
日本でいち早く使い捨て生理用品を製造し、かつてはテレビCMを放映するほどの隆盛を誇った朝日衛生材料株式会社。時代の急速な変化とともに、同社は柏原の新社屋移転を機に、「医療の総合商社」として現在は大阪・関西圏を中心に地域医療のインフラを支える存在となっている。かつては個人商店のような旧体制から、現代的にアップデートした企業組織へと抜本的に変革。現在は売上高50億円の達成、地域を代表する中堅企業への発展に挑む代表取締役社長の吉田也真登氏に、その改革の道のりと独自の生存戦略をうかがった。
「個人商店」からの脱却 組織化への3年間
ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。
吉田也真登:
実は最初から順風満帆にスタートしたわけではありません。中学時代にはフリマで仕入れた洋服を転売したり、高校時代にはアパレルブランドの立ち上げに携わったり、ラジオDJとして番組を担当したり、大学時代には自らジュエリーの卸事業を立ち上げていました。“ビジネス”として意識する前に興味本位で無意識に色んな事に挑戦したことが今の私のベースになっています。
2009年に関西学院大学を卒業後、一度弊社に入社しましたが、諸事情により半年ほどで一度離れることとなりました。その後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科で学び直していたのですが、入学した2011年に東日本大震災が発生し、翌年には先代の体調不良もあり大阪へ戻る決意をしました。復帰後は主に輸入業務や商品開発を担いながら、目の前の課題を一つずつクリアにしていきました。
ーー戻られた当時の会社の状況は、どのようなものでしたか。
吉田也真登:
一番最初に感じたのは、組織としての体裁が十分に機能していませんでした。当時はカリスマ的な創業者がトップに君臨し、それ以外は全員が「ワーカー」という状態。野球にたとえるなら、全員が打率3割やホームランを狙おうとするスタイルで個人プレーに走り、誰がどの部署で何の責任を負うのかさえ曖昧な「個人商店」の集まりでした。
2015年に社長に就任するまでの3年間は、体制の整備に心血を注ぎました。営業部や総務部といった組織図を策定して守備範囲を明確にし、責任の所在を定義しました。同時に、老朽化していた社屋のリフォームも実施。先代は収益性を最優先していましたが、企業を永続させるためには、社員が誇りを持って働ける環境、すなわちハードとソフト両面でのアップデートが不可欠だと確信していたからです。
変化こそ最強の生存戦略 ラストワンマイルで築く独自の強み

ーー競合他社も多い中で、貴社の最大の強みはどこにありますか。
吉田也真登:
私たちが扱うマスクやガウンなどの医療用消耗品は、いわゆるコモディティ(汎用品)です。商品単体での差別化が難しい分野だからこそ、最大の武器は「フットワークの軽さ」と「顔の見える関係性」にあります。
たとえば大手企業の場合、配送を外部委託するため「玄関渡し」が基本です。しかし多忙な医療現場では、その荷物を運ぶ手間さえ負担となります。私たちは関西圏を中心に自社便を走らせ、病棟やナースステーション、医局まで直接商品をお届けすることも少なくありません。現場の方々と声を掛け合う日々のコミュニケーションが「朝日さんに頼めば何とかしてくれる」という安心感につながり、代替不可能な信頼を築いていると思います。このラストワンマイルの対応力こそが、私たちの生命線です。
ーー経営において大切にされている指針を教えてください。
吉田也真登:
社員によく話すのは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」というダーウィンの言葉です。かつて地上を支配した恐竜も、環境の変化に対応できずに絶滅しました。一方で、小さな昆虫や魚たちは変化に適応し、今も生き続けています。私たちのような中小企業こそ、固定観念にとらわれず、時代の変化に合わせて柔軟に姿を変えていく必要があります。
私自身の座右の銘には「行雲流水(こううんりゅうすい)」という言葉があります。空行く雲や流れる水のように、一つの形に執着せず、その時々の流れに身を任せながらも、止まることなく進み続ける。この変化を恐れない姿勢こそが、これからの時代を生き抜く鍵になると考えています。
本社移転を機に「第2の創業」へ 目指すは売上高50億円と海外展開
ーー今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか。
吉田也真登:
2026年秋頃を目処に、大阪本社を新社屋へ移転します。分散していた物流拠点を柏原市役所近くの新拠点へ集約し、業務効率を劇的に向上させる計画です。これまでの10年間が「基礎固め」だったとするならば、新社屋への移転はいわば「第2の創業」。ここから本格的に攻勢に出るフェーズに入ります。中期的な目標は、売上高50億円の達成です。国内市場は人口減少や診療報酬の改定などで楽観できませんが、M&A(※)や異業種進出も視野に入れ、事業規模を拡大していきます。
(※)M&A:Mergers and Acquisitionsの略。企業の合併や買収のこと。
ーー海外展開についても具体的な構想はありますか。
吉田也真登:
東南アジア市場を注視しています。タイやベトナムも今後、日本と同様の高齢化社会を迎えます。日本が培ってきた高齢化対応のノウハウは、必ず現地の役に立つはずです。すでに外国人社員の採用も進めており、現地企業との提携などを通じて、日本の質の高い医療サービスを展開したいと考えています。
ーー最後に、次世代を担う方々へメッセージをお願いします。
吉田也真登:
これからの時代、年齢や社歴、今までの経験値が価値を決めるわけではありません。若い世代の新しい感性やスキルは、会社にとってまた社会にとって不可欠な財産です。弊社は今、管理部門のプロフェッショナル化も含め、バックオフィスが「主役」として活躍できる環境づくりを急いでいます。変化を恐れず、むしろ楽しめる方。私たちと共に「圧倒的な感動」を創造し、朝日衛生材料の新しい歴史を築いていける方との出会いを楽しみにしています。
編集後記
取材を通じて印象的だったのは、吉田氏の物腰の柔らかさと、その奥にある冷徹なまでの「客観性」だ。創業家出身でありながら、自社を「個人商店だった」と冷静に分析し、必要な改革を淡々と、しかし着実に実行してきた。新社屋への移転を機に、半世紀以上の歴史を持つ同社がどのような進化を遂げるのか。「行雲流水」の如くしなやかに変化し続ける同社の未来に、大きな期待を感じた。

吉田也真登/1986年生まれ。豪州St.James College後、関西学院大学を卒業。2009年に朝日衛生材料株式会社へ入社後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科へ。2012年に帰任し、2015年より代表取締役に就任。2017年にヨシダマネージメント合同会社を設立。2023年には米国税理士資格を取得するなど、経営者として専門性を広げ続けている。プライベートでは1児と愛犬のパパであり、ドジャースをこよなく愛する一面も。