※本ページ内の情報は2026年2月時点のものです。

パーソナルジム「SHAPE FIT GYM」の運営とフィットネス大会「Shape Fit Festival(SFF)」を主催する株式会社Shape Fit。フィットネス業界に根強く残る「結果主義」に疑問を呈し、「いかに自分らしくあるか」というプロセスに価値を見出す独自の理念で事業を展開している。このユニークな理念の背景には、代表取締役である天池成久氏自身の壮絶な経験があった。感覚的な経営の末に経験したメンタルダウンを乗り越え、同氏はいかにして自らの思想を言語化し、会社を再生させたのか。その軌跡と独自の組織論に迫る。

安定志向から一転 好きなことを仕事に選び起業を決意した背景

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

天池成久:
もともと「社長になりたい」という思いはありませんでした。両親も姉も公務員という家庭で育ったため、私にとって民間企業への就職すらレールを外れるような感覚であり、独立など「意味が分からない」というほど遠い世界の話だったのです。

当時は「働くことはつまらないもの」と割り切っており、とにかく楽しく生きていければいいと考えていました。そのため、就職活動の軸も「残業が少なく、安定していそうなIT企業」という一点のみでした。しかし、実際に働いてみると、人生の大半を費やす仕事の時間が楽しくないのはもったいない、という違和感を抱くようになったのです。

ーー起業を決意された背景についてお聞かせください。

天池成久:
違和感の正体が見えたのは、コロナ禍によるオンライン化の加速と、趣味であった筋トレの発信がきっかけでした。大学時代に出会い、好きで続けていた筋トレをSNSで発信したところ、予想以上に「教えてほしい」という声が集まったのです。

そこで気づいたのは、私にとって筋トレや発信活動は、努力という感覚がなく、時の経過を忘れるほど没頭できるということでした。かつて野球部の練習で行った「苦しい筋トレ」は嫌いでしたが、自発的に取り組む中で「好き」に変わった。このプロセスこそが提供できる価値だと確信し、社会人1年目の5月には、これを仕事にしたいという意志が固まっていました。

「プラットフォームに依存せず、自分のサービスを直接届けたい」と考え、構想も固まらないうちに「日本一初心者が来やすいジムをつくる」と宣言し、クラウドファンディングに挑戦しました。

もちろん、公務員家庭の価値観からくる「安定を失う不安」はありました。しかし、ジムに時間をかけるほうが、会社員を続けるよりも確実に自分の人生を前に進められると確信できたからこそ、迷いなく決断できたのです。たとえ目の前に不安があっても、将来を見据えれば、ただ耐える毎日を送ることのほうが私にとっては大きなリスクでした。自分が本気でワクワクできることに時間を投じる選択こそが、自分自身の人生を、そして未来のお客様の人生をも輝かせると信じて一歩を踏み出しました。

メンタルダウンからの復活 組織を劇的に変えたコーチングとの出会い

ーーこれまでに大きな転機となった出来事はありましたか。

天池成久:
2025年の1月にメンタルダウンを経験し、精神科に通うことになりました。当時の経営は理念などが言語化されておらず、私の感覚的な判断に頼っていたため、常に将来への不安を抱えていたのです。そんな中、実績のある経営者から「マニュアルがない組織は崩れやすい」という指摘を受けました。当時の私は、自分よりも結果を出している人の言葉が正しいと思い込んでしまう「思考の癖」がありました。そのため、本心では違和感を抱きながらも、その言葉に従わなければならないという葛藤に苦しむことになったのです。

「お金を稼がなければならない」という固定観念と、現場を預かるメンバーの戸惑いとの板挟みになり、最終的には体が動かなくなるまで心がすり減ってしまいました。

ーーそこからどのようにして立ち直ったのでしょうか。

天池成久:
自分を見つめ直すきっかけは、認知科学コーチングとの出会いでした。人間は、無意識のうちに過去の経験から作られた「信念」に基づいて決断を下しています。私の場合は、公務員家庭で育った影響から「安定しなければ幸せになれない」という強い思い込みに縛られ、他人の軸で決断を下していたと気づきました。この「無意識が意思決定を左右する構造」を理解し、自分が本当に大切にしたい価値を言語化していくことで、ようやくお金への不安が払拭されました。

コーチングを受けてからは表情やパフォーマンスも明らかに変わり、仕事を楽しめるようになりました。私が変わったきっかけである「認知科学コーチング」を社内へ導入した際も、スタッフたちは私の変化を間近で見ていたため、抵抗なく受け入れてくれました。一人ひとりが「自分らしく働くこと」の価値を共有できたことで、組織の雰囲気は以前とは見違えるほど明るくなっています。

結果主義からの脱却 プロセスを讃える独自のフィットネス文化

ーー経営を行う上で、どのような価値観や考え方を大切にされていますか。

天池成久:
私がいま最も大切にしているのは、単なる「結果」ではなく「いかに自分らしくあるか」というプロセスに価値を見出す、という考え方です。あえて言葉にするなら「結果主義からの脱却」といえるかもしれません。私自身、かつては「結果を出さなければ」というプレッシャーからメンタルダウンを経験しました。その経験から、数字などの結果に執着しすぎると、本当の意味で仕事や人生を楽しむことはできないと痛感したのです。たとえば、会社が売上高100億円という結果を達成したとしても、そのプロセスでスタッフが疲弊し、個性を無視しているのであれば、それは成功とは呼べません。

挑戦すること自体や、たとえ失敗したとしてもそこから生まれる物語にこそ、本質的な価値があります。この「プロセス」を大切にする文化が根づいてこそ、お客様に感動をお届けできる、質の高いサービスをつくれると確信しています。

ーー貴社が提唱するフィットネスの独自の価値とは何でしょうか。

天池成久:
フィットネス成功の鍵は、ロジックではなく継続性にあります。そのため知識以上に、お客様が「何をしたいのか」を言語化する対話に最も時間をかけます。セッションの1時間が、ほぼ会話で終わることも珍しいことではありません。数値結果だけでなく、フィットネスを好きになり自走できる状態をつくることが提供価値だからです。

弊社では、ジムを「お客様が本気で自分を変える場所」、主催大会「SFF」は、「その変化を周りに広げる場所」と位置づけています。この大会には、あえて人と比較をしないカテゴリーを設けました。結果の優劣を競うのではなく、プロセスを讃える場なのです。挑戦とその過程にある物語には、人を変える力があります。自分と同じ環境で頑張る人の姿を見ることで、来場者の方も「自分も変わりたい」と一歩を踏み出すことができる。私たちは、そんな「挑戦の連鎖」を広げていきたいと考えています。

無限に努力できることを仕事に 個性が響き合う組織のつくり方

ーー理想とする組織のあり方、働き方についてお聞かせください。

天池成久:
一人ひとりが特性を理解し、その特性を最も発揮できる役割を担うのが理想です。上下関係なく、互いの強みを頼り合えるネットワークのような組織を目指しています。「努力を努力と感じず、時間が溶けるほど没頭できること」を仕事の役割にできれば、成果は最大化されるはずです。

また、私は仕事と生活をあえて切り分けない「ライフワークブレンド」という考え方を大切にしています。仕事を「耐える時間」ではなく、自分のやりたいことを体現する「自己実現の場」と捉え直すのです。個人のビジョンと会社の方向性をすり合わせることで、働く時間は自ずと自分の人生を豊かにする時間へと変わります。一人ひとりが自分の人生を好きになれる、そんな組織であり続けたいと考えています。

ーー最後に、今後の展望についておうかがいできますか。

天池成久:
誰もが自分らしく生き、お互いの「らしさ」を受け入れられる社会をつくることが、私の究極の理想です。その第一歩として、まずは強みであるフィットネスの領域から、この思想を正しく広めていきたいと考えています。私が提唱する「ノーストレス減量」は、自分を律して耐えるのではなく、自分らしさを見つけることで成功させるアプローチです。今後5年から10年をかけてこの手法を体系化し、ハードルの低いフィットネスとして世の中に浸透させていきます。

「プロセス」や「思想」を大切にする文化を確立することで、誰もが自分らしさを見つける大切さに気づくきっかけをつくりたいと考えています。

編集後記

安定を重んじる家庭で育ち、一度は「働くことはつまらない」と割り切った天池氏。そんな同氏がメンタルダウンを経て辿り着いたのは、数字の結果よりも「プロセス」を愛するという独自の境地だ。仕事と生活を統合する「ライフワークブレンド」という考え方は、新しい時代の働き方を提示している。フィットネスを通じ、誰もが自分の人生を好きになれる社会を目指す。その挑戦の先に、明るい未来が広がっているに違いない。

天池成久/1997年埼玉県川口市生まれ。芝浦工業大学卒業後、IT企業への入社を経てフィットネスの道へ。現在運営するYouTubeチャンネル「なーすけFitness」は登録者数67万人を突破。「ノーストレス減量」をテーマに掲げ、精神的な負担をかけずに誰でも再現できるボディメイク術を発信し続けている。また、自身が立ち上げたイベント「Shape Fit Festival」は2025年に累計動員数6000人に到達するなど、オンライン・オフラインを問わず精力的に活動中。