
世界中が未曾有の混乱に陥ったコロナ禍で、多くの企業が守りの姿勢をとる中、あえて不動産マーケットへ参入した企業がある。それが東通グループだ。共同代表の桜木翔氏が立ち上げた同社は、彼のビジョンに共感し共同事業として参画したマカオで40年以上の歴史を持つ企業のサポートを得て、不動産市場で迅速な取引を展開し、設立から数年で業界内での地位を確立した。現在は不動産投資にとどまらず、再生や開発、ホテル運営、資産運用へと事業領域を広げている。「自分らしい経営を貫きたい」と語る共同代表の桜木翔氏に、急成長を支える戦略と組織づくりへの思いを聞いた。
情報と信頼を引き寄せる「即断即決」
ーーコロナ禍という困難な時期に貴社を設立された背景を教えてください。
桜木翔:
横ばいとなっている不動産市場において、新たな価値を生み出すビジネスを自ら切り拓きたいという強い思いがありました。その構想を本格化させようとした矢先、世界を襲ったのがコロナ禍です。しかし、そんな逆境の中でも私のビジョンに深く共感し、「共に歩みたい」と手を挙げてくれたのが、マカオで40年以上の歴史を持つグループ企業でした。彼らは私の構想を尊重し、事業展開を力強くバックアップしてくれるパートナーとなったのです。
設立直後にコロナ禍となりましたが、私はこれを「危機」ではなく「チャンス」だと捉えました。当時は市場全体が静観気味で、取引量が急激に冷え込んでいた時期です。キャッシュアウトのために売りたい方は大勢いるのに、買い手が極端に少ない状況でした。
その状況を踏まえ、私たちは東京都心の物件取得に踏み切りました。名前も実績もない新会社だからこそ、このタイミングを成長のチャンスにしなければならない。そう考えました。
ーー競合がひしめく中、実績のない状態でどのように優良な物件情報を集めたのですか。
桜木翔:
徹底したのは「スピード」と「インパクト」です。通常、不動産の購入判断には数週間を要します。しかし私たちは、都心エリアの10億円以内の物件であれば、早ければ即日、遅くとも3日以内には回答を出すルールを設けました。物件情報を持ち込んだその日に結論が出る。このスピード感は仲介会社の方々に強い印象を与え、「東通は動きが早い」という評判が広がりました。その結果、私たちのもとに優先的に情報が集まる循環が生まれ、これが初期の成長を支える要因となったのです。
土地のポテンシャルを最大化する「製販管一体」の体制

ーー事業の強みについて教えてください。
桜木翔:
「立地」と「収益性」への拘りです。弊社では東京都心6区を中心に、大阪・福岡の主要都市の中核エリアなど、資産価値の下がりにくい一等地に特化して投資を行っています。また、購入して終わりではなく、グループ内にPM(プロパティマネジメント)事業部や建築事業部を有している点も強みです。管理業務を内製化することで、空室対策や収益改善の施策を迅速に実行できています。
ーーほかに、どのような事業に注力されているのでしょうか。
桜木翔:
再生事業や開発事業にも取り組んでいます。再生事業では、築30年前後のビルを改修し、価値を高めて再販し、街並みに調和した意匠と、高い収益性を両立させています。
開発事業においては、長年かけて買い貯めた土地の権利調整を行い、自社でゼロから企画立案します。コストを抑えつつ、白金台のような高級エリアに富裕層向けの高品質な物件を供給するなど、独自の立ち位置を築いています。
自分らしさの追求と仲間の力を引き出す「等身大の経営」
ーーどのようなスタンスで組織を運営されているのでしょうか。
桜木翔:
実は、私は自分のことを「優秀な経営者ではない」と思っています。実務における財務や人事などの専門知識は、私よりも長けたメンバーが周りにいますから、彼らを信頼し、任せるようにしています。
その代わり、私は自分自身の強みを3点に絞り、そのスタイルを貫くことを大切にしています。1つ目は「行動力・実行力」です。後で振り返って反省することもありますが、スピード感を持って判断すれば、必ず何かが動き出します。2つ目は「現場との距離感」です。常にメンバーの声に耳を傾け、風通しのいい環境をつくることに注力しています。そして3つ目は、何より「明るく元気であること」です。
経営の手法や知識は後からついてくるものですが、その人が持つ根本的な魅力は、いつになっても変えられません。誰かの真似をするのではなく、自分らしい経営スタイルを貫くことが、結果として組織を力強く牽引することにつながると信じています。
ーー社内の雰囲気はいかがですか。
桜木翔:
弊社はよく「不動産好きが集まったサークルのようだ」と言われます。もちろん、プロフェッショナルとして数字には責任を持ちますが、雰囲気は非常にフラットです。役職に関わらず対等に意見を交わせる環境があり、キャリア採用が中心の組織ですが、多様な経験がうまく融合しています。具体的な取り組みとしては、月次で誕生月の社員を祝う会を開催したり、最新のツールを導入したりと、スピード感のある連携を図っています。また、定期的に「社内サーベイ」を実施して現場の声に耳を傾け、改善に活かす仕組みも整えました。
こうした交流は社内だけにとどまりません。社外のパートナー企業の方々とも、発注者と受注者という関係ではなく、共に事業をつくる仲間として接することを心がけています。こうした風通しのよさが、弊社の成長を支える根幹となっています。
「量から質」そして「質から本質」へ
ーー今後の展望をお聞かせください。
桜木翔:
まずは2030年までに運用保有資産額3,000億円を目標に掲げています。これは現在の数倍規模となる挑戦ですが、その達成に向け、2027年春ごろを目処にアセットマネジメントのライセンスを取得し、投資家の皆様から資金をお預かりして運用する事業へと展開していく計画です。
組織の在り方についても、これまで拡大路線で「量」を追ってきましたが、昨年は「量から質へ」、そして今年は「質から本質へ」というテーマを掲げました。単に数字をつくるだけでなく、その業務がどこにつながり、最終的にどういう結末を迎えるのか。物事の核心を見極められる組織にしていきたいと考えています。
さらに、私が不在となっても会社が成長し続けるよう、次世代のリーダー育成にも注力しています。若い世代に機会を与え、バトンを渡せる環境をつくることが、今の私の重要な仕事です。
ーー今後どのような方と共に働きたいとお考えですか。
桜木翔:
一言で言えば、共に楽しく働ける方です。仕事を単なる義務と捉えるのではなく、不動産というビジネスを心から楽しみ、仲間と共に成長できる。そんな前向きなエネルギーを持った方と一緒に、新しい東通グループをつくっていきたいです。
編集後記
「即断即決」の速さでコロナ禍を好機に変えた桜木社長。その果断な戦略の一方で、組織づくりにおいては「サークル活動のような楽しさ」や「対等な関係性」を重視する柔軟さが印象的だった。資本力を武器にしつつも、それに安住せず、「質から本質へ」と組織の深化を急ぐ姿に、単なる不動産会社にとどまらない「総合不動産会社」としての可能性を感じた。運用保有資産額3,000億円という大きな目標も、このチームなら「愉しみ」ながら達成してしまうのではないだろうか。

桜木翔/建築設計を専攻で学んだ後、不動産業界へ。2012年に起業後、複数のベンチャーとスタートアップ企業の出資と経営に携わる。2012年から日本の不動産投資事業に携わり始め、過去10年にわたり日本の不動産業界で豊富な経験と人脈を築いてきた。グループ全体の仕入・販売・投資・開発のマネジメント、特に未来につながる組織体制の柱の創造を担う。