※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

奈良県生駒郡に本社を置き、ゆで麺や調理麺の製造・販売を手がけるイシメン株式会社。主力ブランド「三代目石田製麺所」は、チルド麺の域を超えた独特の食感で、多くの消費者から支持を集めている。2024年、27歳の若さで代表取締役に就任したのが石田拓己氏だ。大学院で研究の道を志していた同氏は、コロナ禍をきっかけに家業への入社を決意した。研究者としての冷静な分析力と、麺のルーツがある奈良の歴史を技術に融合させようとしている同氏は、どのような未来を描いているのか。若きリーダーが描く、製麺の新たな可能性と挑戦に迫る。

研究の道から家業へ コロナ禍で下した決断

ーー社会人としての最初のキャリアについて教えてください。

石田拓己:
修士課程を修了し、家業である弊社へ入社したのが社会人としての第一歩です。もともと大学に入ったときから博士課程への進学を視野に入れ、研究の道をどこまで突き詰められるか挑戦したいと考えていた時期です。一方で、その道から外れることがあれば家業を継ぐという選択肢もありました。研究者を目指すか、弊社に戻るか。二つの道の間で葛藤しながらも、まずは目の前の研究に打ち込む日々でした。

ーーどのような経緯で貴社への入社を決断されたのでしょうか。

石田拓己:
2020年3月、修士2年生の春に発生したコロナ禍が大きな転機となりました。当時は海外留学を計画し、日本と海外を往復しながら研究を続けるつもりでした。しかし、世界的なロックダウンにより留学はストップせざるを得ませんでした。

時を同じくして、当時60歳前後だった父が感染症で倒れるリスクを意識するようになりました。父が一人で会社を切り盛りしていたため、万が一の際に誰が継ぐのかという問題が浮上したのです。当時、4歳下の弟はまだ大学2年生でした。弟の学業や父の状況を諸々加味した結果、長男である私が継ぐのが最もスムーズだと判断しました。こうして、研究の道を断ち切り、家業へ入る決意を固めた次第です。

現場経験を糧に挑む 20代での組織改革

ーー入社後はどのように社内での経験を積まれてきたのでしょうか。

石田拓己:
入社後の1年間は、新入社員として3か月ごとに各部署を回るローテーション研修を受けました。製造現場に半年、営業に3か月、仕分け部門に3か月在籍し、まずは社内の体制を理解することに努めたのです。2年目からは商品開発を主軸に据えつつ、現場の仕事も並行して経験を積みました。

大学時代の6年間を岡山で過ごし、長らく奈良を離れていたこともあり、外からは見えなかった課題も入社後に見えてきました。それらの課題を自らの手で改善したいという思いが、経営者としての自覚を育んだと考えています。

ーー社長に就任された経緯と、現在の取り組みを教えてください。

石田拓己:
2024年6月に代表取締役に就任しました。以前から会長である父が、持っていた仕事を各役員に段階的に割り振り、実務を引き継ぐ準備を進めていました。そんな折、父が体調を崩したこともあり、スムーズに継承できるよう予定より早く交代することになりました。

現在は、組織運営の基盤となる仕組みづくりを最優先課題としています。実務の引き継ぎは順調だったものの、経営計画書や人事の評価制度の整備が手つかずの状態だったからです。役員それぞれの意思と方向性を合わせ、効率的に運営するための基盤を構築している最中です。また取締役をはじめとする経験豊富な社員たちに助けられ、日々業務を遂行することができ、会社も少しずつ成長しています。この場を借りて感謝申し上げます。

0.1ミリ単位の研究が支える 製麺事業の強み

ーー貴社が展開している事業内容について教えてください。

石田拓己:
スーパーやドラックストアなどの小売店で販売される「ゆで麺」の製造が弊社の基盤です。そこから派生し、スープや具材をセットにした「調理麺」や、より簡便に喫食ができる「麺惣菜」などを手がけています。

商圏は奈良県を中心に、西は兵庫県の明石付近、東は静岡県の入り口付近まで広がっています。基本的には、弊社のブランドロゴを冠した自社商品として流通させているのが特徴です。

ーー主力ブランドが市場で高く評価され、支持されている理由は何でしょうか。

石田拓己:
弊社の強みは、会長が築き上げた「三代目石田製麺所」というブランドにあります。通常の袋麺が38円ほどで販売される中、弊社の商品は倍以上の価格設定です。それでも選んでいただけるのは、一口食べたときに違いがわかる品質があるからだと自負しています。「唯一無二の食感」という評価や、お客様から「何かわからないが、美味しい」といった声をいただけるのは、独創的な食感と品質が支持されているからだと考えています。

ーー商品開発において、独自の工夫やこだわりはありますか。

石田拓己:
研究者としての視点を生かし、数値やデータに基づいた論理的な設計を行っています。弊社には3キロほどの少量から試作できるミキサーがあり、日常的に改良を繰り返せる環境です。たとえば、使う小麦粉の組合せや添加物の量をスクリーニングしたり、茹で時間を10秒単位で変えたり、麺の切り方を0.1ミリ単位で調整したりして、最適な食感を探求しています。

また、開発の際は単にトレンドを追うのではなく、なぜその商品を出すのかという意図を重視します。「夏場ならつるっとした喉越しが喜ばれる」といった利用シーンを具体的にイメージし、その理由を説明できる設計を心がけています。

チルド麺の価値を再定義 奈良から食卓を彩る

ーー今後の展望として、どのような目標を掲げていますか。

石田拓己:
まずは、弊社のブランドをより多くの方に知っていただくための情報発信を強化します。バイヤーの方々には高く評価していただいていますが、一般のお客様には社名が十分に浸透していない現状があるからです。SNSでの発信や催事への出店を通じて、奈良県内はもちろん、全国のお客様にブランドを身近に感じてもらえる取り組みを推進します。

現状、チルド麺を食べて「冷凍麺、乾麺の方が美味しい」と感じ、このジャンルを敬遠してしまう方が少なくありません。それは非常に残念なことだと感じています。私たちがこだわりの商品を届けることで、「チルド麺もありだな」という選択肢を広げていきたいです。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

石田拓己:
忙しい現代において、家族で同じ食卓を囲む時間はとても貴重です。冷凍麺も便利ですが、弊社の麺は、大きな鍋で茹でれば数分で調理が完了します。レンジ調理にはない、この「ひと手間」があるからこそ、家族全員が同時に同じものを食べられる温かい状況をつくり出せると考えています

また、奈良県は一説によると麺のルーツがある土地です。こうした歴史的背景のあるこの場所で、最新の技術を融合させながら業界全体を盛り上げていけたら面白いですね。地域や同業の方々とも協力しながら、この地から麺業界全体を盛り上げていくことが、私の使命だと考えています。

編集後記

インタビューを通じて印象的だったのは、石田氏の語り口から伝わる科学的な探究心だ。感情論ではなく、データや数値を基盤とした経営を目指す姿勢は、老舗企業に新しい風を吹き込んでいる。その根底には父や家族、そして故郷である奈良への深い愛情が息づく。研究の道を断念した決断を、前向きな改革のエネルギーへと昇華させた同氏の挑戦はまだ始まったばかりだ。若きリーダーが率いる同社が、日本の食卓にどのような「新しい美味しさ」を届けてくれるのか、今後に注目したい。

石田拓己/1996年奈良県生まれ。畝傍高校、岡山大学理学部化学科、岡山大学院自然科学研究科卒業後、イシメン株式会社に入社。2024年、同社4代目代表取締役に就任。