※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

金融や流通、通信分野へ向けたITソリューションを提供する株式会社アイティフォー。顧客との「直接対話」を重視し、現場の声を反映したシステム開発で独自の地位を築いている。同社を率いるのは、一度退職しながらも「誰にも負けたくない」という思いで復帰し、トップまで上り詰めた佐藤恒徳氏だ。社長就任後は、社内の情報格差をなくすための抜本的な改革や、社員が働きやすい環境づくりを推進する。顧客、そして社員一人ひとりと真摯に向き合う同氏に、これまでの歩みと事業にかける思い、そして会社が目指す未来について話を聞いた。

「誰にも負けたくない」一心で 異例の復帰からトップへ至る道のり

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

佐藤恒徳:
もともと新卒で弊社に入社し、金融事業部に配属され、そこで4年半、営業を担当しました。しかし、当時はまだ少なかったコンビニエンスストアが、将来的に金融の拠点にもなっていくと考え、これからは流通業界が伸びると確信して転職を決意。他社でPOSシステムやネットワーク業務に携わりました。

その後、新卒入社時の事業部長であり、当時弊社の社長を務めていた方から「そろそろ修業は終わっただろう。戻ってこないか。」と声をかけていただきました。「この方に言われたら戻らざるを得ない」という決心がつきましたし、生活の要であるスーパーや百貨店などの小売業を知ったことは大きな強みになると考え、1998年に復帰しました。

当時は「出戻り」が珍しい時代でしたので、恥ずかしさもありましたが、戻った以上は「誰にも負けたくない」と強く誓いました。金融と流通の経験をつなぎ合わせて、誰にも負けない一番を目指そうと覚悟を決めたのです。

ーー復帰後、ご自身の成長のきっかけとなった出来事はありますか。

佐藤恒徳:
当時は課長代理として復帰しましたが、周囲の役員や事業部長ができていないことを成し遂げようと考えました。特に銀行がお客様でしたので、担当者レベルの商談に留まらず、自分一人でも頭取にお会いできるようになろうと決めて行動したのです。

当然、組織のルールを飛び越えた行動に対しては、先輩方から「順序が違う」と厳しく叱られました。しかし、トップの方と直接対話することで、組織が抱える本質的な課題や、決裁の重要性をひしひしと実感することができました。この「トップに価値を訴求する」という経験が、のちに大きな自信となりました。

この経験が実を結んだのが、2017年に立ち上げたキャッシュレス事業です。当時、金融機関におけるキャッシュレス対応はまだ先駆けの段階でしたが、お客様の役員クラスの方々と直接対話を重ねることで、将来を見据えた新しい事業を共に形にすることができました。現場の生の声と経営層のビジョンの両方を理解して事業をつくり上げられたことは、自身の成長だけでなく、お客様や弊社にとっても大きな成果につながったと感じています。

徹底した情報開示と環境改革 社長就任後に貫く信念

ーー代表取締役社長へ就任された経緯について教えてください。

佐藤恒徳:
最初に打診された時は、私自身が社長という大役を担う器ではないと考えていたため、一度は辞退したのです。しかし、会長職に就かれる予定だった当時の社長からの猛プッシュがあり、もうやるしかないと腹をくくりました。最終的に評価を下すのは自分ではなく周囲の方々であると受け入れ、覚悟を決めたのです。

ーー社長就任にあたり、「変えてはならない」と確信していた貴社の原点とは何でしょうか。

佐藤恒徳:
お客様と直接対話し、共にものをつくっていくという姿勢です。弊社は「寄り添う力」という言葉を大切にしていますが、これは単なるスローガンではありません。間にベンダーなどを介さず、あくまで直接販売を貫くことで、お客様と苦楽を共にしながら製品を育てていく「現場主義」の精神を指しています。

新入社員から「なぜそこまで仕事をするのか」と聞かれたとき、私は「お客さんが喜んでくれるからだ」と答えています。この「お客様の喜びを自らの原動力とする魂」こそが弊社の強みであり、これからも決して失ってはならない伝統だと考えています。

ーー一方で、組織をより良くするために「あえて変革したこと」を教えてください。

佐藤恒徳:
大きく変えたのは、社内の情報格差をなくし、透明性を高めることです。以前は、役員のスケジュールですら秘書しか把握できず、社員との距離感を生む原因になっていました。そこで、取締役会などで決まった事項をイントラネットで全社員に開示するようにしたのです。情報をオープンにしたことで、部門間の壁を取り払い、一体感を醸成したいと考えました。

もう一つは、社員が喜んで働ける環境づくりです。「働き方改革」の前に、「働く環境改革」から始めようと考えました。たとえば、以前のオフィスは部署ごとに決められた席があり、他部署の社員と話す機会が限られていました。そこで、固定席をなくしてフリーアドレスを導入し、自然とコミュニケーションが生まれるような空間へと大幅に刷新したのです。

新しいオフィスはドラマのロケ地に選ばれるほどのデザイン性を備え、大阪のオフィスでは週に1人程度しかリモートワークを利用しないほど、多くの社員が自発的に出社して働くようになりました。環境を整えることで社員同士の会話が増え、新しい一体感が生まれていると感じています。

顧客の声が商品開発の源泉 現場起点の価値創造

ーー貴社の事業における競合優位性についてお聞かせください。

佐藤恒徳:
金融、流通、通信といった各事業部で、お客様の実務者レベルの方々を集めた「ユーザー会」をきめ細かく開催している点です。他社にもユーザー会はありますが、その多くは経営層を接待するような場になりがちです。

弊社の場合は、現場の担当者同士が業務上の課題や工夫を本音で話し合える場を提供しています。たとえば、ある銀行の方が「業務でこういう困りごとがある」と話せば、別の銀行の方が「うちはこう解決した」と知恵を出し合う。こうした「現場のリアルな口コミ」が生まれる場を継続的に提供できている会社は、他にはほとんどないと考えています。

ーーユーザー会は、事業にどのような好循環を生んでいますか。

佐藤恒徳:
1998年に私が復帰したころ、ある会の参加者はわずか8社ほどでした。しかし、地道に23回と回数を重ねてきた結果、昨年は80社ほどが集まり、定員オーバーになるほどの盛況ぶりでした。

この会で交わされるお客様の生の声は、商品開発の重要なヒントになります。現場の課題を次の製品に反映させることで満足度が高まり、それがまた新たな口コミを生むという「いいスパイラル」ができています。製品単体で見れば競合はありますが、私たちは製品だけでなく、お客様同士が学び合える「場」という価値を提供できていることが、最大の強みです。

暮らしを守る新サービスと地域社会への「恩返し」

ーー近年、個人向けサービスに挑戦された背景について教えてください。

佐藤恒徳:
新サービスであるデジタル版エンディングノート「デジシェア」の提供を開始しました。万一の際、家族にスマートフォンのパスワードやサブスクリプション契約といったデジタル情報を安全に引き継ぐための仕組みです。

これまで弊社が個人向けのアプリを自社で直接提供することはありませんでした。しかし、金融分野で培った高いセキュリティ技術を応用すれば、人々の暮らしにおける不安を解消し、社会に貢献できると考えたのです。自分たちの仕事で社会を変えていけることを、社員にも実感してほしいという思いもあります。

ーーIT企業の枠を超え、農業支援や地方創生にまで取り組まれているのはなぜでしょうか。

佐藤恒徳:
1つは、ものづくりの原点を見つめ直すためです。社員自ら田植えや野菜の栽培を行い、ITセンサーを活用して成長を可視化する実証実験も兼ねています。良いものをつくり、誰かに喜んでいただくという「ものづくりの魂」を忘れないための取り組みです。

また、地方創生も弊社にとって重要なテーマです。弊社は長年、全国の地方銀行様に支えられて成長してきました。だからこそ、経済が東京だけで完結するのではなく、地域社会に利益が正しく循環し、豊かさが広がる仕組みを構築したいと考えています。ITの力で地域の課題を解決し、恩返しをしていくことが私たちの使命だと考えています。

ITで暮らしを支える「生活必需品」のような存在を目指して

ーー5年後、10年後、会社をどのような存在にしていきたいですか。

佐藤恒徳:
派手でなくても、気がつけばみんなの生活を支えている「生活必需品」のような会社になりたいです。そのためには、自社だけで完結するのではなく、多くのパートナー企業と連携し、市民の暮らしを支える強固なプラットフォームを構築していきたいと考えています。自分の仕事が社会を変えていける、そう社員が実感できる会社を目指します。

ーーそのビジョンを実現するための具体的な取り組みを教えてください。

佐藤恒徳:
会社のことをより深く理解していただくため、さまざまな活動に取り組んでいます。たとえば、スポーツイベントへの協賛や、小学生向けのプログラミング大会の協賛です。単に知名度を上げるのではなく、社会貢献活動を通して、私たちがどのような思いを持つ会社なのかを伝えていきたいと考えています。

また、中学生の職場体験も毎年受け入れています。参加してくれた生徒には、数年後に当時の体験を振り返る「デジタルタイムカプセル」を送る計画です。こうした長期的な視点での人と人とのつながりを大切にしています。

楽しむ文化を次世代へ 未来を担う人材へのメッセージ

ーー最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。

佐藤恒徳:
「仕事はもちろん、社内の環境や社外でのボランティア活動まで、あらゆることを楽しんでみませんか」と伝えたいです。弊社には社員が楽しめる環境を整えていますが、もし足りないものがあれば、自分たちでつくればいいと考えています。

以前、海外視察へ行った際に、現地の若者たちが自信を持って生き生きと行動している姿に強い刺激を受けました。これからの時代、日本を活気づけるためには、自ら仕事や環境を楽しみ、主体的に行動することが何より大切になるでしょう。

私たちは、社員一人ひとりが自信を持って、いきいきと働ける会社でありたいと思っています。もし、私たちの考えに共感してくれる方がいれば、ぜひ一度、弊社の活動をのぞいてみてください。

編集後記

一度は会社を離れながらも、強い意志を持って復帰し、トップまで上り詰めた佐藤氏。同氏が実行した情報公開やオフィス刷新の真の狙いは、組織の「情報格差」という壁を取り払い、全社の一体感を醸成するという根源的な意識改革にある。この透明性こそが、信頼に基づいた組織へと変貌させる抜本的な変革の第一歩であった。顧客と共に製品を育てる現場主義を貫き、社会を支えるプラットフォームを構築していく同社の飛躍が楽しみだ。

佐藤恒徳/1998年、アイティフォーに入社。事業の中核である金融機関向けシステム事業において、主に地方銀行を対象とした多数のシステム開発と販売で事業を牽引し、事業部長を歴任。2019年代表取締役社長、2025年代表取締役会長に就任。