
現代の住環境に調和するモダンな仏壇のパイオニアとして知られる株式会社現代仏壇。同社は、長年仏壇仏具事業を手がけてきた株式会社八木研から同事業を承継し、現在は仏壇・仏具小売大手の株式会社はせがわグループの一員として、伝統的な形式にとらわれないデザイン性の高い商品開発力を強みに、仏壇仏具の企画・開発・販売を展開している。
その舵取りを担うのが、「はせがわ」で営業店の店長から営業部長、商品部長、執行役員と多彩なキャリアを積んできた代表取締役社長の伊井秀行氏だ。豊富な現場経験とマネジメント手腕を武器に、同社をいかにして未来へ導くのか。その戦略と「手を合わせる文化」への思いを聞いた。
多様な現場経験が礎に 社長就任までの道のり
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
伊井秀行:
当時は小売業界の募集が多く、その中で仏壇・仏具の販売を主力とする日本最大級の専門店チェーン「はせがわ」に興味を持ったのは、もともとお寺や神社といった、神仏にまつわるものが好きだったからです。仏壇・仏具の販売は、一般的な小売業とは異なる特殊な領域です。「手を合わせる」という行為を支える仕事が、一体どのような世界なのか。未知の領域に対する純粋な興味と、その深淵に触れてみたいという思いがありました。
入社後はすぐに店舗へ配属となり、営業を担当しました。当時は個人情報保護の概念がまだ浸透しておらず、新聞のお悔やみ欄の情報を基に、ご遺族のお宅へ直接うかがう飛び込み営業を行っていました。
ーー店長に昇進された際、仕事に対する考え方にはどのような変化がありましたか。
伊井秀行:
一人の営業担当として自分の成果だけを追求していれば良かった頃と比べると、仕事への向き合い方は大きく変わりました。店長は店舗全体をマネジメントしなくてはなりません。自分一人ではできないことを、戦略を立て、スタッフの気持ちを一つにしてチームとして動かしていく。そこで方針を立てて細かく計画に落とし込み、役割を割り当てて管理していくという経験が、現在の仕事の進め方のベースになっていると感じています。
ーー貴社の社長就任のお話があった際、どのように感じましたか。
伊井秀行:
株式会社八木研のことは、はせがわの社員だった頃から取引先として知っており、この業界の中で非常に良いものをつくる会社という印象を持っていました。社長就任のお話をいただいたときは、ぜひ挑戦したいと思いましたね。商品開発と店舗営業の両方を理解している人材は限られています。私には、名古屋で赤字だったエリアを黒字に立て直した経験もあり、その経験を活かせればと考えました。
基盤固めとシナジー創出 就任直後からの改革
ーー社長に就任されて、まず何から取り組まれたのでしょうか。
伊井秀行:
何か新しいことを始めるよりも、まずは既存の事業基盤を整えることから着手しました。就任した時期は、会社分割を経て、はせがわグループの傘下に入るという大きな転換期にあり、従業員はもちろん、卸先や仕入れ先の方々も少なからず不安を感じていたはずです。そのため、何より「これからも変わらずお取引を継続していく」という安心感を持っていただくことが、何より重要だと考えました。まずは取引関係をしっかりと維持し、安定させることが最初の仕事でした。
ーー具体的にはどのような施策を進められたのですか。
伊井秀行:
商品のラインナップを拡充しました。以前の弊社の商品は、デザイン性に優れた比較的高価格帯のものが中心でした。しかし、市場のニーズを冷静に分析すると、より幅広い層に届く価格帯の不足を痛感したのです。そこで、お求めやすい価格帯の商品を新たに開発しました。品揃えを増やすことで、既存の取引関係を強固にするだけでなく、新規の卸先開拓にもつながりました。
また、親会社である「はせがわ」の店舗へ、弊社の商品を導入する取り組みも進めています。グループの相乗効果を活かし、利益を最大化させる。これも、事業基盤を盤石にするための重要な一手です。
ーー親会社との相乗効果については、他にどのようなことを進めていますか。
伊井秀行:
はせがわと共同で新たな卸先を開拓する取り組みも行っています。また、物流や社内システムといったバックオフィス業務に関しても、グループで協力して効率化を進めているところです。上場企業のグループ会社として求められる内部統制の基準に合わせる必要があり、社内には負担をかけている面もありますが、会社の成長には不可欠なことだと考えています。
時代を捉える開発力 若手とベテランが未来をつくる

ーー改めて、貴社の事業内容とその強みについてお聞かせください。
伊井秀行:
事業の柱は、自社で企画・開発した商品を仏壇店へ卸す卸売事業と、直営店「ギャラリーメモリア」の運営です。弊社の最大の強みは、現代の住環境やライフスタイルの変化に合わせて、インテリアに調和する新しい形の仏壇をつくり出してきたパイオニアであること。その根幹を支える開発力こそが、弊社の特色であり、競争力の源泉です。
ーーその開発力はどのようにして強化してきたのでしょうか。
伊井秀行:
開発部門には、この道20年以上のベテランと、専門の学校でデザインを学んできた若手の両方が在籍しています。仏壇づくりには多くの決まりごとがあります。しかし、若手にはあえてそうした制限をかけず、自由な発想で新しいものづくりにチャレンジしてもらっています。ベテランの知見と若手の新しい視点を融合させることが、次の時代に求められる商品を生み出す鍵だと考えているのです。
今は年に1度開催する展示会に向けて、毎年十数種類のペースで新商品を開発しています。一方で、市場のニーズに合わなくなった商品は廃番にし、全体のアイテム数は一定に保つようにしています。また、全く新しいものをつくるだけではありません。過去のヒット商品を現代のライフスタイルに合わせて「現代版」として復刻させたり、人気商品を小型化したりするなど、既存資産を活かした商品強化にも力を入れています。
卸売事業を核に50億円へ 「手を合わせる文化」を未来へ
ーー市場全体が縮小傾向にあるといわれる中、貴社は今後どのような戦略で成長を目指していくのでしょうか。
伊井秀行:
成長の主軸として、卸売事業の拡大に最優先で注力します。その通過点として、まずは売上高50億円という高い目標を掲げました。
市場のニーズを捉えた商品ラインナップの拡充により、既存のお取引先における弊社のシェアを徹底して高めていく方針です。これまで他社製品が担っていた領域を弊社の商品でカバーできるよう、販促支援や商品の魅力を伝える研修も積極的に実施します。直営店も大切に維持しつつ、卸売のネットワークを広げることで、全国のより多くの方々へ新しい祈りの形を届けてまいります。
ーー事業を拡大していく上で、大切にされている思いは何ですか。
伊井秀行:
最も根底にあるのは、「手を合わせる文化」を未来へ承継していきたいという思いです。供養の市場は縮小傾向にあるといわれていますが、故人を思い、感謝する場は、日本人にとって非常に大切なものです。お仏壇の形や供養の仕方が時代と共に変わっていったとしても、その「手を合わせる場」そのものを提供し続けたい。私たちがシェアを拡大していくことは、その場所を絶対になくさないという強い意志の表れでもあります。
ーー最後に、読者へ伝えたいメッセージをお願いします。
伊井秀行:
弊社は、従来の固定観念を打ち破り、お客様が本当に求める供養の形を創造してきた会社です。伝統や基本的な知識を尊重しながらも、時代の変化に合わせて形を変えていく。それこそが私たちの果たすべき役割だと考えています。木工や焼き物といった日本各地の優れた伝統技術に支えられた商品づくりを継続することは、文化の維持にもつながるはずです。これからも、人々の心に寄り添う新しい祈りの形を提案し続けていきます。
編集後記
現場経験を持つ伊井氏の言葉からは、事業に対する堅実な姿勢がうかがえた。特に印象に残ったのは、市場環境が変化する中で、卸売事業を中心にシェアを拡大していくという明確な方針だ。その背景には、時代に合わせて形を変えながらも、「手を合わせる文化」を次世代へ残していきたいという思いがある。伝統技術と新しい感性を組み合わせ、現代の暮らしに寄り添う供養のあり方を提案する同社の今後に期待したい。

伊井秀行/1968年生まれ、千葉県出身。株式会社はせがわに入社し、営業部門と商品部門を経験。2024年10月株式会社現代仏壇に転籍し、代表取締役社長に就任。