※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

「和」の空間で楽しむ生パスタという独自のスタイルを確立し、国内のパスタチェーンとして確固たる地位を築いてきた株式会社鎌倉パスタ。2030年には、売上高250億円程度を目指し、さらには「日本の生パスタ」を世界へ広めるべく海外進出も視野に入れている。順風満帆な同社だが、かつてはコロナ禍で窮地に陥り、組織改革を行なった経緯がある。現場からの叩き上げでトップに上り詰め、毎朝全店舗のアンケートに目を通すという徹底した現場主義を貫く代表取締役社長の齋木健作氏に、組織変革の裏側と今後のビジョンについて詳しくうかがった。

「市場調査はいらない」現場で学んだ商売の原点

ーーまずは、貴社に入社された経緯からお聞かせください。

齋木健作:
私がサンマルクグループに入ったのは、飲食業への興味というよりも、創業者の徹底した現場主義や経営哲学を学びたいという思いがきっかけでした。当時、グループが新しいパスタ業態を立ち上げようとしており、その求人を見て「新規事業の立ち上げに携わることで、経営の神髄が学べる」と懐に飛び込んだのが始まりです。入社当時はまだグループ全体でも20店舗ほど。私は四国の高松に配属されたのですが、異業種からの転身で右も左も分からない状態でしたが、配属先には社員は私一人だけ。入社早々に店長を任され、無我夢中で店舗運営に取り組む日々がスタートしました。

ーー現場でどのようなことを学びましたか。

齋木健作:
最も学びになったのは、お客様の反応の速さとその重要性です。良いサービスをすればその場で「ありがとう、また来るね」と喜んでいただけるし、失敗すればその場でお叱りを受ける。これほどダイレクトに市場の反応が得られるビジネスは他にないと感じました。一般的に企業はコストをかけて市場調査を行いますが、店舗にいれば目の前にお客様の反応という「答え」があるのです。その成功と失敗の体験を積み重ねることで、「何がお客様に喜ばれるのか」という感覚が磨かれました。この現場での原体験は、社長になった今でも私の判断基準の根幹にあります。

コロナ禍で見えた「大企業病」からの脱却

ーー社長就任時の心境についてお聞かせください。

齋木健作:
就任直後にコロナ禍に見舞われ、これからという時に営業停止を余儀なくされ、数億円規模の売上高が蒸発する事態となりました。しかし、不謹慎に聞こえるかもしれませんが、私は社内に向けて「これは変わるための好機だ」と伝えていました。というのも、当時の弊社は順調に成長していた反面、組織全体に大企業病のような空気が蔓延していたからです。「会社がなんとかしてくれる」「マニュアル通りにやっていればいい」という依存心が強く、自分たちで考える力が弱まっていました。

ーー営業停止などの未曾有の事態は、社員の方々の意識にどのような変化をもたらしましたか。

齋木健作:
当たり前のように店を開け、給料がもらえる環境が、実は当たり前ではない。そのことを全社員が痛感したはずです。「自分たちの仕事がなくなるかもしれない」という危機感を持ったことで、一人ひとりのマインドが劇的に変わりました。この期間に改めて「自分たちの存在意義は何か」「お客様に選ばれるために何をすべきか」を徹底的に議論し、組織の足腰を鍛え直すことができました。あの苦しい期間があったからこそ、今の強い組織があると考えています。

「生パスタ」を軸に広がる多彩な挑戦

ーー改めて、貴社の強みについて教えていただけますか。

齋木健作:
最大の強みは、やはり生パスタとパンの食べ放題を和の空間で提供する独自のスタイルです。乾燥パスタとは違うモチモチとした食感の生パスタを、気軽に楽しんでいただく。この価値を追求し、国内シェアNo.1の地位を確固たるものにしたいと考えています。一方で、『鎌倉パスタ』だけではカバーしきれないニーズに応えるため、新業態の開発にも力を入れています。

ーー具体的にはどのような業態でしょうか。

齋木健作:
たとえば、フードコートやオフィス街に向けた『てっぱんのスパゲッティ』や、出汁にこだわったパスタと甘味でカフェ需要も取り込む『おだしもん』などです。『鎌倉パスタ』の出店基準には合わない立地やシーンでも、こうした多様なブランドを用意することで、パスタ市場全体のシェアを拡大し、より多くのお客様にアプローチできる体制を整えています。

365日欠かさない「お客様の声」のチェック

ーー今後の展望についてお話しいただけますか。

齋木健作:
具体的な数値目標はお伝え出来ないのですが、2030年には売上高250億円程度を目標にし、国内での圧倒的なNo.1シェアを獲得したいと思っています。その暁には、日本の生パスタ文化を「ジャパニーズ・パスタ」として世界、特に北米で展開したいという夢があります。

ーーその実現のために、日々の業務で大切にされていることはありますか。

齋木健作:
「お客様の声を毎日聞くこと」です。私は365日欠かさず、毎朝一番に全店舗のお客様アンケートすべてに目を通しています。お叱りの言葉があればすぐに改善を指示しますし、逆にお褒めの言葉があれば、その店舗とスタッフを全力で称賛します。既存店の売上高を上げるために、特別な魔法はありません。来店されたお客様に満足していただき、また来ていただく。その積み重ねだけです。お客様の声という「生きた情報」を経営の最上位に置くことで、現場との距離を縮め、常に改善し続ける組織でありたいと考えています。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

齋木健作:
食のビジネスの面白さは、自分の「やりたいこと」や「欲しいもの」を形にできる点にあります。自分が思い描いた空間やサービスで、目の前のお客様が笑顔になる。これほど自分事として情熱を注げる仕事はそう多くありません。弊社はこれからも成長を続けますが、それは会社という箱が大きくなるだけではありません。社員一人ひとりが自分のパッションをぶつけ、理想を具現化できるフィールドが広がるということです。自らの意思で未来を切り拓きたい方と、ぜひ一緒に新しい価値を作っていきたいですね。

編集後記

「ピンチは好機」。コロナ禍という未曾有の危機を振り返り、そう言い切る齋木氏の言葉には、逆境すらも糧にする強靭な経営マインドが表れていた。365日欠かさず顧客の声に向き合い続ける姿勢は、規模が拡大してもなお、顧客と現場を最優先にする同社の姿勢を象徴している。国内No.1から世界へ。「日本の生パスタ」が海を渡る日は、そう遠くないかもしれない。

齋木健作/岡山県出身。サンマルクグループの創業者・片山氏の理念に惹かれ、飲食業未経験ながら新規事業立ち上げに携わるべく2007年に株式会社鎌倉パスタへ入社。現場運営を経験し、立ち上げや既存店教育、メニュー開発など幅広い業務を担当。その後、執行役員として全体統括を担い、店舗数拡大と組織づくりに貢献。2020年4月より同社代表取締役社長へ就任。2023年11月より株式会社倉式珈琲代表取締役社長兼任、株式会社サンマルクホールディングス吸収合併に伴い、2024年4月株式会社サンマルクホールディングス 倉式珈琲事業部 事業部長兼任。