
月額制ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」を運営する株式会社エアークローゼット。洋服のレンタルに加え、物流・IT・データを組み合わせた独自のプラットフォームを構築し、「試してから買う」という新体験を提供している。根底にあるのは、創業時から掲げる「時間の価値を高める」という思いだ。代表取締役社長 兼 CEOの天沼聰氏は、マネジメントの本質を追求する未来から逆算し、あえて自らの弱点であった「人前での発言」を鍛え抜くためにコンサルタントの道を選んだ。弱点さえも理想の姿へ到達するためのプロセスと捉える、その徹底した逆算思考の原点と事業への情熱に迫る。
苦手なことから逃げない コンサルタントとして歩んだキャリアの原点
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされましたか。
天沼聰:
大学は英ロンドン大学に通っており、データ活用やAIの研究をしていました。卒業後は日本へ帰国することは決めていましたが、具体的に何をするかは全く決まっていませんでした。そこで、将来どのような社会人になりたいかを考えたとき、チームを率いるリーダーやマネジメントをする立場に強い興味を抱いたのです。
しかし、当時の自分にはマネジメント能力はおろか、人前で話すプレゼンテーションのスキルさえ全くありませんでした。大学の授業で発表する際も、完璧に準備していったはずが、緊張で手が震えて準備した原稿さえ読めなくなり、一言も話せずに終わってしまった経験をするほど苦手だったのです。
リーダーという理想の姿に対し、今の自分には経験が圧倒的に足りない。その差を埋めるためには、プレゼンテーションや会議の議事進行、プロジェクトマネジメントなどの経験を積む必要があると考えました。そこで、最も幅広く汎用的な能力が身につくと感じたコンサルティング会社を、最初のキャリアとして選んだのです。
ーー人一倍の苦手意識がありながら、なぜそこまで自分を追い込めたのでしょうか。
天沼聰:
「理想の自分」というゴールから逆算すれば、避けては通れないプロセスだったからです。たとえば、プロ野球選手が血の滲むような回数の素振りを繰り返すのは、決して素振りそのものが大好きだからではないはずです。理想とする最高のパフォーマンスを発揮している自分に近づくために、必要不可欠な訓練だと理解しているからこそ、バットを振り続けられるのだと思います。
私にとってのプレゼンテーションも、それと同じでした。なりたい姿は明確でも、放っておいて自然に理想のリーダーになれるわけではありません。だからこそ、機会があれば「やらせてください」と自ら手を挙げ、場数を踏むことにこだわりました。また、単に経験するだけでなく、「今日のプレゼンはどうだったか」「次はどう進行しようか」と毎回徹底して振り返り、学びを最大化させる意識を高く持つよう心がけていました。
組織で活躍する秘訣は「歯車」になること 役割の理解と納得の重要性

ーーコンサルティング会社では、どのように自身の価値を見出されたのでしょうか。
天沼聰:
当時の私は、周囲の同期たちに強い劣等感を抱いていました。自分は特別な能力のない凡人だと自覚していたのです。その中で活躍する方法を考え抜いた結果、一つの結論にたどり着きました。それは、上司が私に期待していることを正確に把握し、その期待を上回る成果を出し続けるというシンプルな方法です。
ーー具体的にはどのような行動をされていたのでしょうか。
天沼聰:
上司に対し、「自分に何を期待しているか」「どういう言動を評価するか」を徹底的に確認して回りました。評価の基準を具体的な行動レベルまで落とし込んで把握するのです。役割さえ明確になれば、あとは全力を注いで120%、150%の結果で応えるだけです。
私は、組織とは全員が固有の役割を持った「歯車の集合体」だと捉えています。大切なのは、自分に期待されている歯車の「形状」と、周囲と連携して成果を出すための「回る速度」を正しく理解することです。それができれば、どんな環境や立場でも活躍できる人材になれると確信していました。
ーーその考え方は、現在の組織づくりにも活かされていますか。
天沼聰:
「役割の理解と納得」は、今も組織づくりのベースとして大切にしている考え方です。立場が変われば、求められる歯車の形も自ずと変わります。その時々で自分の役割を理解し、最適なパフォーマンスを追求し続ける。それこそが、個人や組織の力を高め、成長へ向かう一番の近道だと信じています。
ファッションの新しい当たり前をつくる レンタルと購入の垣根を越える挑戦

ーー貴社の事業内容とその強みについて教えてください。
天沼聰:
事業としては、プロが選んだお洋服をご自宅にお届けする、月額制のファッションレンタルサービス「airCloset」を展開しています。
最大の強みは、単なるレンタルサービスの提供にとどまらず、裏側で独自の物流基盤、ITシステム、そして蓄積されたデータを組み合わせた循環型のレンタルプラットフォームを構築している点です。この基盤があるからこそ、お客様一人ひとりにパーソナライズされた体験を効率的に提供し続けることが可能です。また、このプラットフォームを応用し、現在は家電などを試して購入できる「airCloset Mall」といった新サービスも展開しています。
ーーサービスの着想はどこから得られたのでしょうか。
天沼聰:
創業時に掲げた「時間の価値を高める」という思いが原点です。多くの人が「もっとファッションを楽しみたい」と思っているのに、仕事や育児で忙しく、お洋服を選ぶ時間がないために諦めている現状に気づきました。そこで、今の生活を変えることなく、新しいファッションと出会えるサービスがあれば、諦めていた時間をワクワクする時間に変えられると考えました。お洋服を探す行為を私たちが代行することで、時間の価値向上に貢献できると信じています。
ーーレンタルと購入の関係性についてはどのようにお考えですか。
天沼聰:
私たちは「買う」という行為を否定しているわけではありません。レンタルは、あくまで新しいファッションと効率的に出会うためのきっかけだと考えています。レンタルは一時的な所有体験です。その体験を通じて、本当に自分に合うか、長く使いたいかをじっくり見極めていただく。そして、心から気に入ったものだけを厳選して購入する。そうすることで、無駄な買い物が減り、お客様にとってもお洋服にとっても幸せな関係が築けるはずです。創業当初から、レンタルしたアイテムを買い取れる機能を付けているのは、そのためです。
時間の価値を高めるために エアークローゼットが描く未来

ーー今後、会社をどのように成長させていきたいとお考えですか。
天沼聰:
仕事や子育てを理由にファッションを諦める必要がない社会を実現したいと考えています。ファッションが好きだけれど時間がない方々にとって「airClosetがあってよかった」と思ってもらえるサービスに育てていきたいです。
また、これまでは月額制のサブスクリプションが中心でしたが、結婚式など特定の場面で利用できるスポットレンタルや、気に入ったものを購入できるEC機能も強化し、お客様の多様なニーズに応えていきます。
ーー最後に、事業を通して実現したい社会の未来像をお聞かせいただけますか。
天沼聰:
「試してから買う」という消費スタイルを、ファッション業界の当たり前にしていきたいです。納得して購入し、大切に長く使う。この循環が広がれば、よりサステナブルな社会の実現につながると信じているからです。将来的には、ファッション市場の10%〜15%が「試すことを前提とした消費」に変わると予測しています。その領域で「エアークローゼットに任せたい」と、お客様からもアパレル企業様からも信頼されるリーディングカンパニーを目指します。
編集後記
天沼氏の言葉からは、キャリアも事業も「なりたい姿」から逆算して構築するという一貫した思考法がうかがえる。人前で話すのが苦手だった青年が、リーダーへの最短距離としてコンサルタントの道を選んだように、同社も「時間の価値を高める」という理想から逆算し、「試して買う」仕組みを導き出した。その挑戦は、単なるビジネスモデルの革新にとどまらない。私たちの消費行動、ひいてはライフスタイルそのものを、より豊かで本質的なものへと変えていく可能性を秘めている。

天沼聰/英ロンドン大学卒業後、2003年にアビームコンサルティング株式会社に入社し、IT・戦略系のコンサルタントとして約9年間従事。2011年より楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社)にて、UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務めた後、2014年に株式会社エアークローゼットを創業。主なサービスとしては、『airCloset』『airCloset Mall』『airCloset Spot Rental』『airCloset Salon』を展開。