、私一人では何もできません。社員みんなに「ありがとう」という感謝の気持ちを常に持ち、その思いを伝えていきたいと考えています。

社会インフラを支える使命感と成長戦略

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

近藤忠登史:
弊社は、社会を支える電波技術を軸として、主に2つの事業を展開しています。1つは、携帯電話基地局やテレビ放送、防衛関連など、日本のあらゆる通信を支えるアンテナを手がける「通信事業」。もう1つは、高周波の技術を用いて、自動車部品などの金属を硬くする装置をつくる「高周波事業」です。

弊社は企業活動を支える製品を扱っているため、一般の方の目に触れる機会は少ないかもしれません。しかし、社会のインフラを根底から支え、皆さんの生活の当たり前を守っているという自負があります。

ーー組織として社会で果たしたい役割とは何でしょうか。

近藤忠登史:
弊社は、電波技術を通じて社会インフラを支え、人々の暮らしに貢献することを使命としています。そのために日々技術の進歩に挑戦しています。災害時には深夜早朝を問わず速やかに情報収集を行い、状況を把握します。加えて、関係機関やお客様から要請があれば即応できるよう、平時から対応体制を整える――この姿勢が社内の文化として根付いています。社会インフラを支える企業としての強い使命感は、全社員が共有する大切な思いです。これからも電波技術で新たな価値をつくり、人々の生活を支えていく所存です。

ーー持続的な成長に向けた、今後の事業戦略についてお聞かせください。

近藤忠登史:
弊社が本格的な成長軌道への回帰を目指す上で軸となるのが、2025年5月に公表した3か年の中期経営計画「DKK-Plan2028」です。これは2031年度までの中長期経営戦略における、重要なステップとして位置付けています。

2028年までの期間を、これまでの厳しい時期を乗り越え、弊社を本格的な成長へと導くための勝負の3年間と定めました。その初年度にあたる現在は、収益の土台となる「稼ぐ力」を徹底的に強化することを最優先事項としました。単に売上を追うのではなく、組織の効率化や不採算要素の排除、そして強みである電波技術の再定義を行うことで、次なる飛躍に向けた強固な基盤をつくり上げているところです。この計画を完遂することが、電波技術で新たな価値を生み出す企業として、基盤が固まると確信しています。

AIを融合させ新たな柱を育てる挑戦

ーー強固な経営体制を築くために取り組まれていることは何ですか。

近藤忠登史:
本格的な成長を目指す上で、あらゆる課題を明確にする「見える化」を徹底することで、迅速に対処可能な強固な体制を構築していく考えです。事業面では組織を細分化して課題を早期発見できる体制を整え、人材面でもジョブ型人事制度の導入により、個々の役割と成長ステップを明確にしました。このように、課題をオープンにすることが、迅速に対処できる強い組織づくりにつながると考えています。

ーー次世代の柱となる新規事業の展望についてお聞かせください。

近藤忠登史:
将来の柱として、通信技術にAIを融合させたソリューション事業の育成に力を注いでいます。高周波技術を応用した新規事業と合わせ、将来の事業の軸へと育てる計画です。これまではお客様の仕様に基づいて製品をつくることが中心でしたが、これからは世の中のニーズを捉え、お客様の課題を解決するサービスを自ら生み出し、パッケージ化して提供していきます。

たとえば、AIを活用した映像解析による人流交通分析です。自治体や商店街の皆さまと連携し、弊社グループ会社のサイバーコア社の画像解析技術と、弊社のカメラ・システムインテグレーションを組み合わせることで、エリア内の人の流れを多角的に把握できます。得られたデータを店舗運営の改善に加え、自治体や商店街における施策立案や効果検証に活かせる示唆として提供するなど、地域の課題解決に向けた取り組みを進めています。

未来の価値を創出するチーム一丸の挑戦

ーー若手の発想を組織に反映する仕組みはありますか。

近藤忠登史:
弊社では、若手がチームで新規事業案を練り上げる「企画制作プロジェクト」を実施してきました。市場調査から収益計画の策定までを自分たちで行い、事業化を見据えて構想を磨く取り組みです。本プロジェクトの目的は、新規事業の種を探索することに加え、若手の人財育成と思考力の向上にあります。市場を調べ、自ら考え、言語化し、経営者目線で提案する一連のプロセスは、若手が経営者目線を養う貴重な機会であり、将来の成長を支える基盤になると考えています。現時点ではひと区切りし、学びを整理したうえで、次のフェーズに向けて準備を進めています。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

近藤忠登史:
弊社が手がけるのは、社会の土台を支える技術です。日常生活で弊社の社名を意識する場面は少ないかもしれません。しかし、弊社の製品は社会の至るところで活躍しています。社員は自分の仕事にプライドを持ち、家族や友人に「あれは自分が関わった製品なんだ」と自慢できるような、社会に誇れる会社だと確信しています。これからも、未来の当たり前をつくる企業として、社会に貢献し続けられるよう、チーム一丸となって挑戦を続けてまいります。

編集後記

営業現場から製造の最前線まで、一貫して地道に歩んできた近藤氏の言葉には、確かな重みがある。自ら考え動く「考動」という指針は、単なるスローガンではなく、北米での苦闘や工場での対話から導き出された結論だ。チームの力を信じ、一人ひとりの自律を促す姿勢こそが、伝統ある組織に新たな風を吹き込む。目に見えない電波技術で社会を支える同社の挑戦は、社員の誇りとともに、より豊かな未来を切り拓く原動力となるはずだ。

近藤忠登史/1995年電気興業へ入社。電気通信関連事業の国内・海外営業を経て、機器統括部長として製造・技術部門を統括。2020年に取締役執行役員 ワイヤレス研究所長兼機器統括部長。2021年4月より代表取締役社長。営業、設計開発・製造技術を横断するマネジメント経験を基に、既存事業の強化や新規事業領域への挑戦を推進している。