※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

「毎日牛乳」のブランドで広く親しまれている日本酪農協同株式会社。1948年の創業以来、近畿圏を中心に学校給食や家庭へ新鮮な乳製品を届け続けてきた。同社のスローガンである「毎日飲んで毎日健康」には、人々の健やかな暮らしに貢献したいという不変の願いが込められている。

現在、同社は全国農業協同組合連合会(全農)のグループ企業として、生産基盤である酪農経営の支援にも注力している。原材料費の高騰など酪農家を取り巻く環境が厳しさを増す中、牛乳の価値訴求を通じて持続可能な産業構造の構築を目指す代表取締役社長、後藤正純氏に話を聞いた。

第一次産業の最前線で30年 経営の礎を築いた銀行員時代

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

後藤正純:
大学卒業後は、第一次産業を支える金融という点に魅力を感じ、農林中央金庫に入庫しました。それから約30年にわたり、青森や高知、和歌山、鹿児島といった全国各地の支店での現場業務と、本店を交互に経験してきました。

特に和歌山で水産業にかかわる金融を担当した時期は、非常に印象に残っています。当時、厳しい環境下で、代々受け継いできた水産業の仕事をたたむ決断をする方が何人もいらっしゃいました。第一次産業の生産者が置かれた過酷な現状を目の当たりにし、この産業をどう守り継続させていくかを必死に考えた経験は、今の仕事の原点です。また現場の苦悩を肌で感じた一方で、本店の経営企画セクションでは中期経営計画の策定などに携わりました。

現場と経営企画の双方を経験したことで、物事を俯瞰して捉える視点と、バランス感覚の重要性を学びました。組織の強みと弱みを見極め、どこに注力してどう進めるべきかを考えるこの視点は、メーカーの経営に携わるようになった現在、事業計画を策定する上でも大きな力になっています。

10億円の市場を100億円へ成長させた経営の原点

ーーその後はどのようなキャリアを歩まれたのですか。

後藤正純:
農林中央金庫を退職した後は、ボーソー油脂株式会社や協同乳業株式会社で経営を担っていました。ボーソー油脂では、当時は業務用が主流だった国産原料の「米油」に着目し、家庭用市場の開拓に注力しました。希少な「国産」の油であることを訴求することで市場拡大ができると確信し、取り組んだ結果として、僅か10億円程度だった国内市場が100億円を超える規模に成長した経験は、私にとってメーカー経営の原点となっています。その後、協同乳業での経験を経て、2024年に弊社の社長に就任しました。扱う商品は変わっても、第一次産業の価値を深掘りして消費者に届けるという姿勢は一貫して守り続けています。

ーー貴社の社長に就任された際、どのような心境でしたか。

後藤正純:
弊社は長年オーナー企業として歩んできましたが、私が就任する数年前に体制が変わり、現在は全農の子会社となっています。組織の大きな転換期に立ち、これまでの「トップがすべてを決め、社員がそれに従う」という在り方から、一人ひとりが主体となる組織へと変革する必要があると感じました。

そこで社員の意識を変えるために、まずは会社の現状を正しく理解してもらうことから始めました。具体的には、これまで明確な形で定められていなかった経営計画を初めて策定し、基本方針から個人の業務計画にまで落とし込んで、自分の仕事の位置付けを可視化しました。この計画については、私自ら全国の工場や拠点を回って直接説明を行いました。社員が自分の仕事に達成感や自己実現を見いだせるような環境を、一歩ずつ構築していきたいと考えています。

牛乳が事業の根幹 酪農家と共に歩み品質を追求する

ーー貴社の事業における特徴や強みについてお聞かせください。

後藤正純:
大きな特徴としては、事業の約60%を牛乳が占めている点です。特に学校給食では、大阪府を中心に2府8県、約1,500の小中学校に供給しており、年間約1億本もの牛乳を届け、子どもたちの成長を支える重要な役割を担っています。牛乳を多く販売することは、厳しい環境にある酪農家の経営を直接支えることにもつながります。私たちは酪農家の方々と密接な関係にあり、共に歩んでいくという意識で取り組んでいます。

ーー事業を行う上で、最も大切にされている理念は何でしょうか。

後藤正純:
絶対的な品質の追求です。私たちの製品は、人々が口にし、健康に影響を与えるものですから、高い品質を維持することは、私たちメーカーの社会的使命だと考えています。この思いは、製造現場だけでなく物流や事務など、すべての業務にかかわる社員が共有すべきものです。「私たちは食品を扱っている」という意識を常に持ち、お客様に最高の製品を届けられるよう、全部門で品質にこだわっていきたいです。

ーー地域社会とのかかわりについてはどのような活動を行っていますか。

後藤正純:
地元の方々とのつながりを大切に考え、食育やスポーツ支援といった多角的な活動を展開しています。具体的には、地元の小学生を対象とした工場見学の受け入れや、管理栄養士による食育の出前講座などを実施してきました。

また、堺市を拠点とするプロバレーボールチームと協力し、市内の小中学校へボールを寄贈するスポーツ振興にも取り組んでいます。こうした地道な活動が評価され、日本食糧新聞社より『地域食品産業貢献賞』をいただくことができました。事業を通じて地域に根差し、貢献を続けることは、弊社の重要な使命の一つだと考えています。

「組織は人」 社員の挑戦を後押しして未来を拓く

ーー今後の事業展開について、どのようなビジョンをお持ちですか。

後藤正純:
まずは、トップラインである売上高を上げていきたいと考えています。そのために、昨年、営業体制を強化し、より積極的な活動を展開しています。もちろん、利益とのバランスは重要ですが、企業の成長を社員にも分かりやすく示すことで全体の士気を高めていきたいです。同時に、牛乳をはじめとする国産農産物の価値や、それを守ることの重要性をSNSなどを通じて積極的に発信していきます。

ーー人材育成についてはどのような考えがありますか。

後藤正純:
会社を支える人そのものの成長こそが、企業の発展に直結すると考えています。そのためには、社員一人ひとりが自らの役割を正しく理解し、仕事を通じて自己実現や達成感を得られる環境を整えることが欠かせません。

そのため、現在は従業員組合との対話を重視し、現場の声を吸い上げながら職場環境の改善に取り組んでいるところです。労使が対立するのではなく、共に歩む協調や共闘の関係を築くことで、全員が同じ方向を向いて成長できる組織を目指しています。今後は研修体系をさらに充実させるなど、個人の成長を多角的に後押しする仕組みづくりを加速させていく考えです。

ーー最後に、読者の方や若い世代へメッセージをお願いします。

後藤正純:
自身の限界を決めつけず、あらゆることに果敢に挑戦していただきたいです。そのために若手社員が自由な発想で意見を発信できる風土を築いていきたいと考えています。たとえば、一昨年から、若手の女性社員中心のチームで行っているSNSの運用なども、彼女たちの感性に一任しています。その結果、当初300人程度だったInstagramのフォロワーは、短期間で2万人を超えるまでになりました。

挑戦において、最初から全てを成功させる必要はありません。たとえ100のアイデアを試して、最後に1つか2つが形に残るだけでも十分だと私は考えています。大切なのは、失敗を恐れずに自分の持ち場で創意工夫を凝らし、それを発信し続ける勇気を持つことです。個々の情熱を組織が受け止め、対話を重ねることでより良い未来はつくられます。前向きな志を持つ皆さんと、これからの社会を共に盛り上げていけることを心より楽しみにしています。

編集後記

「現場の苦悩を知るからこそ、安易な綺麗事は口にしない」。農林中央金庫での約30年、第一次産業の厳しい現実と向き合い続けた後藤氏の言葉には、生産者への深い敬意と日本の食を支える産業への強い使命感がうかがえる。「組織は人」という信念の下、社員一人ひとりが主体性を発揮できる組織への変革を進める同社。現場を知るリーダーの牽引力と、挑戦を歓迎する風土が融合する時、日本酪農協同は新たな成長ステージへと駆け上がるだろう。

後藤正純/1984年早稲田大学卒業。同年4月に農林中央金庫に入庫。約30年にわたって、全国各地の支店での現場業務と、本店の経営企画などのキャリアを積む。2015年からは、ボーソー油脂株式会社や協同乳業株式会社にて経営に携わる。2023年、日本酪農協同株式会社に入社。翌年、同社の代表取締役社長に就任。