
多くの企業がCO2排出量の“見える化”までは進めている一方、その先の“どう削減するか”という具体的な手法に頭を悩ませている。株式会社Green AIは、まさにその核心的な課題の解決に特化したサービスを展開する企業である。資源小国である日本が長年培ってきた世界トップクラスの省エネ技術や現場のノウハウをデータベース化し、AIを用いて最適な削減策を提案する。
大手商社、外資系コンサルティングファームを経て起業した代表取締役社長の鈴木慎太郎氏は、日本の省エネ領域における「匠の技」を次世代へ継承し、日本の顧客企業に対して脱炭素と経済性の両立という価値を提供するとともに、その知見を世界へ届けるという壮大なビジョンを掲げる。本記事では、同氏のキャリアの軌跡と事業に込めた思いに迫る。
大手商社、外資コンサルを経て見出した「起業」という道
ーーまずは、社会人としてのキャリアのスタートについてお聞かせいただけますか。
鈴木慎太郎:
新卒で三菱商事株式会社に入社し、最初の1年間は管理部門で会計と営業の中間のような業務を経験しました。その後、石油・ガス開発の部門へ移り、2年間ほど米国・英国の石油・ガス開発プロジェクトに携わりました。地下のどこに石油やガスがあるかを探し、1本100億円もするような穴を掘る事業です。こうした国際プロジェクトに関わる中で、巨額の投資を伴う意思決定の難しさや、石油メジャーなどの海外パートナーとの交渉の複雑さを肌で学びました。同時に、事業特性に即した、より合理的で機動的な意思決定プロセスの重要性を強く認識するようになりました。「もし自分が、石油・ガス開発の意思決定プロセスを設計する立場であれば、どのように構築するだろうか」と、組織における意思決定の在り方について深く思索する貴重な経験となりました。
ーーその後、どのような道を選択されたのでしょうか。
鈴木慎太郎:
自らの思考力を磨き、どのような環境でも通用する力を身につけたいと考え、ボストンコンサルティンググループへの転職を決意しました。そこでは、年齢や立場に関係なく発言が求められ、1時間単位で進捗が求められ、価値を生み出さなければ評価されません。ただ外資コンサルというドライなイメージがあるかもしれませんが、実は人を育てる文化が非常に強く、プロジェクトでご一緒した先輩方が惜しみなく知見やスキルを教えてくれました。ここで得た、例えば“現場・部長・社長といった視座を意識的に切り替えながら物事を捉える”といったアドバイスは、今の自分の礎になっています。
ーーそこから独立を決意されるまでには、どのような転機があったのでしょうか。
鈴木慎太郎:
コンサルタントとして、複数の企業の新規事業を支援する中で、スタートアップの経営者と接する機会が増えました。自らリスクを背負いながら事業を推進するエネルギーや輝き、そして本質に集中して意思決定と実行を加速させるスピード感に触れたとき、合意形成を重ねながら支援するコンサルタントの立場では到達し得ない領域があると感じました。この壁を超えるには、自分自身がリスクを取って挑戦するしかない。プロダクトと顧客と提供価値に真正面から向き合い、追及したい、という思いが沸き上がり、起業を決意しました。
「見える化」の先へ 市場の真のニーズに応える事業転換
ーー事業の立ち上げは順調に進んだのでしょうか。
鈴木慎太郎:
立ち上げ当初は、中小企業向けのCO2排出量算定、いわゆる“見える化”のサービスを企画していました。しかし、構想案をもとに30社にヒアリングしたところ、ほとんどニーズがないことが分かりました。大企業は既存サービスで一定の対応が進んでおり、中小企業はまだCO2の見える化への関心がまだ高くありませんでした。
ただ、そのヒアリングの中で、数社から「見える化はいいのだが、その先の削減方法に困っている」という言葉を頂き、重要な気づきを得ました。CO2見える化は現状把握、いわば準備でしかなく、本当の目的はCO2削減・エネルギー削減にあるという点です。この現場のヒアリングこそが、現在の「削減計画の策定から実行支援まで」に特化したサービスへと舵を切る大きな転換点になりました。
ーー具体的に、何が“削減”への障壁になっていたのでしょうか。
鈴木慎太郎:
当時の状況をたとえるなら、“体重計は売っているが、ダイエットの方法は誰も教えてくれない”という状態だったからです。多くの企業は自社のCO2排出量を把握できても、膨大な選択肢の中で、何から着手すべきか、どの施策が最も効果的か判断できずにいました。そこで私たちは、省エネ・脱炭素に関するあらゆる施策を網羅したデータベースを構築し、個々の状況に合わせて最適な打ち手を数値に基づいて提案する仕組みを作りました。これにより、担当者は根拠を持って上司に説明でき、合理的な意思決定が可能になるのです。
匠の技をAIで継承し、日本の省エネ技術を世界へ

ーーそのデータベースには、具体的にどのような知見が詰め込まれていますか。
鈴木慎太郎:
世界でもトップレベルにある、日本の製造現場の省エネのノウハウです。日本は石油などの資源がないにもかかわらず、製造業で発展してきました。これは、裏を返せば、エネルギーをいかに効率的に使うかという“省エネ”の技術とノウハウを、長年にわたって磨き続けてきたということです。現場で培われた運用の工夫や改善策は、世界でもトップクラスの水準にあります。この“匠の技”とも言える日本の強みは、世界に誇れる無形の資産だと考えています。
ーーそうした貴重な技術は、次世代へスムーズに継承されているのでしょうか。
鈴木慎太郎:
実は、その高度なノウハウを持つ専門家の多くは60代から70代で、技術継承の課題が顕在化しています。私たちは、彼らが培ってきた属人的な知見や経験を一つひとつ整理・体系化し、データとして蓄積しています。これにより、システムがお客様に応じた省エネ・脱炭素施策を提案できるようになります。さらに省エネ診断士・環境コンサルの会話データを集めて、“AIエージェント”を開発しており、これにより、いつでも簡単に省エネや脱炭素に関する助言を得られる環境を実現します。
これは、まさしく日本の省エネ・脱炭素領域における匠の知見を結集する取り組みで、このシステムを世界に展開し、まずは省エネの知見を、次に日本の省エネソリューションを世界に輸出する流れを作りたいと考えています。
学歴不問、求めるは熱量 未来を創る仲間を求めて
ーー組織を拡大していく中で、採用において最も大切にされていることをお聞かせください。
鈴木慎太郎:
過去の実績や経歴だけで判断することはありません。弊社には大学どころか、高校を卒業していないメンバーもいます。私たちが最も重視するのは、本質を捉えて考え行動する力と、未知の課題に対して学びながら解決する力です。新しい分野や未経験の分野でも、目的意識があれば学習速度は驚くほど高まります。例えば、弊社のエンジニアの半数以上はプログラミング未経験からスタートしていますが、短期間で大きく成長し、活躍してくれています。また、入社して間もない段階から既に部門の責任者として、組織を牽引しているメンバーもいます。
ーー最後に、貴社のビジョンに共感し、参画を検討している方へメッセージをお願いします。
鈴木慎太郎:
脱炭素や環境問題に関心を持つ方の中でも、削減や実行を通じて社会に変化を生み出したいと考える方に、ぜひ参画していただきたいと思っています。私たちは、脱炭素というテーマを感情や概念といった定性的なものとしてではなく、数字と成果によって捉えます。そして、企業に利益をもたらす形で具体的な提案へと落とし込み、実行まで支援する会社です。また、脱炭素と並び、化石燃料の使用量を削減していくことは、日本にとって極めて重要な課題です。私たちは、このテーマに正面から向き合い、現実的かつ持続可能な解決策を提供していきます。
社会に貢献したい。確かな手触りのある仕事に取り組みたい。さらに、年齢に関係なく圧倒的な成長を遂げたい。そう考える方にとって、弊社は最適な環境だと確信しています。
編集後記
CO2の“見える化”から“削減”のフェーズへと移行する中、同社はその核心を突くソリューションを提供する。鈴木氏が語る“匠の技のAI化”という構想は、単なる環境問題への貢献に留まらない。それは、日本の現場が培ってきた無形の資産をテクノロジーの力で可視化し、国境を越えて未来へとつないでいく壮大な挑戦である。同社の取り組みは、脱炭素が経済合理性と両立しうる新たな産業を生み出す可能性を示唆しており、日本の未来を照らす一筋の光と言えるだろう。

鈴木慎太郎/1986年静岡県生まれ、東京大学卒。学部時代には量子コンピュータの研究で学科の最優秀卒論賞を受賞。大学院にてスマートグリッドを研究。新卒で三菱商事株式会社に入社し、石油・ガス開発事業に従事。その後、ボストンコンサルティンググループにて電力・エネルギー領域の戦略策定や運用改善プロジェクトを担当。独立を経て、2023年に株式会社Green AIを設立し、代表取締役社長に就任。『脱炭素と経済性の両立』をビジョンに、脱炭素計画策定システムを開発・運営している。