
企業の採用課題に対し、最適なソリューションを提供するトラコム株式会社。Airワーク 採用管理・Indeed・Indeed PLUSなどの求人広告事業を展開し、近年はDX支援やオウンドメディア運用など、事業領域を拡大し続けている。同社の強みは、斬新な提案よりも顧客一人ひとりと誠実に向き合う「人」の力にあるという。その企業文化を築き上げたのが、代表取締役社長の西川明氏だ。キャリアの節目で常に「誰のために働くか」を自問してきた同氏の選択の軸には、一貫した思いがあった。同社の強さの源泉、そして同社が掲げる「温かい雇用」を通じて社会に貢献しようとする情熱に迫る。
「この人のために」キャリアを切り拓いた原動力
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
西川明:
私のキャリアは、大学卒業後に入社した株式会社リクルートフロムエー社から始まりました。就職活動をしていた当時は、マスコミや広告業界が世の中で脚光を浴びていたこともあり、特別な目的意識もないまま、憧れだけで広告代理店を中心に志望していました。その中で唯一「求人広告の営業は泥臭く、キツいですよ」と、仕事の厳しさを正直に伝えてくれたのがリクルートフロムエー社でした。
実際入社してみると想像以上に厳しい環境で、週の目標を達成できなければ休日出社という時代でした。しかし、周囲の先輩方が常に気にかけてフォローしてくれたおかげで成果を上げることができ、またやりがいや日々の充実感を見出すことが出来ました。この経験を通じて、「この人のために頑張ろう」という思いが芽生え、私の仕事観の土台として形成されたように感じます。
ーーその後、転職されていますが、どのような経緯があったのでしょうか。
西川明:
会社を辞めたいと考えたことは一度もありませんでした。しかし当時は、入社10年もすれば「次は何に挑戦するのか」と問い直されるような、個々の自立と卒業を尊ぶ独特の社風があったのです。ちょうどその頃、外資系の生命保険会社が日本で勢いを増しており、多くの先輩が転職していた流れがありました。その様子を見て、「自分もそういう時期なのかな」と保険業界への転職を決めました。
当時は営業力に自信があったため、法人営業から個人向けの営業に変わることについても、特に心配していませんでした。しかし、いざ実務を始めてみると、当時は独身だったこともあり、「家族を守るための保険」を売ることに、私自身の言葉としての説得力や、介在価値が見いだせなくなってしまったのです。
何より、個人の成果がすべてである環境で、リクルート時代のようにチームで達成感を分かち合ったり、周りのスタッフから喜びの声が届いたりすることはありません。収入が増えても、誰の役にも立っていないような虚しさを感じ、一人で戦う孤独を抱えるようになりました。
ーーそこから現在に至るターニングポイントについてお聞かせください。
西川明:
転職して1年が経過したころ、私は次の進路を考え始めました。ちょうどそのとき、リクルート時代に出向先で縁があった、オフィストウエンティワン株式会社(トラコムの前身)の社長から熱心に誘いを受けていたのです。
他社からも好条件の打診があり迷っていましたが、リクルート時代の先輩に相談したところ、「給与や条件でなく、その会社の社長やメンバー、誰と一緒に働きたいかで決める、おまえは絶対その方がいい」そう言われて、私はハッとしました。「損得ではなく人で選ぶ」と決めたこの経験は、今も私の揺るぎない指針となっています。
商品力以上に大切な「人」の力 誠実さが生む信頼関係

ーー貴社の事業内容と、他社にはない独自の強みを教えていただけますか。
西川明:
主な事業は、採用にお困りの企業様と仕事を探している求職者の方を、求人広告をはじめとするあらゆる手法でつなぐことです。同業他社は多くありますが、私たちの扱う求人広告は形がなく、正解もない商品です。だからこそ、最終的には「人で選んでもらう」ことが最大の強みになると考えています。
単に斬新な提案や、奇をてらったアイデアだけで成果が出せるとは考えていません。正解のない商材だからこそ、お客様を誠実に思い、力になりたいという姿勢を伝えられるかが重要です。たとえ成果がすぐに出なくても、一生懸命で憎めない。そんな人間的な魅力で「もう一回頼もうか」と思っていただけるような関係性を築くことを大切にしています。
ーー中小企業から大手まで、幅広く取引されている理由は何でしょうか。
西川明:
ありがたいことに大手企業様ともお付き合いはありますが、私たちの原点は、昔から地域の小さな会社を大切にする姿勢にあります。たとえば、地方のそば屋さんといった、一見すると採用ニーズがあるのか分からないようなお客様との出会いを一つひとつ大事にしてきました。営業効率だけを考えれば大きな案件を追う方が楽でしょう。しかし、この仕事を長く続ける中でドラマが生まれるのは、むしろ中小企業の経営者と膝を突き合わせてお付き合いする中です。そこで生まれる一生のお付き合いこそが、私たちの財産であり、やりがいだと感じています。
社員の「伸びしろ」を信じる 独自の組織づくりと人材観
ーー社長に就任された当時、組織のどのような点に可能性を感じましたか。
西川明:
弊社の採用方針は「ええやつしか取らない」ことです。ここで言う「ええやつ」とは、素直で誠実な人材を指します。どこかどんくさいところがあっても、人として魅力がある。そんな社員が仕事を通じて、大切なことを学び、大きく変化し成長していくのです。
入社時点では不器用に見えるような社員でも、その後の「伸びしろ」には計り知れない可能性があります。一人ひとりが持つ成長の幅を信じ、一歩ずつステップを上がっていく。そうすれば、もっと強い組織になれると確信しています。大事なことは、どんなことがあっても「人を信じる」こと。たとえ途中で卒業、離脱する子がいたとしても、絶対に「騙された」「裏切られた」という風に思わないようにしています。
ーーどのような方と一緒に働きたいとお考えですか。
西川明:
何でもいいので、自分の中に「軸」や「芯」を持っている人には魅力を感じます。あとは、純粋に「誰かのためになりたい」という思いがあるかどうかを大切にしています。たとえば、面接でただ漠然と「幸せになりたい」と話す方がいます。しかし、その方法が分かっていないことが多いのです。そうした方が仕事を通じて、人から感謝され、必要とされる喜びを体感することで、自分なりの幸せに気づいてくれるのです。
この仕事は、人の役に立つ実感を持ちやすいからです。仕事を通じて成長し、自分なりの幸せを見つけていってほしいと思っています。
「温かい雇用」で日本を元気に 働く喜びが社会を明るく変えていく
ーー今後、事業としてどのような領域に注力していきたいですか。
西川明:
これまではリクルートの求人媒体を主に取り扱ってきましたが、今ではあらゆる企業のサービスを扱えるようになり、お客様への提案の幅が大きく広がりました。今後は求人広告の領域にとどまらず、入社後の育成や研修、飲食店の集客支援など、お客様のあらゆる要望に応えられる存在になりたいと考えています。「何か困ったら、まずトラコムに相談してみよう」と思っていただけるような、経営のパートナーを目指していきます。お客様の課題解決に貢献できるサービスを、一つひとつ着実に増やしていきたいです。
ーー3年後、5年後を見据えた、中長期的な目標についてお聞かせください。
西川明:
社員たちに「自分たちの仕事は、日本をよくする仕事なんだ」と、誇りを持って働いてほしいという思いがあります。世の中には働くことに希望を持てず、道を踏み外してしまう人もいます。そうした中で、私たちの仕事は人の心を温かくする「温かい雇用」を生み出すことができます。「この仕事に就いてよかった」「この会社で働けてよかった」と感じる人が一人でも増えれば、社会から負の感情が少しずつ消えていくと信じています。
また、今後は地方創生にも貢献していきたいと考えています。現在、主要都市を中心に展開していますが、地方には大手が撤退し、雇用課題が置き去りにされている地域が少なくありません。地方の企業と地元で働きたいと願う若者をつなぐことで、日本全体を元気にしていきたい。それが、私たちの次なる使命だと思っています。
編集後記
西川氏の言葉の端々から感じられたのは、キャリアの原点から未来のビジョンに至るまで、一貫して「人」を思う深い愛情だった。誰かのために働く喜び、人で選ばれることの価値、そして社員一人ひとりの可能性を信じ抜く姿勢。それらが同社の揺るぎない土台を築いている。単なる採用支援に留まらず、「温かい雇用」を通じて社会をよくしたいという壮大な目標は、同氏が歩んできた「この人のために」という道のりの延長線上にあるのだろう。人とのつながりを力に変え、日本全体を元気にしようとする同社の挑戦に、今後も期待したい。

西川明/1971年6月29日生。兵庫県出身。1994年に株式会社リクルートフロムエー、2004年に某生命保険会社へ入社。2006年にオフィストウエンティワン株式会社に入社後、2009年にトラコム株式会社を設立(オフィストウエンティワンなどの3社が合併し設立)。2019年に同社の代表取締役社長に就任。