
医療・介護・子育て分野に特化し、独自のクラウドサービスで社会課題の解決に挑む株式会社カナミックネットワーク。同社が目指すのは、単なる業務効率化システムの提供ではなく、業界従事者が集うプラットフォームの構築だ。同社を率いるのは、富士通でのエンジニア経験を経て、父が創業した同社へ転身した代表取締役社長の山本拓真氏だ。大企業での知見とベンチャーのスピード感を融合させ、社会貢献とビジネスの両立を追求する。その経営の核にある本質論と、ヘルスケア領域で世界を目指す未来戦略について話を聞いた。
濃密な経験とキャリアの転換点
ーーどのようにキャリアをスタートされ、貴社へ入社されたのでしょうか。
山本拓真:
私は2000年に株式会社富士通システムソリューションズ(現・富士通株式会社)へ入社し、インターネットのエンジニアとしてキャリアをスタートしました。当時はまだ新しい分野で、16万人の社員がいても詳しい人がおらず、多くのトラブル対応などを通じて、5年間で人の10年分ほどの濃密な経験を積んだと感じます。
一方で、2000年頃はベンチャーが台頭した時代であり、富士通のような大きな組織は意思決定に時間がかかり、スピード感で勝てないジレンマがありました。その中で、父が介護領域でITを活用し、社会を良くしようと挑戦している姿を見て、自分の技術でチャレンジしようと2005年に移籍を決意するに至ります。
ーー規模の異なる2社での経験は、現在の経営にどのような好影響をもたらしていますか。
山本拓真:
大手にはネームバリューがありますが、ベンチャーにはスピード感という大手にはない良さがあります。何より、リスク評価に時間をかけるより、自己責任で試行錯誤ができる。私にとっては鎖が外れた感覚で、自分の実力を最大限に発揮できる環境は非常に楽しかったです。
また、前職での経験は、特に上場準備の際に非常に役立ちました。上場にはJ-SOX法や品質管理が重要ですが、これらは富士通でリーダーとして管理していた業務そのものです。どうすれば上場企業レベルのIT管理ができるかを知っていたため、監査法人や証券会社も問題なく、準備開始から2年強という短期間で上場を果たすことができました。
(※)J-SOX法(内部統制報告制度):上場企業が財務報告の信頼性を確保するために、金融商品取引法に基づいて設けられた制度。
情報過多の時代を生き抜く本質論
ーー経営において最も大切にされている価値観は何ですか。
山本拓真:
私が常に心がけているのは「本質論」です。今は情報があふれ、何が正しいかわからないまま右往左往している人が多いと感じます。私は、周りに流されず、物事を俯瞰して正しいことを正しく理解するよう心がけています。
そして、その本質を見極めるために一次情報を重視しています。誰かから聞いた話ではなく、自分が見て、聞いて、触ったことが一番確かな情報だと考えています。社員には「一流を知らないと一流の仕事はできない」と伝えていますが、これも一流の体験という一次情報を得るためなのです。
たとえば、高価格な商品には、それを体験しないと理解できない価値があります。軽自動車しか作ったことがない方に、なぜフェラーリが5000万円で売れるのか、その価値を想像することは難しいでしょう。社員旅行では、そのような一流の場として35年連続日本一の「加賀屋」を体験したこともあります。
ーー共に働く仲間については、どのような思いをお持ちですか。
山本拓真:
共に働く仲間については、家族よりも長い時間を過ごす、人生を共にしている大事なパートナーであると思っています。もちろんビジネスですので、どのような方向性を持って「みんなで成功していくんだ」という強固なチームを築けるかを重要視しています。弊社で目指すのは、今のお金という条件だけで働くのではなく、同じ場所で仲間と成功体験を共有し、その結果として皆の給料が上がっていくという成功循環です。給料だけを求めて転職する働き方では、結局大きな成功を成し遂げられません。私たちは、この成功循環を社員と共に実現していきます。
介護DXの先に見るプラットフォーム戦略
ーー貴社が目指す事業の目的と、競合にはない独自の価値について教えてください。
山本拓真:
私たちは医療・介護・子育て分野に特化したITサービスを提供していますが、単なるシステムを提供したいわけではありません。私たちの本当の目的は、業界従事者が常にアクセスするプラットフォームをつくることです。現在、約30万人の医療介護従事者の方々が、ほぼ毎日使う場になっています。
ーー特に大切にしている事業の強みや信念についてお聞かせください。
山本拓真:
私たちの強みや信念は、ずっと現場を大切にしていることです。2005年から20年間、毎月欠かさずバージョンアップを続けてきたこと。多くの大手ベンダーが3年に1度の法改正でしか開発しない中、私たちは現場の声を反映し、開発投資を続ける姿勢が認められています。
私は東大の研究員だった頃から、国のプロジェクトなどにも関わり、法律やガイドラインをつくる委員会で現場の悩みを、官僚の方々へリアリティを持って伝える役割も担ってきました。お金儲けのために行うのではなく、社会全体がよくなる社会貢献に徹していればいつかリターンがあるという考え方で、ずっと取り組んでいます。
「仕組み」で世界へ 日本発ヘルステックの未来

ーー貴社の組織づくりの方針と展望を教えていただけますか。
山本拓真:
これからの人口減少社会で、人数を増やさないと売上が上がらない会社は持たないでしょう。私たちは、一人当たりの生産性を高め、仕組みで伸びていく企業になりたいと考えています。
また、私たちがチャレンジすべきは世界です。日本はGAFA(※)などに代表されるようにIT貿易赤字が続いていますが、私はメイド・イン・ジャパンのサービスで世界に勝ちたい。特にヘルスケア・ヘルステック領域ならいけると思っています。
(※)GAFA:Google(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン)の4つの巨大IT企業の頭文字を並べた造語。
ーー貴社が日本で培った強みは、世界市場でどのように活かせるとお考えですか。
山本拓真:
日本は世界一の高齢化社会であり、国民皆保険で良質なデータが集まり、さらに人口減少で徹底的な効率化が求められる。この厳しい環境で得た知見は、世界で通用すると確信しています。すでにシンガポールでは今使っているソフトとレベルが違いすぎると高い評価を得ており、手応えを感じています。3年から5年でASEAN全域、10年以内には欧米にもチャレンジしたいです。
編集後記
本質論を軸に経営を推進する山本氏は、単なる介護DXに留まらず、医療・介護業界従事者30万人が集う巨大プラットフォームの構築を成し遂げた。この成功ノウハウは、世界一の高齢化社会という日本の課題に正面から向き合う中で生まれたものだ。今、同氏の視線は国内市場の制覇を超え、アジア、そして欧米へと向かっている。そして現場を知り尽くしたメイド・イン・ジャパンのヘルステックが、世界の社会課題を解決し、日本企業として再び輝こうとしている。超大手企業を凌駕する市場優位性を確保した同社の挑戦は明るい未来を照らすに違いない。

山本拓真/1978年京都市出身。2000年大学卒業後、株式会社富士通システムソリューションズ(現・富士通株式会社)に入社。2005年株式会社カナミックネットワークに入社し、2014年同社代表取締役社長に就任。2016年に東証マザーズ上場。2018年東証一部上場、2022年東証プライムへ市場変更。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使や筑波大学非常勤講師として起業家教育に取り組む。また、東京NBCやスタートアップ支援協会でスタートアップ育成活動にも注力。