※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

オートバイ販売と整骨院という、2つの異なる領域で事業を展開する株式会社パルス。オートバイ販売では、長期的な関係性の中で収益を確保することを前提とし、その分、車体販売時の利益を極限まで抑えて提供するスタイルを貫く。一方、2023年より始動した整骨院事業では「治療×運動」を掲げ、顧客の根本的な健康課題の解決に寄り添い続ける。これら両事業に共通するのは、顧客と長く深く付き合う「ストック型経営」の思想だ。代表就任時に直面した危機を乗り越え、トップダウンからチーム経営へと組織を変革してきた同社の代表取締役である太藤一平氏に、その事業戦略と今後の展望を聞いた。

売上半減の危機から利益3倍へ 中古車戦略とチーム経営の改革

ーー代表取締役に就任されるまでの経緯についてお聞かせください。

太藤一平:
もともと家業としてオートバイ事業を営んでいましたが、私自身は会社を継ぐつもりは全くなく、大学卒業後はIT企業の株式会社オービックに入社しました。将来は自分で起業しようと考えていたものの、準備中に計画が頓挫したタイミングで父から声をかけられ、前職の同僚と共に弊社へ入社することになったのです。

その後、2013年に代表取締役に就任しましたが、当時はまさに会社の大きな転換期でした。私が事業を引き継いだタイミングで、当時の売上の約半分を占めていた主要取引先との契約が終了するという、予期せぬ事態に直面したのです。税理士からも厳しい経営見通しを伝えられるなど、まさに危機的な状況からのスタートでした。

ーーそこからどのようにして業績を回復させたのでしょうか。

太藤一平:
大きく分けて2つのことに取り組みました。まず1つ目は、事業戦略の転換です。当時の弊社は新車の販売が95%以上を占めていましたが、そこから利益率の高い中古車販売に注力する方針へと大きく舵を切ったのです。この戦略が功を奏し、売上・利益ともに代表交代前を上回る水準まで成長させることに成功しました。

2つ目は、組織体制の変革です。先代である父の時代のトップダウン経営から、私を含む3人のチームで意思決定を行う体制へと移行を図りました。私一人で経営判断を下すよりもチームで動くほうが結果は良く、利益は3倍近くまで伸長しました。何より、個々の社員が持てる力を存分に発揮できる組織へと生まれ変わったことこそが、V字回復の大きな要因だといえるでしょう。

共通点は「ファンづくり」 オートバイと整骨院で貫くストック型経営

ーー2023年からは整骨院事業も展開されていますが、なぜ、この分野へ参入されたのですか。

太藤一平:
根本にあるのは、お客様がファンとして積み重なっていく「ストック型」のビジネスを展開したいという想いです。私はもともと小売業が好きで、特にオートバイ事業のように、販売して終わりではなくメンテナンスなどを通じてお客様と長くお付き合いしていくモデルに魅力を感じていました。オートバイという商材にこだわらず、これと同じ思想で展開できる事業を探す中で、整骨院という業態にたどり着いたのです。

具体的な経緯としては、2023年に別法人が運営していた整骨院を引き継ぐ形で事業に参入しました。そこから実務を通じてノウハウを蓄積し、現在は4拠点を運営するまでに至っています。今後さらに店舗を増やしていく計画です。

一見すると全く違う業種に見えますが、経営の本質は共通しています。どちらも、一度ご来店いただいたお客様に満足していただき、ファンになって再訪していただく。この繰り返しでお客様との関係を積み上げていくビジネスであり、この軸は揺らぐことはありません。

ーー貴社の事業における強みやこだわりをお聞かせください。

太藤一平:
私たちの最大の強みは、目先の利益にとらわれず、出店地域のお客様との長期的な関係性を重視した事業設計を行っている点です。たとえばオートバイ事業では、販売時の利益率を極限まで抑えて接点をつくり、その後のメンテナンスを通じて信頼を深め、トータルで収益を確保するモデルです。整骨院事業でも同様に、一時的な痛みの緩和ではなく、トレーニングジムを併設して症状の根本改善を目指すことで、お客様の長期的な健康の維持、増進に貢献しています。

こうした長いお付き合いを実現するためにこだわっているのが、「専門性」、「応用力」、「コミュニティ作り」です。地域の方々が納得する専門性を持つこと、画一的なサービスではなく地域毎に異なるお客様の要望にきめ細かく応える応用力を持つこと、地域に根差して、人と人のコミュニケーションの場として機能すること。

この3つを愚直にやり続けた結果、パルスは30年以上存続しています。

「人が主役」の経営 閉店ゼロの実績と対価以上の価値で描く未来

ーー人材の採用や育成については、どのようにお考えでしょうか。

太藤一平:
採用において求めているのは、単にバイクやスポーツが好きというだけでなく、お客様と接すること自体に喜びを感じられる方です。私たちの仕事は、お客様が納得いくまで説明を尽くすなど、コミュニケーション能力が重要となるからです。

育成面では、業界未経験の方でも3年ほどで一人前になれる環境を整えています。オートバイ事業であれば、3年で技術と対話力を兼ね備えた「セールスメカニック」として信頼される存在を目指せますし、整骨院事業でも、3年の実務経験を経て院長という責任あるポジションに挑戦することが可能です。入社後は一人ひとりの望む将来像に合わせて、個別のキャリアパスをオーダーメイドで共に構築していきます。社内で経験を積み経営幹部を目指す道はもちろん、将来的に独立を志向する方にはフランチャイズという形での支援も可能です。社員が最も輝けるステージを用意することが、結果として会社の成長につながると考えています。

ーー最後に、会社として目指す姿についてお話しいただけますか。

太藤一平:
店舗数ありきの拡大計画は立てていません。あくまで「人」が主役であり、私たちの考えに共感してくれる人材を採用し、その人が成長したタイミングで新しい店を出すという順番を何より大切にしたいと考えています。

全ての事業のベースにあるのは、「お客様からいただくお金よりも、提供するものの価値の方が高い状態でなければならない」という思いです。これが事業を継続させるうえで最も大切なことだと考えています。私たちが提供しているサービスの価値は、対価を上回っているという自信があります。だからこそ、この価値を提供できる場所を一つでも多く増やしていきたいのです。

これまで移転以外の理由で店を閉めたことは一度もありません。それは、私たちが提供する価値がそれぞれの地域の人々に受け入れられている証拠だと捉えています。これからもこの姿勢を貫き、一つひとつの地域で信頼を積み重ねてまいります。

編集後記

オートバイ販売と整骨院。一見すると接点のない2つの事業は、太藤氏が掲げる「顧客を一生のファンにする」という強い思いでつながっている。目先の利益を追うのではなく、対価を上回る価値を提供し続けることで、地域に根ざした揺るぎない信頼を築き上げているのだ。「人が主役」と語る同社の真価は、関わる一人ひとりの可能性を引き出す仕組みにある。個々の望む将来像に寄り添い、共に歩んでいく姿勢。こうした誠実な対話の積み重ねこそが、顧客や社員の未来を支える力となっている。変化の激しい時代において、同社がどのような新しい価値を地域社会に届けてくれるのか、これからの展開に期待せずにはいられない。

太藤一平/1978年兵庫県生まれ。立教大学卒。株式会社オービックを経て、家業である株式会社パルスに入社。2013年に同社代表取締役に就任。