※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

イギリスで1986年に創業し、STEM(科学・テクノロジー・エンジニアリング・数学)領域に特化した人材紹介事業を現在世界15カ国で展開するSThreeグループ。その日本法人であるSThree株式会社は、設立以来、右肩上がりの成長を続け、現在は約150名の組織へと拡大している。しかし、代表取締役のクリストファー・ライリー氏が来日した当時、日本法人はまるでスタートアップのような小さな組織だったという。なぜ同氏は、本国での安定したキャリアを追い求めるのではなく、ビジネスとしてはまだ未開拓だった日本への挑戦を選んだのか。その背景と、同氏が理想に掲げる「日本と欧州のいいとこ取りをした組織づくり」の核心に迫る。

バックオフィスから「話すこと」が価値を生む営業の世界へ

ーーまずは、キャリアのスタートについて教えてください。

クリストファー・ライリー:
大学卒業後は、大手スーパーマーケットチェーンのバックオフィスで働いていました。日本で言えば西友やイオンのような巨大企業の本社勤務です。待遇も良く、人間関係も良好。客観的には申し分のない環境でした。

しかし、淡々と製品管理を行うだけの業務自体に興味を持てず、「毎日が単調で、刺激がない」と感じていました。私が仕事に求めていた人との関わりや刺激が欠落していたのです。そこで「話すこと」が仕事になる職を求め、2011年に英国のSThreeへ入社しました。

営業職としてスタートしましたが、実績に応じて明確に昇進できる仕組みがあったため、私には非常に分かりやすい環境でした。最初は苦戦したものの、その後は着実に実績を上げることができました。

ーーなぜ、日本へ来ることになったのですか。

クリストファー・ライリー:
一つは個人的に新しい世界を見てみたい、新しいアドベンチャーを経験したいという思いがあったからです。日本に来たことも、日本語を話せるわけでもありませんでしたが、まずは住んでみようと考えました。

もう一つの理由は、仕事において大きなチャレンジができると感じたためです。日本への赴任というオファーを受けた2016年当時、SThreeはヨーロッパでは知名度がありましたが、日本法人はわずか16名ほどで、誰も知らないようなスタートアップに近い規模だったのです。

すでにマーケットが確立されているヨーロッパとは異なり、規模が小さい段階の日本であれば、会社のあり方を自分たちで決めていくことができます。そこでなら大きなインパクトを与えられると感じたことが、日本への赴任を決めた理由です。

コロナ禍での社長就任とハイブリッドな組織構築

ーー2020年に社長に就任されましたが、当時はどのような状況でしたか。

クリストファー・ライリー:
就任と同時に新型コロナウイルスの世界的流行が始まり、まさに波乱の幕開けでした。それまでは営業部門の責任者として「売上高」という数字に向き合っていればよかったのですが、経営トップとなれば話は別です。オペレーションの維持、社員の安全、そして組織の未来。全方位に視点を広げる必要がありました。

特にコロナ禍では、リモートワークを含めた柔軟な働き方の導入など、正解のない課題の連続でした。しかし、この困難が私のマネジメントスタイルを確立する転機にもなりました。トップダウンで一方的に指示を出すのではなく、試行錯誤しながら社員の声に耳を傾け、彼らにとって最適な環境を共につくり上げる。そのプロセスを通じて、組織としての一体感が強まったと感じています。

ーー組織づくりにおいて、特に意識されていることはありますか。

クリストファー・ライリー:
日本とヨーロッパ、それぞれのビジネス文化におけるよいところを融合させることが、私の理想とする組織づくりです。

日本企業には、顧客や候補者との長期的な信頼関係を重んじ、チームワークで課題解決に取り組む素晴らしい文化があります。一方で、ヨーロッパの企業には、個人のパフォーマンスを最大化し、自律的にキャリアを切り拓く強さがあります。

私は、日本の「和」を大切にする家族のような温かさを持ちながら、評価制度はフェアな実力主義で、年齢や社歴に関係なくチャンスが与えられる組織を目指しています。この両方の利点を組み合わせることで、一人ひとりが能力を最大限に発揮しつつ、強い信頼関係で結ばれたユニークな組織をつくり上げていくつもりです。

また、より柔軟で風通しの良い組織にするために、役職の垣根を越えたフラットなコミュニケーションも重視しています。組織としての規律は保ちつつも、形式的な序列に縛られすぎることなく、誰もが意見を発信できる環境が理想的だと考えています。トップであっても、それぞれの社員のバックグラウンドや人となり、仕事へのモチベーションを正しく理解し、常に近い距離にいたい。その思いから、新入社員の最終面接は今でも全員私が行っています。

「事業は人なり」という言葉の通り、外資系人材紹介という比較的ストレスのかかりやすい業種だからこそ、社員が居心地よく、楽しみながら成長し続けられる環境づくりは欠かせません。その象徴とも言えるのが、会社が費用を一部負担している20以上の「ソーシャルクラブ」活動です。

ブッククラブやボードゲーム、ワインクラブといった日常的な交流から、私自身も積極的に参加するスキー旅行やスキューバダイビングなどのイベントまで、活動内容は多岐にわたります。こうした場を通じて、全社員の約半数を占める海外出身のメンバーも含め、組織全体に「家族のような一体感」と高い帰属意識が生まれています。こうしたポジティブなカルチャーこそが、私たちの最大の強みであると自負しています。

STEM領域の未来と長く働ける組織づくりへの挑戦

ーーSTEM領域に特化した人材紹介会社として、今後の事業展開についてはどのようにお考えですか。

クリストファー・ライリー:
私たちは、ITやライフサイエンスといった、世界に大きなインパクトを与える産業に注力していきます。中でも、未来志向の企業と親和性が高く、数々の企業をサポートしてきました。たとえば、自動車業界であれば、単に伝統的なパーツをつくる会社を支援するだけではなく、自動運転の技術開発を手がけるような先進的な企業と、高度なスキルを持つ人材をつなぎ、未来を築いていくことこそが私たちの使命です。

現在はIT分野に特化したComputer Futuresという事業部の認知度が少しずつ高まっていますが、今後はエンジニアリングやファイナンスなど、他のSTEM領域においても「SThree」を第一想起していただける存在にしていきたいと考えています。そのためには、むやみに規模を拡大するのではなく、サービスの「質」にこだわり続けることが大切です。各マーケットの担当者が専門性を高め、お客さまから「この分野ならSThreeに任せたい」と選んでいただけるようなブランドを確立していきたいですね。

ーー最後に、今後のビジョンについて教えてください。

クリストファー・ライリー:
ビジネスとして、10年以内に日本の売上高比率をグループ全体の10%まで引き上げることが目標です。現在は5%程度にとどまっていますが、技術立国である日本市場には、さらに成長できるポテンシャルがあると確信しています。

また、私にはビジネスの拡大と同じくらい大切にしたい思いがあります。それは、人材業界に根付いている「離職率が高く、人の入れ替わりが激しい」というイメージを塗り替えることです。本来、人材紹介は誰かの人生をより良くできる、誇りを持てる仕事です。だからこそ、社員が安心して長く働き続け、10年、20年と一つの会社でキャリアを築けることを証明したいと考えています。

日本の「定着」という美徳と、グローバル企業の「成長」というダイナミズム。この二つを両立させ、社員が誇りを持って働き続けられる会社にすることこそが、私の最大の挑戦です。

編集後記

大手スーパーのバックオフィス業務を離れ、自らの言葉が価値を生む営業の世界、そしてさらなる挑戦を求めて未知の日本市場へと飛び込んだクリストファー・ライリー氏。欧州での地位に安住せず、あえて無名に近い環境を選んだ開拓者精神こそが、現在の同社の急成長を支える根幹なのだろう。日本独自の文化を尊重しながら、欧州流の実力主義を融合させる試みは、人材業界の常識を塗り替える可能性を秘めている。STEMという最先端領域で、組織のあり方そのものにも変革を起こそうとする同社の未来に、期待したい。

Christopher Reilly/1989年英国生まれ。ランカスター大学卒業。2011年にSThree plc(英国)へ入社し、IT領域のリクルーティングに従事。2016年に日本へ拠点を移し事業成長を推進。ブランドディレクターを経て、2020年にSThree株式会社代表取締役に就任し、売上高を約3倍に拡大。