※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

「強くてやさしい」というブランドメッセージを掲げ、ネット型自動車保険市場で着実な成長を続ける三井ダイレクト損害保険株式会社。2022年に代表取締役社長に就任した河村隆之氏が着手したのは、単なる事業戦略の立て直しにとどまらない。社員一人ひとりの意識を変革することで、停滞していた組織を新たな成長軌道へと導いたのだ。一見相反するようにも思える「強さ」と「やさしさ」という価値観は、いかにして生まれ、顧客と社員の心に浸透していったのか。リブランディングの裏側にあった葛藤から、グループ連携を活かしてつくり出す未来像まで、その軌跡について話を聞いた。

人の役に立ちたい思いが原点 損害保険業界への挑戦

ーーまずは、保険業界を志したきっかけについてお聞かせください。

河村隆之:
原点にあるのは、学生時代から抱いていた社会福祉への深い関心です。身内に障害を持つ者がいたこともあり、「困っている人の助けになる仕事がしたい」という思いを持っていました。そんな中で損害保険という存在を知り、事故や災害でマイナスの状態にある人を経済的に支え、ゼロに戻して差し上げられる点に惹かれたのです。困っている人に寄り添い、支えるこの仕事になら大きなやりがいを持って打ち込めると確信しました。

また、ビジネスモデルとしての盤石さにも魅力を感じました。世の中の経済活動や日々の生活がある限り、リスクはなくなりません。つまり、損害保険は時代を超えて社会に必要とされ続け、幅広く貢献できる事業だということです。その持続可能性と社会的意義の高さに確信を持ち、この業界で挑戦することを決意しました。

ーーこれまでのキャリアで、現在に活きている経験はありますか。

河村隆之:
商品開発や営業部門を経験したことが、今につながっています。特に法人営業では、パートナーである代理店や、窓口となる企業の方々と深く向き合ってきました。対話を通じて、お客さまから逆に保険の有用性を教えていただくこともあり、私自身がその価値を再認識する貴重な機会となったのです。

企業の抱えるリスクは千差万別で、それぞれに合わせたオーダーメイドの提案が求められます。多様なリスクに対応する経験を積んだことで、世の中のリスクがどのように変化していくのかを捉える感覚が養われました。この感覚は、個人向けの商品を扱う現在においても、お客さまのニーズを的確に捉えるうえで大いに役立っています。

「特徴がない」という厳しい現実 選ばれる会社へと生まれ変わるための決断

ーー貴社へ移られた経緯について教えていただけますか。

河村隆之:
三井住友海上火災保険株式会社で自動車保険部長を務めた経験から、自動車保険に関する専門性などを評価され、グループから弊社でのリーダーシップの発揮を期待されたのだと思います。当時、ネット型保険の市場はまだ小規模でしたが、世の中のデジタル化が進む中で「今後は間違いなくネットへ移行していくだろう」という予感がありました。これから伸びる市場で、新しい可能性に挑戦できるととても前向きに捉えていました。

ただ、実際に来てみると、代理店を介する従来のモデルとWeb完結のネット型では勝手が全く異なります。異動後は、Webマーケティングの知識など、基本から勉強し直す日々でした。

ーー着任当時、会社はどのような状況でしたか。

河村隆之:
成長が長く停滞し、閉塞感が漂っている状況でした。原因を探るべく行った市場調査では、「特徴が何もないのが三井ダイレクトの特徴だ」という厳しい評価が浮き彫りになっていました。商品・サービス内容で大きな差別化が図りづらい自動車保険において、当社は認知度も低く、お客さまにとって選ぶ理由が見当たらない状態だったのです。

この選ばれない状況を打破するには、私たちの強みを再定義し、明確なアイデンティティを打ち出さなければなりません。そこで、現状を変えるための抜本的な一手として、リブランディングに着手しました。

「強くてやさしい」を掲げた改革 社員と共に越えた成長の壁

ーー具体的にどのような改革に取り組みましたか。

河村隆之:
新たなアイデンティティとして「強くてやさしい」というブランドメッセージを掲げました。「強くてやさしい」は私たち三井ダイレクト損保が、お客さまに対してありたい人格を表現しています。それは、正直で、公平で、本音であること。どこまでもお客さまの立場を優先させる姿勢があり、心から尽くせること。親切で頼りになり、いざという時は守ってあげられることです。この言葉には、お客さまに真の「やさしさ」を提供するためには、私たち自身が確固たる事業基盤や高い専門性を持つ「強い」存在でなければならない、という決意を込めています。

また、この改革は対外的な発信にとどまらず、社員の意識を変えるインナーブランディングも重視しました。自分たちの仕事の価値を再定義したことで、社員が自信と誇りを取り戻し、お客さまに向き合う姿勢が変わるきっかけになったと自負しています。

ーー改革の結果、社内にはどのような変化が生まれましたか。

河村隆之:
社員の仕事に対する意欲や活気が劇的に向上しました。以前は、新しい計画に対して、「それは難しいです」という声が上がることもありましたが、今では「まだまだできますよ」と、こちらが驚くほど前向きな意見が返ってくるようになっています。これは、自分たちの取り組みがお客さまに届き、会社の成長につながっているという実感が自信に変わった結果でしょう。

従業員の満足がサービス品質の向上につながり、それが顧客満足、そして会社の利益につながるという「サービス・プロフィット・チェーン」の考え方を大切にしています。社員がいきいきと働くことこそが、組織を強くしていくのだと強く信じています。

グループの相乗効果で描く未来 ネット保険市場の成長期を捉える

ーー商号変更の予定があるとのことですが、その背景を教えていただけますか。

河村隆之:
2027年4月に「三井住友海上ダイレクト損害保険」へ変更する予定です。この変更は、グループ連携を一層強化し、お客さまにより大きな安心と幅広いサービスを提供するためのものです。インターネットの世界で社名の連続性を担保し、今の「三井ダイレクト損保」と「三井住友海上ダイレクト損保」が同じ会社だと安心していただき、お客さまにご心配をおかけしないようスムーズに移行するべく、万全の準備を進めていきます。

ーーこれからの事業成長において、特に注力していくことは何でしょうか。

河村隆之:
何か1つの特効薬に頼るのではなく、既存の商品やお客さまとの接点を地道に改善し続けることこそが最も重要だと考えています。これまでの成長も、そうした日々の積み重ねの結果だからです。

そのための具体的な投資として、現在は損害サービス部門のシステム刷新を進めています。基盤を強化することで、事故対応の品質とスピードをさらに高めていきます。また、今後はグループの総合力も活かし、自動車保険の枠を超えてお客さまの多様なリスクに対応できるソリューションを提供していきたいと考えています。

ーー今後、どのような会社を目指していきたいですか。

河村隆之:
数あるダイレクト損保の中で、最初に選ばれる会社になりたいと考えています。現在、市場には代理店型の自動車保険を利用されているお客さまがまだ多くいらっしゃいます。そうした方々が初めてネット型への切り替えを検討する際、「まずは三井ダイレクト損保を見てみよう」と真っ先に名前が挙がるような存在でありたいのです。そのためにも、私たち社員一人ひとりが専門性を磨き、ブランドメッセージである「強くてやさしい」を体現し続けてまいります。

編集後記

「強くてやさしい」という言葉は、単なるブランドメッセージではない。それは、低成長にあえいでいた組織を甦らせ、社員一人ひとりの心に火を灯した変革の合言葉だ。河村氏の言葉の端々から、お客さまへの誠実な姿勢と、共に働く仲間への深い信頼がうかがえる。大きな変革の裏には、地道な改善の積み重ねと、社員の自信を取り戻すための揺るぎない信念がある。ネット型保険市場が本格的な成長期を迎える今、同社が描く未来に大きな期待を寄せたい。

河村隆之/1965年、東京都出身。1989年慶應義塾大学経済学部卒業後、大正海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)に入社。自動車保険部長、三井ダイレクト損害保険常務執行役員などを経て、2022年4月取締役社長に就任。