※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

「超硬合金(ハードメタル)」という極めて硬い金属をお客様に提供し、世界中のさまざまな産業を根底から支え続けている三菱マテリアルハードメタル株式会社。同社は、長年培ってきた「匠の技」によるオンリーワンの製品づくりで、グローバル市場において独自の地位を築いている。2025年に社名を新たにし、タイでの新工場稼働など、変革と成長のフェーズにある。材料開発、技術サービス、海外での経営トップまで、多岐にわたる経験を持つ代表取締役社長の山本克氏に、同社の強みと未来へのビジョンについてうかがった。

技術者の誇りを胸に図面一枚で世界を切り拓いた営業時代

ーー貴社に入社されるまでの歩みについて教えてください。

山本克:
大学院では金属材料、特に粉末冶金に関連する研究に情熱を燃やしました。そこで培った知見を活かしたいと思い、当時の三菱金属株式会社(現・三菱マテリアル株式会社)に入社しました。

キャリア第一期は、入社後の7年間です。最初の3年間は材料開発を担当し、その後の4年間は超硬合金の原料をつくる現場で、超硬合金の基礎を徹底的に学びました。キャリア第二期としては、弊社の主力事業の1つである「耐摩工具事業」の製造・開発部署に配属され、約5年間にわたり技術サービスを担当し、お客様との接し方を学んだ後、海外営業を9年経験しました。製造、技術サービス、営業まで一通りの業務を経験できたことが、私にとっての大きな財産となりました。

ーー海外営業を担当していた頃、技術者としての経験はどう活かされましたか。

山本克:
海外のお客様と接する際、大学、会社で培った材料に関する知識や、国内での技術サービスの経験は、大きな強みになりました。お客様からの質問や要望に対し、技術的な知識を背景に、自分の頭で考えて即座に解決策を提案出来たことが、あらゆる国のお客様の信頼につながりました。

技術者同士は、図面一つで通じ合えるものです。言葉の問題ではないのです。困ったときは紙を出してポンチ絵を描く。そうすると、現地のユーザーも深くうなずいてくれる。こうした経験を通じて、「技術さえあれば度胸と情熱でなんとかなる」という自信がつきましたし、お客様のニーズをリアルタイムでつかむ力も鍛えられたと感じています。

経営で大切なのは社員が「働いてよかった」と思える環境づくり

ーー事業所の所長や海外拠点の社長を歴任されていますが、経営の現場で得た気づきについて教えてください。

山本克:
国内製作所の所長やスペインの製造販売拠点の社長など、トータルで6年半ほど事業所のトップを務めました。もともと数字が好きだったこともあり、予算や損益を自分で計算し、「どうすれば利益が出るのか」、「どうすれば事業を伸ばすことが出来るのか」を考えることに大きな面白さを感じました。

ただ、経営に必要なのは利益だけではありません。最も重要なのは、社員に「この会社で働いてよかった」と思ってもらえるかどうかです。そのためには、事業が継続的に成長していくことが前提ではありますが、同時に、怪我を防ぐための安全面への配慮や働きやすい環境づくり、さらには部署の垣根を越えたコミュニケーションの活性化にも注力してきました。安全で、かつ風通しのよい環境があってこそ、社員が「ここで働けてよかった」と思える会社になると考えています。

ーー社長就任の打診を受けたときの、率直な思いをお聞かせください。

山本克:
スペインにいたある日、本社の経営幹部から電話で「日本に戻ってこい」と言われ、帰国した半年後に社長就任の話をいただきました。

以前、国内製作所の所長に就任した際は、知人が少なく、人脈をゼロから積み上げなければならなかったのですが、今回は、私が長く携わってきた「耐摩工具」や「建設工具」といった馴染みのある製品を扱う、古巣への復帰でした。「これまで積み上げてきた経営の経験を、自分の一番得意な分野で実践できる」という、うれしさと期待感が大きかったですね。

ハイエンドの顧客へ「一級品」を届ける独自のビジネスモデルの強み

ーー貴社の事業内容と、他社にはない強みについて教えてください。

山本克:
弊社では「超硬合金」をキーワードに、耐摩工具、建設工具、工具素材などを手がけています。お客様も、自動車、鉱山、フィルムメーカー、化学プラントなど、業界が多岐に渡るため、特定業界の景気に左右されず、安定した販売が出来ることが強みだと理解しています。

もう一つの大きな特徴は、建設工具の一部を除き、製品のほとんどがオーダーメイドである点です。オーダーメイドだからこそ、各市場トレンドやお客様のニーズをリアルタイムでつかみ、それを製品に反映できることが強みと考えています。

ーーお客様ごとの細かなニーズに応えるために、大切なことは何でしょうか。

山本克:
弊社では「差別化」「匠の技」「一級品」という言葉を大切にしています。汎用的なコモディティ製品ではなく、弊社の強みである材料開発力と、社員一人ひとりの「匠の技」によって生み出される差別化された「一級品」をお客様に提供し、会社の成長、社員の成長を目指しています。

他国などの安価な製品と価格で競うのではなく、品質や性能で圧倒的な差が出る製品をつくる。そのために、材料開発部門は業界内でもトップクラスの体制を整えています。弊社社員の熟練したスキルでもって、高品質を求めるハイエンドのお客様の期待に応え続けること。これこそが、弊社ならではの強みであり、大切なことと信じています。

グローバル展開の加速と未来を創る「情熱と感謝」

ーー今後の展望と、それに向けて取り組んでいることについてお聞かせください。

山本克:
大きな変化の一つとして、2025年7月に社名を「MMCリョウテック株式会社」から「三菱マテリアルハードメタル株式会社」へ変更しました。世界中のお客様に広く認知していただきやすくなっただけでなく、意外な手応えも感じています。採用活動において、学生の方々から「社名が変わって親の受けが良くなった」という声を直接いただいたのです。ご家族からの安心感や信頼が向上したことを肌で感じ、改めて三菱ブランドの重みを認識しました。

会社経営の観点からは、製品戦略と地域戦略を掛け合わせた成長戦略を描いています。これまでも海外展開を着実に進めてきましたが、その取り組みをさらに強化すべく、2025年10月には、グローバル戦略の一環としてタイの第2工場が本格稼働を開始しました。ここでは主に、ビットやロッドといった建設工具を製造しています。さらに今後は太陽光発電の製造に使用されるスロットダイなど、成長市場のニーズを的確に捉え、日本国内にとどまらず、海外市場での事業拡大を一層加速させていく考えです。

ーー最後に、読者やこれから一緒に働く方々へメッセージをお願いします。

山本克:
私は社員に対して、仕事をする上で何より大切なのは「情熱」と「感謝」であると伝えています。情熱がなければ、周りの人を動かすことはできません。そして、誰かが自分のために動いてくれたときには、必ず「感謝」を口に出して伝えることが肝要です。たとえ小さな事であっても、感謝を伝えることで「次もまた協力しよう」という前向きな連鎖が生まれます。

私たちが目指すのは、世界を相手に挑戦し続けながら、社員一人ひとりが「この会社で働けてよかった」と心から思える場所であることです。情熱を持って一歩踏み出し、互いに感謝し合える、そんな誇りある会社をこれからも皆さんとともにつくっていきたいと願っています。

編集後記

超硬合金というタフな素材(ハードメタル)を扱う同社だが、トップである山本氏の言葉の端々からは、社員や顧客への温かな眼差しが感じられた。高度な材料知識を武器に世界を駆け回った営業時代、そこで得た「お客様の声を直接聞く」という姿勢は、現在のオーダーメイド中心のビジネスモデルにも深く根付いている。社名変更やタイ新工場の稼働という新たな追い風を受け、「匠の技」が世界の産業をどう変革していくのか、同社のこれからの飛躍に期待が高まる。

山本克/1961年、和歌山県生まれ。1986年に大阪大学大学院工学研究科を修了後、三菱マテリアル株式会社へ入社。合金素材の開発・製造業務に携わった後、製品の製造・営業を経験。以降、耐摩工具事業部長、明石製作所所長、スペイン三菱マテリアル社長など、国内外で要職を歴任し、経営にも深く関与してきた。2022年4月よりMMCリョウテック株式会社(現・三菱マテリアルハードメタル株式会社)の代表取締役社長を務める。