
営業活動における「繋がらない電話」や「すれ違う日程調整」は、多くの企業が抱える根深い課題だ。株式会社immedioは、単なる日程調整ツールにとどまらず、営業の「決定打」を自動化するプロダクトとして、AIを活用したWebサイト上での商談獲得プラットフォームを提供している。三井物産で11年間勤めた後、あえて大手の安定を捨ててスタートアップへと飛び込んだ代表取締役の浜田英揮氏。新卒時代から自身の「付加価値」を追求し続け、Sansanでの経験を経てたどり着いた、データとテクノロジーで営業のあり方をアップデートする構想とは。これまでの軌跡と、未来の営業組織のあり方についてうかがった。
大手の安定を捨て自身の「付加価値」を試すため未踏の地へ
ーーこれまでのご経歴をお聞かせください。
浜田英揮:
「いつか海外で活躍したい」という思いがあり、そのチャンスが一番ありそうな三井物産に新卒入社しました。そこでは11年間勤め、メディア、情報産業、そしてM&Aなど多岐にわたる部門を経験しました。その11年間のうちに、社費でのMBA取得も果たしました。ケーススタディを通じて、経営者の観点で「悩ましい選択をどう決断するか」というシミュレーションを数多くこなしたことが、今の経営にも活きています。
この時期、私の中で大きな指針となったのが、新卒時代にOB訪問で授かった「誰がやっても同じアウトプットなら、価値はゼロ」という教えです。その言葉を胸に、常に自分ならではの介在価値を模索し続けてきました。
ーー三井物産を離れ、次なる舞台としてスタートアップを選ばれたのはなぜでしょうか。
浜田英揮:
30代前半になったとき、商社にいれば堅実に給与は上がっていく一方で、大手の安定を「自身のスキルを試せないリスク」と捉えるようになりました。会社特有の知識ばかりが身についていくことに危機感を覚え、自分のスキルで稼げるようになりたいと考えたのです。そこで2016年、まだ小規模だったスタートアップの株式会社bitFlyerにご縁がありジョインし、あえて未踏の領域へ飛び込みました。サンフランシスコに滞在し、米国拠点の立ち上げを主導するという挑戦的なフェーズを経験しました。
インサイドセールスの非効率を痛感 Sansanでの経験が起業の原動力に
ーーbitFlyerでの挑戦の後は、どのような道へ進まれたのでしょうか。
浜田英揮:
その後Sansan株式会社へ転職し、米国展開をはじめ、CFOの下での上場準備の支援やスタートアップ投資などの業務に携わりました。加えて、新規事業「Bill One」のマーケティングを経験したのち、最後はインサイドセールスのマネジメントを歴任しました。
ーーそのときの経験が貴社の創業に繋がっているのですか。
浜田英揮:
インサイドセールスの現場では、アポを取るために何十回も電話をかけるというモデルが定着していました。しかし、それが非常に非効率で「もったいない」と痛感したのです。ここで培った「インサイドセールスの非効率」への課題意識が、創業の直接的な原動力になっています。人間が機械的に電話をかけるのではなく、より付加価値の高い仕事ができるような仕組みをつくりたいと考えました。
極限まで磨かれた顧客体験で営業の負を仕組みにより解決する

ーー現在の貴社の事業内容と強みについて教えてください。
浜田英揮:
弊社は、単なる日程調整ツールではなく、営業の「決定打」を自動化するプロダクトを提供しています。Webサイトに弊社のタグを埋め込んでいただくと、お客様が資料請求などをした直後に自動でポップアップが出て、AIがその場で商談を確定させる仕組みです。これにより、繋がらない電話に費やす時間を劇的に削減し、商談獲得の圧倒的な効率化を実現しています。
ーーどのような点がお客様から評価されているのですか。
浜田英揮:
極限まで高められた顧客体験(UX)です。お客様の興味が最も高まった瞬間に、資料請求直後の画面で候補日程を提示し、ワンクリックで商談を確定させるノンストレスな導線を実現しています。当初はIT・SaaS業界のメガベンチャーを中心に導入が進み、そこで多くの成功事例やノウハウを蓄積してきました。現在はその知見を武器に、人材、不動産、金融、教育など、人手不足が深刻なあらゆる業界へ広がっています。
「資料請求しない98%」を取りこぼさない 顧客の行動データで描く未来
ーー今後の展望についてお話いただけますか。
浜田英揮:
今後は、営業の属人性を排除し、データで勝てる組織への変革を目指すプラットフォームへと進化させていきます。実は、Webサイトを訪れたお客様のうち、実際に資料請求などをされるのはわずか1〜2%で、残り98〜99%の方は何もせずに帰ってしまっています。そこで、「資料請求しない98%」にアプローチするため、2026年3月にAIチャットボット機能をリリースする予定です。フォーム入力をしない層とも対話を開始し、接点を最大化させます。
ーー蓄積された顧客のデータは、今後どのように活用されていくのですか。
浜田英揮:
弊社は、自社サイト内での顧客の具体的な行動データである「ファーストパーティ・インテント」の蓄積を非常に重要視しています。これを活用することで、商談すべき優先順位を論理的に導き出せる点が弊社の唯一無二の強みです。今後は顧客の「興味・関心」に関するデータをさらに蓄積し、どの企業がいつ商談になるかを予測できる、経営に直結する売上高予測の精度を高めるデータベースを構築していきたいと考えています。
編集後記
「誰がやっても同じなら価値はゼロ」。新卒時代に刻み込まれたその教えが、浜田氏のキャリアを一貫して貫いている。大企業の安定に安住せず、常に自らの介在価値を問い続けた結果が、インサイドセールスという非効率が残る領域でのイノベーションへと結実した。顧客体験を極限まで磨き上げ、顧客の行動データを武器に営業のあり方を根本から変えようとする株式会社immedio。AIを活用した新たなアプローチで、日本の営業組織がどのように進化を遂げるのか、同社が描く未来から目が離せない。

浜田英揮/新卒で三井物産株式会社に入社し、主にIT分野での新規事業を担当。ハーバード・ビジネス・スクールに留学し、MBA取得後、幅広い事業分野の投資案件の実行に当たる。2016年に株式会社bitFlyerに参画し、USで現地拠点長を務める。2019年からはSansan株式会社に参画し、インサイドセールス部門のマネジメントを担当。2022年に株式会社immedioを創業。東洋経済「すごいベンチャー100 2023」選出。