※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

明治20年の創業以来、138年もの歴史を刻み、日本の眼鏡文化を支え続けてきた株式会社金鳳堂。全国の百貨店に店舗を構え、高度な技術を持つ「認定眼鏡士(※)」によるサービスで厚い信頼を獲得してきた。2023年に代表取締役社長に就任した筒井嘉一氏は、自身の原体験に基づいた強い責任感を胸に、老舗の伝統を守りつつ現代人の悩みに応える「価値の可視化」を推進している。「歴史ある金鳳堂を途絶えさせてはならない」という覚悟を持ち、組織の未来を見据える筒井氏に、仕事への思いと今後の展望を聞いた。

(※)日本眼鏡技術者協会が運営していた、眼鏡の専門家資格。現在は「眼鏡作製技能士」という国家検定資格に移行している。

「ありがとう」の言葉が原点 プロとしての自覚と覚悟

ーーまずは筒井社長のこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。

筒井嘉一:
私は新卒で眼鏡業界に入り、海外出張や営業職などで長年にわたり現場での経験を積み重ねてきました。この業界に入った当初、正直なところ、私はそれほど熱心に勉強するタイプではありませんでした。

転機が訪れたのは、店頭でお客様に眼鏡を販売したときのことです。対価をいただいているにもかかわらず、お客様から心からの「ありがとう」という言葉をいただいたのです。これには大きな衝撃と喜びを感じました。

本来、商売とは商品やサービスに対して代金をいただくものです。しかし、眼鏡という仕事は、適切に検査を行い、その方にベストな調整をすることで、お客様の視界そのものを変えることができます。代金をいただいている立場でありながら、「あなたに相談してよかった」「見えるようになって嬉しい」と感謝の言葉までいただける。このとき、「お金をいただいているプロとして、知識不足のまま適当な仕事をしてはいけない。もっと勉強し、お客様の期待に答えなければ」と、自分の中でスイッチが入りました。

自分が提案した眼鏡で、お客様の視界が変わり、喜んでいただける。この原体験があるからこそ、社員には常に「プロとして学び続けること」の大切さを伝え続けています。

ーー社長に就任した際は、どのような心境でしたか。

筒井嘉一:
最初に辞令を受けたときは正直驚きました。私は創業家出身ではなく、一社員として営業畑を歩んできた人間ですから、まさか自分が社長になるとは想像もしていなかったのです。しかし、「指名を受けた以上は、この重責を全うしなければならない」と強く腹を括りました。

138年という長い歴史の中で、先輩方が築き上げ、多くのリピーターのお客様に支えられてきたこの「金鳳堂」という看板を、私の代で途切れさせるわけにはいきません。私たちは、お客様の視生活を生涯サポートするパートナーです。長く通ってくださるお客様とのご縁を守り抜くことこそが、私に課せられた最大の責務だと感じています。歴史のバトンをしっかりと受け継ぎ、さらに磨き上げて次の世代へ渡すこと。そのために、今は全力で走っています。

看板に頼らず自ら「価値」を示す 老舗の新たな挑戦

ーー社長就任後は、どのような変革に取り組まれているのでしょうか。

筒井嘉一:
私たちは長年、百貨店という集客力の高い場所に店舗を構え、ある種その看板に守られながら商売をしてきました。しかし、これからの時代は、立地に依存するのではなく、「金鳳堂」という店舗自体に明確な価値がなければ、お客様に選んでいただけません。

たとえば、老舗の飲食店が行列をつくるように、私たち自身が「ここに来れば悩みが解決する」と認知される存在になる必要があります。そこで近年、特に力を入れているのが「眼精疲労」へのアプローチです。現代人はスマートフォンやパソコンの長時間使用で目を酷使しています。単に視力を矯正するだけでなく、お客様の生活環境や目の使い方を深くヒアリングし、疲れを軽減するための最適なレンズやフィッティングを提案する。このコンサルティングのプロセスこそが私たちが提供すべき、真の価値だと再定義しました。

ーー価値を届けるために、具体的にどのような取り組みを行っているのですか。

筒井嘉一:
これまでは「百貨店の眼鏡売り場」というサロン的な立ち位置ゆえに、弊社の技術やこだわりが、お客様に見えづらい部分がありました。そこで現在は、Webサイトなどを通じて「眼精疲労を眼鏡で減」というソリューションを前面に打ち出し、予約制でじっくりと時間をかけて検査を行うことで、その価値を可視化することに注力しています。

お客様が普段、どのくらいの距離でスマートフォンを見ているのか、仕事中の姿勢はどうなのか。そうした細部まで確認し、プロとしての知識でお答えする。そうすることで初めて、「金鳳堂で眼鏡をつくってよかった」と実感していただけると考えています。この積み重ねが、看板に頼らない強いブランドを構築すると信じています。

ーー貴社の強みや特徴は、どのような点にあるとお考えですか。

筒井嘉一:
最大の強みは、長年の歴史で培われた「検査力」と、お客様に深く寄り添う「コンサルティング力」です。私たちは百貨店というフィールドで、お客様の期待に応え続けてきました。そこでは、単に商品を販売するだけでなく、高い専門知識とホスピタリティが不可欠です。

多くのスタッフが「認定眼鏡士」などの専門資格を持っており、量販店のような回転率重視のビジネスモデルとは一線を画し、一人ひとりのお客様にしっかりと時間をかけて向き合うスタイルを貫いています。この確かな技術的な裏付けがあるからこそ、「眼精疲労」という現代人の切実な悩みに対しても、自信を持って解決策を提案できるのです。

お客様の「生涯のパートナー」へ 質を追求する組織と人

ーー今後の展望についてお聞かせください。

筒井嘉一:
店舗数を闇雲に増やすだけの拡大路線は考えていません。それよりも重視しているのは、一つ一つの店舗の「質」と「生産性」を高めることです。目先の売上を追うのではなく、より長いスパンでお客様と深い関係を築き、「金鳳堂」のファンを一人でも多く増やしていくこと。私たちが目指すのは、単に眼鏡を売る店ではなく、歯科医のようにお客様の目の健康を定期的にメンテナンスし、一生涯守り続けるパートナーです。量より質を追求し、お客様にとって替えの利かない存在になることが、私たちが目指す未来です。

ーーそのような未来を実現するために、どのような人材を求めていますか。

筒井嘉一:
単に言われた仕事をこなすのではなく、一人の自立したプロフェッショナルとして、自ら考え行動できる人材を求めています。タイムカードで時間を管理されるのではなく、365日、自分がプロとして存在しているという自覚を持って仕事に向き合う。そんな主体性のある方と一緒に働きたいですね。たとえ今は勉強不足であっても、目の前のお客様に「ありがとうございます」と言っていただけるまでやり遂げる責任感があれば、チャンスはいくらでもあります。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

筒井嘉一:
眼鏡店は、お客様の人生の節目に立ち会える素晴らしい仕事です。時代が変わっても、「見る」という行為の重要性は変わりません。私たちは歯科医のように、定期的なメンテナンスや予防の観点からも、お客様の目の健康を守り続けていきたい。目の前の数字に一喜一憂するのではなく、俯瞰的な視点で「価値」を磨き続けること。そうして一人でも多くのお客様に喜んでいただくことが、結果として会社の成長、そして社員の幸せに繋がると信じています。これからも、変化を恐れず、「金鳳堂」ならではの価値を追求し続けていきます。

編集後記

「看板を外しても選ばれる存在に」。筒井社長の言葉には、老舗の誇りと、現状に安住しない強い危機感が同居していた。138年の歴史を守るだけでなく、現代のニーズに合わせて技術という「価値」を再定義し、可視化していく。その挑戦の根底には、若き日の原体験と、顧客への誠実な思いがあった。一社員から歩みを進めたからこそ持てる、会社を客観的に俯瞰する視点と、現場叩き上げの熱い情熱。この両輪が、「金鳳堂」の新たな歴史を切り拓いていくのだろう。

筒井嘉一/1965年奈良県生まれ。1988年近畿大学卒業後、株式会社三城(現・株式会社パリミキ)へ入社。全国各地域のエリアマネージャーを歴任後、東日本営業執行役員、人事担当執行役員を歴任。2023年4月、株式会社金鳳堂の代表取締役社長に就任。