※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

埼玉県入間市を拠点とする「入間ケーブルテレビ」グループにあって、次世代の植物工場運営を展開するのが株式会社ICTVスマイル農場だ。同社は、グループが放送事業で培ってきた「地域インフラ」としての信頼を礎に、地域の高齢化や耕作放棄地といった社会課題を解決すべく農業分野へ参入した。今回は、グループの創業から多角的な事業展開までを牽引し、現在は農業事業の代表取締役社長を務める荻野喜美雄氏に、同社が描く地域の未来と若手に託す期待について詳しく話を聞いた。

創業の原点 地域を救う放送への確信

ーー創業を決意された背景についてお聞かせください。

荻野喜美雄:
私がケーブルテレビ事業を創業したのは40歳のときでした。きっかけは、ロサンゼルスに住む同級生を訪ねて渡米した際、ラスベガスで開催されていた「ケーブルテレビフェア」に足を運んだことです。そこで目にした地域密着型のメディアの在り方に私は強い衝撃を受けました。「これこそが日本に、そして私の故郷であるこの地域に必要なものだ」と直感したのです。帰国後、同じ志を持つ相棒であり、同社の元副社長を務めた鈴木とともに、入間ケーブルテレビを立ち上げるための活動をスタートさせました。

ーー事業のあり方を決定づけるような、大きな転機はありましたか。

荻野喜美雄:
阪神淡路大震災での経験が、私の公共放送に対する姿勢を決定づけました。当時、市議会議員をしていた知人と共に、材木を担いで救済活動のため現地へ向かったのですが、そこで目にしたのは、ラジオから流れる安否確認や物資情報を必死に聞き入る人々の姿でした。神戸の小さな放送局が、地域の生命線となっていたのです。この光景を目の当たりにし、いざという時に地域住民を守るための放送局が必要だと確信しました。これがコミュニティFM「FMチャッピー」の設立へと繋がっています。

第二の創業 社会課題を解決する次世代農業の形

ーーその後の放送事業は、順調に推移したのでしょうか。

荻野喜美雄:
設立当初こそ右肩上がりでしたが、時代の変化とともに「メディアを取り巻く環境」は激変しました。動画配信サービスの台頭などで、既存のケーブルテレビの契約だけで食べていくことは年々難しくなっています。単にインターネット回線を提供するだけでは、大手との価格競争に巻き込まれるだけです。だからこそ、メディアという枠組みを超えて、地域に根ざした新しい価値を生み出す必要がありました。そこで着目したのが、耕作放棄地の増加や高齢化といった地域課題そのものをビジネスに変える、農業への参入だったのです。ただの農業ではなく、天候に左右されず、高齢者や未経験者でも安定して働ける「植物工場」であれば、地域の雇用を守りながら事業としても成立させられると確信しました。

ーー現在の植物工場における生産体制やその特徴について教えてください。

荻野喜美雄:
現在は東松山市にある「スマイル農場」を拠点に、一日約4,000株のレタスを生産しています。研究施設レベルの衛生環境を整え、防塵服(クリーンスーツ)やエアシャワーを完備した環境で無農薬栽培を行っています。種から育てて36日で出荷するスピード感と、洗わずにそのまま食べられる手軽さが最大の強みです。また、生産した野菜をケーブルテレビの加入者様へ直接お届けすることで、お客様とのコミュニケーションを深め、地域に根ざした独自のサービスモデルを構築しています。

若手が主役 失敗を推奨する未来塾と自由な裁量

ーー若手社員の成長を支えるための取り組みについてお聞かせください。

荻野喜美雄:
「財産は人である」という経営ポリシーのもと、若手社員が自由に議論し、会社の未来を描くための場として「未来塾(みらいじゅく)」を主催しています。これは私と相棒の鈴木が個人的に開催している勉強会で、テーマを決めずに勤務時間中に自由な対話を楽しんでもらう場です。今の日本の若者は、決められたレールの上を歩むことを求められがちですが、私は彼らに「白いキャンバスに自分たちの色をつけてほしい」と願っています。

ーー若手社員にはどのような姿勢で仕事に臨んでほしいと考えていますか。

荻野喜美雄:
何よりも「どんどん失敗しろ」と伝えています。実際、現在の植物工場の責任者を務めているのは、もともと総務課の係長だった若手社員です。経験の有無にかかわらず、意欲のある人間に大きな裁量を与え、挑戦させるのが弊社のスタイルです。失敗を恐れて動かないことよりも、挑戦して得られる学びの方が遥かに価値があります。会社は役員のものではなく社員のものです。社員が自発的に「自分たちが安定して暮らすために、どういう会社にすべきか」を考え、一歩ずつ階段を登っていく姿を見守ることが私の役割だと考えています。

未来への展望 自律した社員が創る地域インフラの形

ーー今後、会社として注力していきたい分野について教えてください。

荻野喜美雄:
再生可能エネルギーの活用と、さらなる地域課題の解決に注力します。現在は11ヶ所で太陽光発電事業を展開しており、そこで生み出した電力を農業や電気自動車の動力源として活用するサイクルを構築中です。また、高齢化社会における「安全」を守るため、月額制の防犯カメラ事業も強化しています。これらは単なる思いつきではなく、数十年先を見据えた長期的な計画の一部です。農業分野でも、ワイン造りやレタスを使ったビール開発など、若手のアイデアから生まれる新しい挑戦は尽きることがありません。

ーーこれから社会へ出る若者たちへメッセージをお願いします。

荻野喜美雄:
失敗を恐れず、自分の可能性に枠をはめないでください。弊社には、若手が主体となってソーラーパネルの設置場所を選定したり、新しい商品の企画を立てたりする自由な土壌があります。私は82歳になりますが、新しいことに挑戦する楽しさは今も変わりません。地域をより良くしたい、自分たちの手で新しい事業を創りたいという熱意を持った方と一緒に働けることを楽しみにしています。成功の陰には必ず多くの失敗がありますが、それを乗り越えた先にある景色を、ぜひ皆さんの手で掴み取ってください。

編集後記

ICTVスマイル農場の魅力は、最先端の植物工場というハード面だけでなく、若手の自由な発想を「未来塾」というソフト面で支える懐の深さにあると感じた。レールを敷くのではなく、キャンバスを差し出す。その温かな期待に応えようとする若手社員たちが、地域の未来をどう彩っていくのか。同社の飽くなき挑戦は、これからも続いていくだろう。

荻野喜美雄/1986年入間ケーブルテレビを設立。地域メディアの発展と市民参加型の情報発信に注力。阪神淡路大震災を契機に1997年FMチャッピーを開局。日本コミュニティ放送協会代表理事就任時には東日本大震災に直面し、29局の臨時災害放送局開設を支援。現在は4つのCATVを運営。地域課題と向き合う新たな挑戦として農業へ参入。植物工場のレタス栽培を軌道に乗せ、いちご・トマトを生産。さらに栽培品目拡大に挑み続けている。