
ウニ商社の老舗として知られる株式会社ニックスインターナショナル。チリ産ウニの輸入を中心に、近年では特許技術を活用した冷凍寿司の開発など、時代の変化に合わせた新たな食の価値創造に挑んでいる。プレイヤーとして現場を一筋に歩んできた高濱信也氏は、ある日突然、親会社から社長就任を告げられたという。経営者としての重圧と闘いながらも、商品開発における「ロジック」と「ストーリー」の重要性を説き、次なる飛躍を目指す高濱氏に、これまでの歩みと未来への展望をうかがった。
突然の社長就任 失敗から学んだ「専門性」への敬意
ーー社長に就任された経緯と当時の心境を教えてください。
高濱信也:
私はもともと百貨店や魚の問屋で長く鮮魚に携わり、縁あって親会社の株式会社アイ・ビー・シーに入社しました。プレイヤーとしてキャリアを終えるつもりでいたのですが、ある日突然、社長から「子会社の社長をやれ」と命じられたのです。まさに青天の霹靂でした。経営者になると、社員の家族の顔が浮かぶようになり、自分の判断一つで彼らの生活が左右されるという責任の重さを痛感しました。親会社から来た「外様の社長」ということもあり、最初は周囲の目も厳しく辛い時期もありましたが、親会社の社長と密にコミュニケーションを取りながら乗り越えてきました。
ーー就任後、組織の改革などで苦労されたことはありますか。
高濱信也:
当時の社内には、ウニ専門のチームとそうでないチームの間に見えない壁がありました。そこで、「ウニの会社なのだから、誰でも売れるようにしよう」と考え、一度組織の壁を取り払ってみたのですが、結果的にはこれが一番の失敗でした。ウニは非常にニッチな商品で、良し悪しを見極めて適切な売り先を見つける専門知識が求められる商材です。一朝一夕にはノウハウは身につかず、逆に売り上げを下げてしまったため、元の専門チーム体制に戻しました。歴史や経験に裏打ちされたプロフェッショナルたちの力には敵わないと学んだ出来事です。
ウニへのこだわりと特許取得の冷凍寿司 老舗の新たな挑戦

ーー主力事業である「ウニ」へのこだわりについてお聞かせください。
高濱信也:
弊社はウニ商社の老舗ですから、やはりウニが最大の武器です。品質には徹底的にこだわっており、毎年チリに社員を派遣し、2〜3ヶ月間現地に滞在して品質管理から改善指導までを行っています。そこまで緻密に入り込まないと、品質の差別化ができなくなっているからです。他社のチリ産ウニとは明確に違うという自信を持って進められるウニを目指し、昨年チリ産ウニのPBブランド「フィヨルドの雫」というブランドを立ち上げました。加工から管理方法までを徹底し、生ウニに食感が近く、長期保管しても劣化しにくい安定した味の冷凍ウニを開発しています。ある大手流通企業の厳しい品質基準もクリアし、お墨付きをいただきました。いたずらに販売量を増やすのではなく、本当によいものを分かってくださるお客様に届けていきたいと考えています。
ーー「ウニ」以外の新商品開発にも注力されていますか。
高濱信也:
自社工場にあるCAS凍結機(※)を活用し、「海鮮巻芯」や「冷凍寿司」の開発・販路拡大に力を入れています。特に「冷凍寿司」は、電子レンジで解凍してもご飯だけ温まり、ネタは冷たいままという独自の技術を開発し、特許を取得しました。開発に行き詰まっていたとき、机にあった空の容器を眺めていて「二重構造にしてその隙間に氷を張れば、ネタをガードできるのではないか」と閃いたのがきっかけです。
(※)CAS凍結:従来の冷凍技法による食品の凍結融解に伴う食味の低下を大幅に低減することを可能にした冷凍技術。
売れる「ロジック」と「ストーリー」知恵を絞り顧客との絆を築く
ーー商品開発やマーケティングにおいて大切にしていることは何ですか。
高濱信也:
私は常に「ロジック」と「ストーリー」を大事にしています。売れる商品には必ず売れる理由(ロジック)があります。そのロジックを背景に、品質へのこだわりをストーリーとして伝えることで、お客様に「美味しい」「間違いない」と感じていただけるのです。また、「必ずこういう需要があるはずだ」という仮説(ロジック)を持って開発しなければ、仮に売れなかったときにどこが間違っていたのかを検証できず、次に活かせません。また、形が悪く商品化できないウニを「ウニのクリームパスタソース」として生まれ変わらせるなど、食品ロスを減らしつつ新たな価値を生み出す企画も進めています。
ーー最後に社員の教育や組織づくりに対する考え方をお話しいただけますか。
高濱信也:
社員一人ひとりには、「やらされ感ではなく、常に興味や好奇心を持って仕事に取り組んでほしい」と伝えています。たとえば、取引先から難しい要望があったとき、「うちではできません」とあっさり断るのではなく、「やるためにはどうしたらいいか」を常に考える姿勢を持ってほしいのです。無理難題に見えることでも、知恵を絞って応えることができれば、お客様との間に「ニックスさん以外は選べない」という強固な絆が生まれます。そうやって壁を乗り越えることで達成感も得られますし、仕事そのものが面白くなってくるはずです。この考え方を大切にし、社員と共に会社をさらに成長させていきたいですね。
編集後記
青天の霹靂で経営の舵取りを任された高濱氏だが、その言葉の端々からは長年の現場経験に裏打ちされた魚への深い愛情と、自社製品に対する絶対的な誇りが感じられた。特許を取得した冷凍寿司の開発秘話や、「ロジック」と「ストーリー」に基づくマーケティング戦略など、直感に頼らず筋道を立てたビジネス展開が印象的だ。老舗の看板に安住せず、「どうしたらできるか」を問い続ける同社の挑戦は、これからも食卓に新たな豊かさを届けてくれるだろう。

高濱信也/1964年岩手県生まれ、東北学院大学卒。2013年に株式会社アイ・ビー・シーに入社。2019年に子会社である株式会社ニックスインターナショナル代表取締役社長に就任。