
「歌舞伎町No.1」という華やかな経歴を持ちながら、アパレル、美容クリニック、スキンケアなど多角的な事業を展開し、経営者として10年以上のキャリアを積み重ねてきた愛沢えみり氏。創業以来、広告費をほとんどかけずにSNSの力だけで事業を拡大させてきた手腕は、一見すると天性のカリスマ性に依存しているように見える。しかし、その裏側にあるのは、感情をコントロールすることで見出した合理性と徹底した逆算思考、そして地味な実務の積み重ねだった。かつての感情型経営から脱却し、組織としての強さを模索する愛沢氏に、変化の理由と経営の核心をうかがった。
期待しないからこそ組織は強くなる 「脱・感情経営」への転換
ーー会社を立ち上げてから現在に至るまで、ご自身の中で最も変わったと感じる点は何ですか。
愛沢えみり:
一番の変化は、感情的にならなくなったことですね。以前は「会社を大きくしたい」という熱量だけで走っていて、かなり感情型の経営をしていました。でも、出産を経て子どもと接する中で、考え方がガラッと変わったんです。言葉が通じない子ども相手にイライラしても、お互いに疲れるだけで何も解決しませんよね。会社も同じで、感情をぶつけても組織は回らない。この1年ほどで、いかに感情を抑え、合理的に進めるかを重視するようになりました。男性経営者に多い、論理的でルールに基づいた組織づくりの重要性に、ようやく気づいた感覚です。
ーー具体的に、スタッフとの接し方やマネジメントはどう変わりましたか。
愛沢えみり:
人に期待しないようになりました。これは冷たい意味ではなく、自分の価値観を押し付けないということです。昔はスタッフが失敗すると、「なぜできないのか」「もっと頑張れば幸せになれるのに」と自分の物差しで相手を責めてしまうことがありました。でもそれは結局、うまくいかない原因を相手に求める他責思考でしかなかったんです。
今は何か起きても、いったん事実だけを受け止めます。まずは理由を聞き、仕組みで解決できるならルールを変える。やる気がないなら、それはその人の人生だからと割り切る。他人に過度な期待をせず、矢印を自分に向けて、「自分が変わるしかない」と考えるようになってから、私自身もスタッフもすごく楽になりましたし、組織としても円滑に回るようになりました。
「なりたい自分」への逆算と「好き」と「勝算」を両立させる事業選択
ーーこれまでのキャリアを支えてきた、ご自身の原動力は何でしょうか。
愛沢えみり:
思い込みの力はすごく強いと思います。私は昔から「こうなりたい」という未来の自分を明確に決めて、それをノートに書き出す習慣があります。「なれるかな?」ではなく「なるんだ」と決め込んで、そこから現在に逆算してやるべきことを全部やる。そうすれば、絶対になれると信じているんです。
ーー経営者として特に意識して取り組んでいることはありますか。
愛沢えみり:
やはり現場を見ることですね。実は今でも、デザインの細部チェックから在庫管理といった地味な実務まで、私自身がかなり関わっています。名前貸しだけのビジネスでは絶対に長続きしないと考えているからです。
一方で、これまでは「愛沢えみり」という個人のマンパワーと私が頑張ればいいというプレイヤー気質に頼りすぎていた部分も否めません。経営者として結果を出し続けるには、自分一人ではなく組織として勝つ必要があります。だからこそ、今は自分の感情や直感だけでなく、市場調査やシミュレーションを徹底し、「好き」と「勝算」が重なる部分で勝負するようにしています。
広告費ゼロで勝つ「察する力」と理想の組織像

ーー貴社の最大の強みは何だとお考えですか。
愛沢えみり:
創業以来、広告費をほぼかけずにここまできたこと、これに尽きると思います。これはキャバ嬢時代に培った「相手のニーズを察する力」が、今のSNSマーケティングにもそのまま生きているからです。画面の向こうにいる人が何を求めているのか、どう伝えれば響くのかを常に考え、適切なボールを投げる。その結果として売上が立つわけです。
ただ、これからは「愛沢えみり」がいなくても自走できるブランドをつくっていきたい。属人化している部分をどう解消し、ブランド自体に力をつけさせるかが現在のフェーズだと考えています。
ーーそのために、どのような事業戦略を描いていますか。
愛沢えみり:
あえて難しい道を選ぶようにしています。たとえば、美容事業ならエステサロンの方が参入障壁は低いですが、私はあえて医療機関との連携が必要なクリニックや、エビデンスに基づいたスキンケア開発を選びました。誰でもできることは、すぐに真似されますし、信頼も積み上がりません。形成外科の専門医と提携し、本当に質の高いものを提供する。そして、一度始めたら簡単にやめるという選択肢を持たず、信念を持って継続する。そうした「本物」へのこだわりと継続の信念こそが、インフルエンサーブランドという枠を超えて、長く愛される事業になると信じています。
ーー今後のビジョンと、求める人材像について教えてください。
愛沢えみり:
かつては売上高100億円といった数字を追っていましたが、今は考えが変わりました。目指しているのは「豊かな会社」です。それは単に利益が出ているだけでなく、働いているスタッフ一人ひとりが精神的にも経済的にも満たされている状態のことです。
そういう意味で、これから一緒に働く人には「自分の人生をどうしたいか」を持っていてほしいですね。会社のためではなく、自分の人生を豊かにするために、うちの会社を利用してほしい。指示を待つのではなく、自分の頭で考え、失敗を恐れずに挑戦できる人であれば、私から細かく教えるまでもなく、自ら成長し、大きな成果を出してくれると信じています。
編集後記
「キャバ嬢社長」というパブリックイメージとは裏腹に、愛沢氏は驚くほど冷静で、俯瞰的な視点を持っている。「人に期待しない」という一見ドライな言葉は、冷徹さではなく、組織と人を守るための同氏なりの優しさなのかもしれない。研ぎ澄まされた合理性と、現場の細部まで目を通す圧倒的な行動量。この二つを武器に、同氏が次にどのような常識を覆してくれるのか。その飛躍が楽しみだ。

愛沢えみり/1988年横浜市生まれ。2007年の高校卒業と同時にキャバクラ嬢としてのキャリアをスタート。2011年には歌舞伎町でNo.1の座を獲得し、雑誌「小悪魔ageha」に登場するなど一時代を築く。現役時代の2013年にアパレルブランドをローンチし、キャバクラ嬢として史上初めてファッションショーのランウェイを歩くなど、業界の常識を覆す活動を展開。2014年に株式会社VOYAGEを創業。2019年にキャバクラ嬢を引退後は、実業家としての活動を本格化。現在は複数事業を経営する傍ら、インフルエンサーとしても精力的に情報を発信し、多くの支持を集めている。