
情報処理サービスを展開し、グループ全体で640名以上の従業員を抱えるキステム株式会社。代表取締役社長の井門一美氏は、化学メーカーの研究開発から家業を継ぎ、IT業界の荒波を乗り越えてきた異色の経歴を持つ。「過去の技術を守っていては価値がなくなる」というIT業界特有の性質を理解し、常に挑戦を続けている。AI台頭などの環境変化を逆手に取り、独自の生存戦略を推し進める同社。55年前から変わらない求める人物像「知的野生人」に込められた思いと、未来への展望をうかがった。
化学プラントの設計からIT業界へ 異分野からの転身
ーーまずは貴社に入社された経緯を教えていただけますか。
井門一美:
もともと私は化学が好きで、大学でも化学を専攻し、卒業後は積水化成品工業に入社しました。そこではプラスチックの研究や、化学プラントをつくるためのプロセスの設計を担当していたのですが、非常に創造性が必要とされる楽しい仕事でしたね。しかし私が30歳くらいの頃に、創業者である父が倒れてしまったのです。当時社員が20人ほどおり、「なんとか後を継いでくれないか、そうでないと社員が困る」と頼まれ、迷いに迷った末に家業を継ぐ決心をしました。
ーーIT業界は未経験からのスタートだったのでしょうか。
井門一美:
当時はプログラムもやったことがなかったので、イチから勉強してプログラムの開発業務を行いました。その後、会社を大きくするためには顧客数を増やさなければいけないと考え、営業経験はゼロでしたが、一人で営業活動も始めました。業界のことなど何もわからない状態からのスタートでしたが、必然性に迫られる中で会社を拡大していく努力を続けたのです。
AIの台頭を逆手に取る独自の生存戦略

ーー現在展開されている事業について教えてください。
井門一美:
弊社の事業は、「地域型事業」と「都市型事業」の2つに分かれています。地域型事業では、滋賀や奈良、岡山などで自治体や中小企業をきめ細かくサポートする一方、都市型事業では将来的な人口減少や道州制への移行を見据え、関西の中心である大阪に注力し、大企業向けのシステム開発などを手がけています。
現在、GATE-GROUPはIT関連会社8社で構成されており、滋賀に2社、奈良、岡山、そして大阪に4社と計14拠点を構えています。グループ全体の従業員数は約630名で、人員の比率で見ると地域型と都市型はちょうど5対5、半々くらいのバランスを保っている状況ですね。各社ともに利益・売上高ともに安定的に推移しており、グループ全体の売上高は100億円を突破し、今期は150億円程度を見込むまでに成長いたしました。
ーー今後特に注力していくテーマは何ですか。
井門一美:
現在、小学校から1人1台パソコンが与えられ、プログラムを勉強した人たちが将来大量に社会に出てきます。さらにAIが進展すれば、人の手を介さずにソフトウェアがつくられる時代が来るかもしれません。そこで私たちが力を入れているのが、AIが苦手とする通信やネットワーク関係の構築と工事の分野です。LANケーブルを引くような物理的な工事は、現時点では人にしかできません。
また、自社商品の開発は「地域で培った技術を形あるものにし全国に展開しよう」を合言葉に、地域の垣根を超え展開していく考えです。たとえば、世界トップクラスの精度を誇り、日本の光学製品を支える超精密加工システム「Opt-1(オプトワン)」や、官公庁など多くの公共機関で国内上位のシェアを占めるWebアクセシビリティ特化型CMS「UDFace」、さらにはバスケットボールやバレーボールなど多くの競技団体に導入されているスポーツ団体用システム「NFメンバーシップ」および「NFバックオフィス」、導入実績1,000店を超える飲食店オーダーシステム「ハヤワザ2」など、各拠点で特色ある製品を展開しています。
市場規模は決して大きくなくとも、特定の分野で世界中どこにも負けない「ニッチトップ」を複数保有すること。それが、私たちの揺るぎない生存戦略です。
55年間変わらない求める人物像「知的野生人」
ーー採用においてどのような人材を求めていますか。
井門一美:
情報処理の学部を出ていなくても、論理的思考能力を持っている方に来ていただきたいですね。弊社には55年前から変わらず掲げている「知的野生人」という求める人物像があります。これは、論理的に物事を考える「知性」と、困難を乗り越える精神的な「野性的たくましさ」を兼ね備えた人材を指しています。私がこの業界に入った当時、ソフトウェア技術者は少し浮ついた印象を持たれがちでした。だからこそ、頭でっかちにならず、タフに突き進める人を求めてこのキャッチフレーズと絵をつくり、今も大切に使い続けているのです。
ーー最後に、今後のビジョンや会社像についてお話いただけますか。
井門一美:
「過去の技術を守っていては価値がなくなる」というIT業界特有の性質を理解し、常に新しいものへと挑戦を続けながら、20年後も世の中から「キステムがなくなったら困る」と必要とされ続ける企業でありたいと考えています。そのために、私たちは次の3つの柱を軸に進化を続けていきます。
1つ目は、高度な技術製品の開発です。単なる受託開発にとどまらず、ニッチな市場に対して時代に即した新技術を組み込み、尖った製品開発に注力します。たとえば「Opt-1」のように、高度な数学的知見とITを融合させた、一朝一夕には真似できない製品をさらに生み出していく構えです。
2つ目は、情報インフラ構築事業の拡大です。ソフトウェアの自動作成が進むからこそ、その基盤を支える人間の技術・技能が不可欠となります。AIには代替できない通信インフラ構築の力をさらに高め、社会の土台を支えていきます。
そして3つ目が、地域密着・地域サポート力の強化です。人口減少や少子化により、地方のIT人材不足は深刻さを増しています。そうした中で、地域に根差したITサポートやSI(システムインテグレーション)事業を提供し、地方の企業や公共機関から「愛され、頼られる」企業を目指します。
時代がどんどん変わっていく中で、常にお客様のニーズに応え、技術もステップアップさせていかなければなりません。いつの時代であっても、お客様から選ばれ、必要とされる会社であり続けること。それが私たちの目指す姿です。
編集後記
異業種からIT業界へ飛び込み、会社の基盤を築き上げた井門氏。その言葉の端々には、現状に甘んじることなく未来を見据える経営者としての鋭い視点が感じられた。AI技術の進化や業界構造の変化を悲観するのではなく、それを逆手に取った通信工事事業への注力やニッチトップ製品の開発という戦略は、非常に合理的かつ泥臭い実践に裏打ちされている。「知的野生人」という言葉が示す通り、論理とたくましさを武器に進化を続けるキステム株式会社の挑戦は、これからも続いていくだろう。

井門一美/1950年滋賀県生まれ。1973年に同志社大学工学部を卒業後、積水化成品工業株式会社に入社し、化学プラントの設計などに携わる。1980年に近畿情報システム株式会社(現・キステム株式会社)へ入社。1983年に同社代表取締役に就任。異業種での経験を活かした独自の経営視点で、GATE-GROUPを独立系IT企業として大きく成長させている。