※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

創業以来、IT業界の荒波を乗り越え、売上高200億円規模へ急成長を遂げている株式会社フィジオ。同社は今、最先端の「AI技術」と「コンサルティング」を融合させた独自の地位を築いている。しかしその裏側にあるのは、徹底したデジタル戦略だけではない。「関わるすべての人を喜ばせたい」という、代表取締役野村玄吾氏の人間臭い経営信念だ。「葬式で泣いてもらえる生き方がしたい」と語る野村氏に、組織拡大の秘訣とAI時代における「人間力」の重要性をうかがった。

「全力で楽しむ」ことが周囲を幸せにする源泉 200億円企業を支える独特な経営哲学

ーーまずは、経営の原点についてお聞かせください。

野村玄吾:
きっかけは小学生の頃に遡ります。祖父の葬儀での出来事が強烈な体験として残っているんです。葬儀後の席で集まった100人ほどの人たちが、皆でお酒を飲みながら祖父の思い出を語り合って、最後に全員が祖父を惜しんで涙を流していたんです。「人は亡くなったときに、こんなにも愛され、惜しまれる存在になれるのか」と子ども心に衝撃を受けました。

そのあと、卒業文集に「社長になりたい」と書きました。それは権力が欲しいとかお金持ちになりたいということではなく、「自分の葬式で大勢の人が泣いてくれる人がいるような、そんな人生を送りたい」と考えたとき、その理想を叶える存在として「社長」という職業が心に浮かんだのです。だからこそ私の経営の根底にあるのは、技術力や利益よりも先に、「人としての徳」や「愛されること」なんです。

ーーその経験は、経営スタイルや人生観にどのような影響を与えているのでしょうか。

野村玄吾:
私は「人は幸せになるために生まれてきている」と本気で思っています。だからこそ、まずはトップである私自身が誰よりも人生を全力で楽しんでいないと、社員もお客さまも幸せにできないという思いがあります。よく「社長は孤独だ」なんて言われますが、私は殆ど孤独を感じたことがありません。すべての事柄を相談できる幹部たちと日々を過ごしていますし、お客様や幹部たちとゴルフに出かけたり、毎晩のようにお客様や経営者仲間や社員の誰かと食事をしています。仕事とプライベートの垣根がまったくないんです。私が全力で楽しんで、感動したお店やゴルフ場にお客さまをお連れする。「これ、食べたことないんですけど美味しいらしいですよ」とお誘いするより、「食べて本当に感動したから一緒に行きましょう!」と伝える方が、相手にも響きますよね。そうやって相手を喜ばせ、ファンになってもらうことが、巡り巡って仕事の成果にもつながっていると感じています。

ーー経営者としての「実務能力」については、ご自身でどう評価されていますか。

野村玄吾:
謙遜ではなく、事実として私は自分のことを優秀だとは思っていないんです。プライドがないと言ってもいいかもしれません。でも、目の前の人は自分よりも優秀だと素直に認められることは、実は最強の武器なんじゃないかと最近思っています。自分より優秀な人がいれば、「すごいですね、助けてください」と素直に頭を下げて力を借りることができます。変なフィルターを通さず、すごい人をすごいと認められるから、優秀な人材が私の周りに集まってくれる気がしてます。

現在、弊社のナンバー2を務めている役員も、もともとは私より一回り以上年上で、素晴らしい経歴を持つ人物です。最初の面談の時は「あなたの事業プランは甘すぎる」と怒られましたが、最終的にはなぜだかわからないけど一緒にやってくれることになりました。「あなたには不思議と私が何とかしてあげないといけないと思わせる力がある」とある年配の社員にしみじみと言われたことがあります。ある種の運の強さこそが、私の唯一の才能かもしれません。

屈辱をバネに「下請け」から脱却 エンドユーザー直取引への転換点

ーー創業から順調に成長されてきたのでしょうか。

野村玄吾:
いいえ、大きな壁もありました。特にリーマン・ショックの時期は苦しかったですね。当時は大手メーカーの二次請け、三次請けの仕事がメインでしたが、不況の煽りを受けて仕事が一気になくなりました。新規開拓で飛び込み営業をしても門前払いの毎日。恐怖を感じると同時に、「このまま下請け構造の中にいてはダメだ。何とかしてエンドユーザーと直接取引をしなければ。」と痛感しました。

決定打となったのは、あるプロジェクトでの出来事です。3次請けで入っていたのですが、私達は何も問題を起こしていないにもかかわらず、ミスを犯した1次請けの担当の評価を下げたくないという理不尽な理由で「形だけでいいからエンドユーザーの前で自分たちがミスをしたと謝罪をしてくれ」と頭を下げることを強要されたことがありました。自分自身が頭を下げるのも悔しかったですが、それ以上に現場で必死に頑張っている社員たちの努力まで否定されたようで、どうしても許せませんでした。

ーーその悔しさを、具体的にどのような行動へと変えていったのですか。

野村玄吾:
その日の帰りの電車の中で、悔しさのあまり「どうすればこういった理不尽な目に会うことを回避できるか」をノートに100個くらい書き殴りました。そこで出た結論が「エンドユーザー(最終顧客)と直接取引をする」という数十項目に及ぶ戦術タスクです。間に誰も挟まなければ、理不尽な要求をされることもないし、私たちの技術や提案を正当に評価してもらえるはずだと考えました。

それから10数年かけ、現在では取引の7〜8割をエンドユーザーとの直接契約が占めるまでになりました。銀行や通信キャリア、不動産大手企業など、名だたる大手企業と直接膝を突き合わせて仕事ができるようになったのは、あの時の屈辱と、「社員を守りたい」という思いがあったからです。

「AIer」という独自の戦い方 顧客の悩みをAIで解決する技術者集団

ーー改めて、他社との違いや貴社の強みは何ですか。

野村玄吾:
私たちは今、「AIer」という言葉を掲げています。ただAI導入をお手伝いしたりするのではなく、お客様の経営課題やデータの状況に合わせて、最適なAIやIT技術を組み合わせて提供するビジネススタイルです。世の中には「AI導入支援」を謳う会社は山ほどありますが、その多くはツールを導入して終わりだったり、コンサルティングだけで実装ができなかったりします。しかし弊社には、お客様の業務を深く理解し、泥臭いデータの整理から、高度なAIモデルの構築、そしてシステムへの実装までをワンストップでやり切る力があります。

ーー具体的にどのような人材が活躍されていますか。

野村玄吾:
象徴的な例として、35歳の技術トップの役員がいます。彼は元々メーカー出身ですが、とにかくお客様への憑依力がすごい。初めてのクライアントとの打ち合わせ前には、その業界や業務内容を徹底的に勉強し、まるでその業界のコンサルかのように業務を理解した状態で臨みます。ある大手通信系企業のプロジェクトでは、彼をリーダーとしたチームはAIを使った自動発注システムや、コピー品サイトの検知システムなどを開発し、Yahoo!ニュースに取り上げられるほどの成果を出しました。

彼らは単にコードが書けるだけでなく、お客様が何に困っているかを本質的に理解し、逃げずにつくり切るという責任感を持っています。たとえば、すでに他社のコンサルが入っている現場で、彼はお客様のために「その施策は無駄です。私が改善して、その分コストを浮かせますよ」と臆せず提案し、実際に月々数百万円ものコスト削減を実現したこともあります。口先だけでなく、技術という裏付けを持って戦ってくれる姿勢が、お客様からの絶大な信頼につながっています。

ーー技術力だけでなく、「人間性」も同じくらい重視されているのでしょうか。

野村玄吾:
弊社のエンジニアは、技術オタクでありながら、非常に謙虚で誠実な人間が多い。「武士」のような精神性を持っていると言えるかもしれません。逃げずに最後まで戦う、裏切らない。派手なパフォーマンスはしなくても、任された仕事は確実にやり遂げる。そんな実直な強さを持つメンバーが揃っていることが、私の誇りです。

組織の壁を越える「人間関係」への投資 次世代リーダーの育成に向けて

ーー組織づくりにおいて、特に意識されているルールや文化はありますか。

野村玄吾:
少し変わっているかもしれませんが、弊社は「接待交際費や社員同士の交流に関する経費に対する制限」をあまり設けていません。もちろん無駄遣いはダメですが、本当に良い関係を築くための投資は惜しみません。私自身、ゴルフや会食を通じて多くのお客様と友達のような関係を築いてきました。仕事の枠を超えて、人間として好きになってもらう。そうして築いた信頼関係があれば、多少のトラブルがあっても「野村さんのところだから問題を最小限にするために何とか協力しよう」としてもらえたり、新しい取引先や仕事を紹介してもらえたりします。人に好かれることは、ビジネスにおいて最強の効率化ツールなんです。

ーー今後の課題や、注力していきたいポイントを教えてください。

野村玄吾:
急成長に伴い、組織の要となるマネジメント層の育成が急務です。技術力はあっても、人を動かす力や、組織をまとめる力はまた別のスキルが必要です。そこで今注力しているのは、若手社員向けの研修で、私が直接講師となって、社会人としての「生きる術」を教えようとしています。技術教育以前の、人間としてのOSをアップデートするようなイメージですね。研修を通じて、適性のある人間をいち早くマネージャーに抜擢していきたいと考えています。

また、今期の最優先事項として、ブランディングとマーケティングの強化を掲げています。これまでの「知る人ぞ知る実力派集団」から脱却し、「AIといえばフィジオ」と認知される企業へと変革を進めます。さらに事業面では、受託開発だけでなく、自社IP(知的財産)を保有したストック型ビジネスへの転換も視野に入れています。新たなサービス開発を通じて高収益化を図り、より盤石な経営基盤を築いていく挑戦を始めています。

ーー最後に、読者や求職者の方へメッセージをお願いします。

野村玄吾:
弊社は、日本でも稀なAIをビジネスソリューションに実装することができる業界の先端を走る技術力を持つエンジニアが在籍しています。また、技術が好きな人間を尊重し、トップエンジニアを本気で推す文化があります。AIやコンサルティングの領域で本物の実力をつけたい人にとって、これほど刺激的な環境はないはずです。

そして何より、弊社は「良い人」が圧倒的に多い会社です。能力だけでなく人柄を重視した採用を行っているため、社内の飲み会がこれほど盛り上がり、笑いが絶えないIT企業も珍しいのではないでしょうか。技術が好きで、誠実に仕事に向き合い、そして人生を全力で楽しみたい。そんな欲張りな方と、一緒に働けることを楽しみにしています。AI時代だからこそ、お客様とAIをつなぐ「人」の力が必要です。共に成長していきましょう。

編集後記

「社長の仕事は、長生きすることと人生を楽しむこと」。インタビュー中、野村氏は終始笑顔でそう語った。一見、豪快で破天荒な経営者のように見えるが、その言葉の端々からは、社員を守り抜くという強い覚悟と、人間という生き物に対する深い洞察が感じられた。最先端のAI技術を扱いながら、最も大切にしているのは「葬式で泣いてもらえるか」という究極のアナログな価値観。このギャップこそが、同社が多くの顧客を惹きつけ、200億円企業へと成長した原動力なのだろう。ストック型ビジネスへの転換やリブランディングなど、次なるステージへ向かう同社の快進撃から目が離せない。

野村玄吾/1973年東京都生まれ。神奈川大学卒業後、1996年株式会社ヨークプランニングに入社。約7か月間の営業職を経て、株式会社フィジオに入社。2001年同社代表取締役に就任。