※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

「食」の専門家ネットワークを強みに、総合人材サービスを企画から実行・分析まで一気通貫で展開する株式会社ABCスタイル。同社は「食」を単なるコンテンツではなく、人と人・企業と人をつなぐ基盤である「コミュニケーションのインフラ」と捉え、大手食品メーカーや調味料メーカーの人材支援やマーケティング支援、官公庁の食を軸としたプロモーション設計・実行、輸出促進事業等、食の領域で多岐にわたる事業を手掛けている。

その舵取りを担うのが、代表取締役社長の田丸玲奈氏である。新卒で入社したグループ会社で頭角を現し、20代で単身海外へ渡り、海外法人の立ち上げなどゼロから事業を築き上げた。日本への帰国後、同社の社長に就任し、「第二創業期」を牽引する同氏。経営に込めた信念とは何か。グループ全体に前向きな影響を与え、可能性を広げながら、ともに成長していく存在を目指す、、その情熱の源泉に迫る。

退職相談から即日の海外赴任へ 本能で選んだ「経営者修行」の始まり

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのですか。

田丸玲奈:
新卒で株式会社ABC Cooking Studioに入社しました。もともと料理をすることも食べることも大好きで、栄養士の短大を卒業し、料理研究家を目指していたのですが、現実的な条件面などを考え、企業への就職を決めました。当時は料理教室を事業として展開している企業が、ABC Cooking Studio以外あまり目立つところがなく、ABC Cooking Studioの理念に共感し、入社した形です。入社後は、料理講師兼営業として、生徒様を増やすためのコンサルタント業務を担当していました。

ーー入社5年目で海外へ行かれたそうですが、どのような経緯だったのでしょうか。

田丸玲奈:
もともと独立したいという思いがあり、退職を考えて人事部に相談したのがきっかけです。すると、その場で「一度、中国へ行ってみないか」と予想外の提案をされました。「経営の勉強にもなるし、良い経験になるはず」という言葉に、直感的な楽しさを感じたのを覚えています。

その後、昼休みに父へ電話で相談したところ、「行ってきたら」と即座に背中を押してくれました。ランチを終えてオフィスに戻る頃には、すでに行くことを決意していましたね。

ーー言葉もわからない環境での挑戦は、どのようなご経験でしたか。

田丸玲奈:
中国を皮切りに、香港やシンガポール、タイなど、海外で約7年半働きました。特に香港以降は、雇用契約書を現地の法律に合わせてつくるところから始めるなど、まさにゼロから事業を立ち上げる経験でした。現地のブランドイメージがない国で「ABC Cooking Studioがどういう会社で、これから皆さんと一緒にどう成長していきたいか」を伝え、仲間を集めるのが最も困難でした。価値観も法律も全く違う環境で、見よう見まねで必死に考え、行動する毎日でした。

スタッフの採用から制度作り、商品開発など、どの国でもゼロからイチを作り上げる業務の連続でした。ABCを全く知らない、日本での当たり前が通用しない場所で、どうしたら店舗を成功させることができるのか・・・現地スタッフとのコミュニケーションを大切にしながら仕事に励みました。言語や文化が異なっても、同じ目標があれば、根気強くコミュニケーションをとれば、必ず成功します。大切なのは成功するまで、決して諦めないこと。最後の踏ん張りでいい意味で意地を張れるか、またどんな状況でも活路を探し、責任を全うすることで自分の成長率が違うと思っています。

グループ会社全体の可能性を広げ、同社の第二創業期を率いる覚悟と事業の核

ーー日本に帰国後、現職に就かれた経緯についてお聞かせください。

田丸玲奈:
帰国した際、グループ会社の新規事業に携わるか、当時グループで一番小さかった弊社の立て直しに携わるかという2つの選択肢がありました。私は迷わず弊社を選びました。大きな組織ですでにでき上がった仕組みの中にいるよりも、小さな組織を自分の力で盛り上げていく方がやり甲斐があると思ったのです。

自分の強みである採用や人材育成を活かしてこの会社を成長させることが、結果としてグループ全体への貢献につながると考えました。弊社が飛躍することで、「食」が好きな方々には活躍の場を広げ、同時に企業様や官公庁様には人材の活用を通じた課題解決の提案ができる存在でありたいと考えています。

ーー社長に就任後、まず何から着手されたのでしょうか。

田丸玲奈:
私が就任した当時の弊社は、組織図上は独立していても、実態としてはグループ会社の一部門のような役割にとどまっていました。そのため、まずは「自ら価値を生み出す独立した組織へ変わろう」という方針を社員に明確に伝えたのです。

これまではグループ会社の集客力や既存の枠組みに頼る部分が大きく、どうしても受け身の姿勢が目立っていました。しかし、コロナという先行き不透明な状況下で生き残るためには、自分たちの足で能動的に動き、独自の事業を拡大させていく力が必要です。

そこで、2019年を「第二創業期」と位置づけ、既存の顧客層以外にも自ら販路を広げていく体制づくりに着手しました。自分たちの足で立ち、独自の価値を提供できる強い組織へと生まれ変わるための、大きな転換点を迎えた瞬間でした。

ーー改めて、貴社の事業内容と独自の強みについて教えてください。

田丸玲奈:
弊社は人材事業・広告プロモーション事業・ウェルネス事業・新規事業の4事業を展開する、食の総合サービス会社です。料理講師や、フードコーディネーター、管理栄養士、看護師まで、約2万4000人もの「食の専門家」が登録していることが最大の強みで、人材事業ではこのネットワークを活かし、大手食品・調理家電メーカーなどに対して、人材派遣や紹介などのサービスを提供しています。食に関心の高く、情熱のある方が夢中になって自分らしく働く機会を創出するべく、人材コーディネーターが日々マッチングに尽力しています。

広告プロモーション事業では、リアル(料理教室、試食体験等)とデジタル(WEBサイト、SNS運用)のミックスで、企業様の商品のファンの醸成や、特産品をフックとした地方創生をサポートしています。フードカメラマンや調理スタッフなどの専門性の高い撮影チームによる、クライアントの商材に最適なスチール撮影・動画の作成、総フォロワー約100万人の食卓アレンジメディア「おうちごはん」での記事作成やSNS投稿・広告制作など、効果的な拡散力を実現しています。

また、日本の魅力的な商品を海外の方々にも知っていただくための海外進出を支援する輸出促進事業にも力を入れています。具体的には商談会、ミクロマーケット調査、海外デジタルマーケティング、現地PRイベントの実施のサポートをさせていただいています。ウェルネス事業では実践的な食の知識を学べる日本ヘルシーフード協会の運営サポート。新規事業は、食のものづくりのOEMコンサルをしています。フードロスを削減するための商品開発や、海外向け商品のプロデュース・ブランディング。レシピ・商品開発から工場選定、販路開拓、プロモーションサービスまでお手伝いする完全伴走型の事業です。

前述した食のプロフェッショナルとのネットワークも大きな強みですが、人材・マーケティング支援等を企画から実行・分析まで一気通貫でできる弊社の大きな強みになっていると思います。

ーー事業の根幹にある考え、価値観について詳しくお聞かせいただけますか。

田丸玲奈:
「食」は老若男女問わず世界中の人と関係を築くことができるコミュニケーションツールです。ですので、弊社では「食はコミュニケーションのインフラ」と考えています。食を単なるグルメコンテンツとしてではなく、人と人、企業と人をつなぐコミュニケーションの基盤だと捉えているのです。

たとえば、クライアント企業の新商品のプロモーションを支援する際も、ただ商品を売るのではなく、料理や食事という体験を通して、企業と生活者の間に豊かなコミュニケーションを生み出すことを目指しています。これが私たちの提供する独自の価値です。私たちが日本と世界をつなぐ架け橋となり、食卓を通して世界中に笑顔を届けることができるよう、走り続けたいです。

果敢に挑戦し続ける原動力

ーーさまざまな環境で挑戦を続ける、その原動力は何なのでしょうか。

田丸玲奈:
私は昔から好奇心が強く、また悔しさをバネにするタイプです。社会や海外に出れば理不尽なことやカルチャーギャップに直面する場面はたくさんあります。そのたびに「この経験を糧にしたい」と奮起する気持ちが、私を突き動かす大きなエネルギーになってきました。また、常にフラットな視点で人の可能性を信じ、好奇心で世界を広げていきたいと思っています。

こうした姿勢の根底には、両親の影響があると感じています。母からは一貫して「人生は死ぬまで修行であり、徳を積みなさい」と言い聞かされて育ちました。そのため、困難な状況に直面しても「今は修行のときなのだ」と前向きに捉えることができています。また、父が朝から晩まで楽しそうに働く姿を見てきたこともあり、私にとって仕事とは、本来とても楽しいものなのです。

幼少期は、「信号機が緑色なのになぜ青と呼ぶの?」と疑問を繰り返すような子どもでした。今も、常識を疑い、物事の本質を問う姿勢は変わっていないのかもしれません。日々の修行を通じて徳を積み、誰かの心を動かす感動をつくること。それが、私の挑戦し続ける理由です。

日本の食の未来を拓く「食の駆け込み寺」が目指す姿

ーー組織としては、どのような会社を目指していますか。

田丸玲奈:
一緒に働くみんなが「ABCスタイルで働いているんだ」と周囲に胸を張って誇りをもって、話したくなるような会社にしたいです。こうした思いの背景には、次世代の育成への強い意欲もあります。自分自身がABC Cooking Studioに新卒で入社して、若いうちから任せてもらいながら、チャレンジできる環境があったことにとても感謝しています。

ABCは、やる気があれば、様々な仕事にチャレンジさせてくれる環境が整っています。海外勤務というキャリアチェンジができたのも、会社が新しい挑戦のチャンスを与えてくれたことがきっかけです。中国語も英語も満足に話せない私が大丈夫なのかという不安はもちろんありましたが、海外への好奇心と新しいことを勉強したいという気持ちでチャレンジを決めました。

また弊社では、実際に今年、メンバーが独立する予定です。このように弊社からどんどん人が育ち、社会で活躍していくことは、私にとって大きな喜びです。

さらに、香港やシンガポールなどの海外拠点で多くの女性役員を目の当たりにしてきた経験から、女性がリーダーとして活躍することは当然であると考えています。今はまだ私が「女性経営者」として目立ってしまうこともありますが、将来的にはそんな特別視さえされなくなるような、誰もが当たり前に挑戦できる社会を、この組織からつくっていきたいと考えています。

ーー今後の事業成長に向けた展望や、その実現のための具体的な構想についてお聞かせください。

田丸玲奈:
「食のことで困ったらABCスタイルに相談すれば解決できる」と言われるような、業界の駆け込み寺のような存在を目指しています。現在は国内マーケットのご支援が7割を締めますが、今後はグローバル向けの輸出支援もさらに積極的に取り組んでいきます。食材や調味料のファンづくりといった課題に対し、弊社のノウハウと人材で貢献できる領域は非常に大きいと確信しています。現在、海外向けのご支援は全体の3割程ですが、国内の人口減少に伴い、胃袋の数は減っていくことを想定し、今から着実に日本の魅力的な商品を海外向けに輸出をしていくことが、結果国内の産業の永続に繋がると思っています。

そのために輸出の入口から、出口戦略までを一貫した設計が必要です。私たちは、輸出前のブランディング設計から、現地での体験設計、販促、デジタル活用、コミュニティ形成まで、“点”ではなく“面”で伴走できる存在でありたいと思っています。また輸出はゴールではなく、その国で商品が根づき、愛され、選ばれ続けることが大切で、そこまでやって初めて、本当の成功だと考えています。

そして私たちは、単なる支援会社ではなく、“食の可能性を拡張する存在”でありたいと考えています。生産者様、メーカー様、自治体様、そして生活者。それぞれが点で存在するのではなく、ストーリーでつながる設計をすること。私自身もAIは大好きですが、人とAIを上手に掛け合わせながら、それぞれの強みを最大化すること。そこに私たちの役割があります。食は、毎日のこと。だからこそ、経済にも、文化にも、家族にも、未来にも直結しています。

国内市場が縮小していくと言われる今だからこそ、日本の食の価値を世界へ届けることは、挑戦であると同時に責任でもあると思っています。私たちは、「売る」だけではなく、「好きになってもらう」ことをつくる会社です。人の心が動けば、行動が変わる。行動が変われば、市場が動く。食卓から、日本の未来を動かす。そんな覚悟で、これからも挑戦を続けていきます。

編集後記

20代で単身中国へ渡り、ゼロから組織を築いた経験は、田丸氏の言葉に強い説得力を与えている。特筆すべきは、グループ会社の一部門という安定を手放し、自走する組織へと進化を促し、主体性あふれる集団へと組織を導いた決断力だ。困難を「修行」と捉え、誰かの心を動かすことに情熱を持って貫く姿勢が、組織の未来をつくっている。すべては「食を通じて世界中に喜びと感動を」という価値を届けるための布石だ。同社の挑戦は、これからも加速し続けるだろう。

田丸玲奈/1987年大阪府生まれ。品川女子学院卒業。2008年昭和女子大学短期大学部食物科学科を卒業。その後株式会社ABC Cooking Studioに入社。中国エリアマネージャーを務めた後、2013年に香港へ渡る。ABC Cooking Studio Worldwide Ltdにて香港・シンガポール・タイの地域統括マネージャーを経て、2015年にABCCooking StudioHongKong Limited 取締役社長に就任。2019年、株式会社ABCスタイル取締役に就任し、2022年より代表取締役社長を務める。弊社プレスリリースはこちら