
大手企業を中心に、経営課題の解決につながる人材育成ソリューションを提供するアルー株式会社。同社は、ボストン コンサルティング グループ出身の代表が持つ知見を活かし、単なる研修提供に留まらず、各社の課題に深く寄り添う完全カスタマイズのプログラムを強みとしている。「わかる」だけでなく「できる」状態を目指す実践的なアプローチは、多くの企業から高い評価を得ている。教育を通じて人の「選択肢」を広げることをミッションに掲げ、創業から20年以上業界を牽引してきた代表取締役社長の落合文四郎氏に、経営の根底にある「継続」と「熟達」への思い、そしてアジアNo.1を目指す未来への展望を聞いた。
教育で「選択肢」を広げる アルー創業に込めた思い
ーーなぜ「教育」という領域で事業を立ち上げようと思われたのでしょうか。
落合文四郎:
少子高齢化によって労働人口が減少していく中、経済規模を維持・発展させるには一人ひとりの生産性を高めることが不可欠です。技術革新も重要ですが、それを生み出し活用するのは「人」です。人の成長を支える教育は、30年、50年という長いスパンで社会に不可欠であり、そこに大きな可能性があると感じたのがきっかけです。
教育とは、人に「選択肢」を提供する行為だと考えています。教育によって「できること」の幅が広がれば、人生の選択肢が増えます。そして、自分で選ぶという「自己決定」の感覚を持つことは、人生の充実感や幸福感に直結します。良い結果であれ、そうでなくとも、自分で決めたことなら受け入れられるからです。より多くの人に、より良い選択肢を提供し、自らの意思で人生を選べる人を増やしたい。それが事業を行う理由です。
ーー創業当時、既存の教育にはどのような課題を感じていましたか。
落合文四郎:
当時は、講師が一方的に話す座学スタイルが主流でした。しかし、講義を聴いて「わかる」ことと、ビジネスの現場で「できる」ことの間には大きな隔たりがあります。知識のインプットだけでは実践で活かせないという強い違和感がありました。だからこそ、私たちは「わかるとできるは違う」という前提に立ち、現場で使える成果にこだわる実践的な事業を志向しています。
実績ゼロからの挑戦 1日100件の電話が拓いた道
ーー創業から事業が軌道に乗るまで、特に大変だったのはどのようなことでしたか。
落合文四郎:
一番大変だったのは、最初のお客様を獲得することです。創業メンバー3人で1日100件のテレアポを続けましたが、実績がないことを理由に断られ続けました。最初の大手企業にご契約いただくまで約1年半かかりました。それでも続けられたのは、「やらなければ未来はつくれない」という強い思いがあったからです。野球と同じで、バッターボックスに立たなければ絶対にホームランは打てません。「打席に立ち続けること」が何より重要であり、その泥臭い現場主義と行動力が、現在の東証上場や海外展開の礎になっています。
ーー印象に残っているお客様とのエピソードはありますか。
落合文四郎:
あるメーカーの若手技術者が、海外派遣研修を機に異文化理解に目覚め、帰国後に語学を猛勉強してついには中国へ赴任されたことがあります。私たちの研修がきっかけで、その方のキャリアの扉が開き、選択肢が広がった。人の人生が変わる瞬間に立ち会えた時、この仕事の本当の醍醐味を感じます。
経営課題を解決する人材開発、コンサルティングとカスタマイズの神髄
ーーコンサルティングファームでのご経験は、現在の事業にどう活かされていますか。
落合文四郎:
前職では経営課題を扱っていました。その視点で見ると、人事の抱える「コミュニケーション不全」や「モチベーション低下」といった育成課題は、すべて「経営課題」と結びついています。単なる研修企画ではなく、経営課題からの逆算で「課題を解決する人材開発」を提案できる点が強みです。
ーー競合他社にはない、貴社ならではの強みはどこにありますか。
落合文四郎:
「独自の型」と「柔軟性」の両立です。私たちは、教育工学に基づいた質の高いプログラムを豊富に保有しています。それらを単にパッケージとして提供するのではなく、顧客ごとの課題に合わせて最適に組み替え、カスタマイズして提供します。確立された「型」があるからこそ、顧客のニーズに対する完全オーダーメイドのソリューションが実現できるのです。
ーー顧客の課題に合わせた提案で、特に意識していることは何でしょうか。
落合文四郎:
育成の「成果」に徹底的にこだわることです。人の成長は目に見えにくいものですが、私たちは研修の実施後にどのような行動変容があったのか、どのような反応の変化があったのかをデータとして捉えるようにしています。その結果をもとに、プログラムのデザインを更新し、次のお客様への提案をより良くするなど、常に改善を続けています。結果を見ながらブラッシュアップしていくプロセス全体を含めて、私たちのカスタマイゼーションだと考えています。
「熟達」を追求する組織文化、社員がプロとして成長し続ける仕組み
ーー経営者として大切にされている価値観をお聞かせください。
落合文四郎:
一つは「継続」です。人の成長や組織風土の変革は1〜2年では終わりません。10年スパンで顧客や社員の成長に寄り添う覚悟を持ち続けることが大切です。もう一つは「熟達」です。社員がプロとして成長し続けるために、「熟達認定制度」という仕組みを設けています。これは成長段階を階段状に可視化したもので、自分が次にどこを目指せば良いかが明確になります。
ーー「熟達」という言葉にはどのような意味を込めていますか。
落合文四郎:
単なる作業の習熟ではありません。本人の好奇心を起点に、「もっと知りたい」と知識やスキルを深め、それがお客様への価値提供につながり、そのプロセスで本人も没頭感や成長を実感できる状態。これを「熟達」と呼んでいます。会社として、社員がプロとして没頭できる環境をつくり、モチベーションを保つことを大切にしています。
LMSでアジアNo.1へ 教育の新たな可能性を拓く

ーー今後の展望についてお聞かせください。
落合文四郎:
2030年に「アジアNo.1」になることを目標に掲げています。まずは日本で「人材育成といえばこの会社」という評価を確固たるものにします。そのための戦略として、LMS(※1)である「etudes(エチュード)」の普及に力を入れています。大手企業への深耕に加え、SaaS(※2)を通じて、これまで教育機会が限られていた中小企業やエッセンシャルワーカーの方々へも「質の高い教育」を広げていきたいと考えています。
(※1)LMS:Learning Management Systemの略。学習管理システムのこと。
(※2)SaaS:Software as a Serviceの略。サービスとして提供されるソフトウェアのこと。
ーー最後に、読者へ向けたメッセージをお願いします。
落合文四郎:
教育は、人の可能性を広げる深く面白い世界です。好奇心を持って探求し、「熟達」を目指せる方であれば、未経験からでもプロになれる環境がここにはあります。自らの成長を追求しながら、社会に大きな価値を提供したいという方からの挑戦をお待ちしています。
編集後記
「教育は人に選択肢を提供する行為だ」。この言葉は、同社の事業の根幹を成す理念である。その信念は顧客へのソリューションに留まらず、社員の成長を促す「熟達」という独自の文化にも貫かれている。創業期の苦難を「打席に立ち続ける」行動力で乗り越え、今、同社はLMSという新たな武器を手にアジアNo.1という壮大な目標へ向かう。自らの専門性を高めることが社会貢献に直結する、プロフェッショナルとしての喜びに満ちた環境がそこにはあった。

落合文四郎/1977年、大阪府生まれ。2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。