※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

1992年の入社以来、営業の最前線からキャリアをスタートさせ、人事や総務など幅広い部門を経験してきた荒木治郎氏。北関東支社長として確かな収益基盤の強化に尽力したのち、市況が激変する2022年に、コベルコ建機日本株式会社の代表取締役社長に就任した。同社が掲げる「ユーザー現場主義」の思いのもと、ICTを活用した遠隔操作などの新たな取り組みや、中古車・整備を含めたストックビジネスへと事業領域を広げている。変革期を迎える建設機械業界において、同社が目指す新たな価値創造と、未来を託す次世代リーダーへの思いをうかがった。

営業現場での原体験と経営視点を養った異動の軌跡

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。

荒木治郎:
私は1992年に神戸製鋼所へ入社し、建設機械本部に配属されました。最初の赴任地である埼玉では、ショベルの直接販売を中心とした営業の最前線に立ちました。当時は競合他社が非常に強く、厳しい環境でしたが、この営業現場での経験が私の会社人生の大きな土台となっています。商品を売るためには、ただカタログスペックを説明するだけでは通用しません。お客様の状況を把握し、何を求められているのかを真摯に探り、最適な提案を行うことが必要です。

また、受注後のアフターフォローも含め、サービスの担当者といかに連携してチームとして動くかという「現場でのつながり」の重要性を若いうちに学べたことは、大きな財産になりました。

ーー営業現場でのご経験を経て、その後はどのようなキャリアを積まれたのでしょうか。

荒木治郎:
商品企画や総務、人事といった管理部門を長く経験しました。人事に至っては10年近く担当しましたね。営業一筋の方が多い中では珍しいキャリアかもしれませんが、管理部門に身を置いたことで、会社全体を俯瞰する視点が養われました。経営層に近い場所で仕事をする中で、経営の舵取りの難しさと大切さを肌で感じ、「いずれ自分も経営にチャレンジしていきたい」と意識し始めたのは30代の頃です。

その後、東日本コベルコ建機の北関東支社長に就任しました。北関東は一般土木や環境系、レンタル会社などさまざまなお客様がバランスよく存在するエリアです。そこでは新車販売だけでなく、整備や部品、中古車といった循環型のビジネススタイルを実践しました。事業全体のフローを意識し、部門間の連携を強化したことで、結果的に強固な収益基盤の確立につなげることができました。

逆境下の社長就任 「ユーザー現場主義」で顧客に寄り添う

ーー貴社の社長に就任された当時の状況と、ご自身の役割をどう捉えていましたか。

荒木治郎:
2022年4月の就任時は、コロナ禍の影響に加え、半導体不足や資材の高騰など、市況が非常に厳しく変化しているタイミングでした。しかし、そうした逆風のときだからこそ、私たちが大切にしている「ユーザー現場主義」という思いに立ち返るべきだと考えました。お客様目線を最優先にし、いかにスピード感を持って営業やサービスを展開できるか。私たちの機械が現場で稼働することで、災害対策やインフラ整備など、世の中の基盤づくりに貢献できます。単なる利益やシェアの追求の前に、まずはお客様のお役に立ち、身近で頼られる存在になること。その姿勢を社内に浸透させることが私の大きな役割だと捉えていました。

ーー貴社の事業の特徴や、独自の強みについてお聞かせいただけますか。

荒木治郎:
コベルコ建機日本は、2019年に東日本と西日本の販売会社が統合して誕生しました。現在はショベルに加え、クローラクレーンの国内販売・サービス、そして中古車事業も幅広く扱っています。特に競合優位性を持っているのが、解体や金属スクラップ、林業といった環境系の分野です。近年は国内での大型解体工事が増加しており、弊社の大型解体機は多くのお客様から高い評価をいただいています。

また、これからの時代を見据え、新車という「モノ」の販売だけでなく、ICTを活用した新たな「コト」への取り組みにも注力しています。現場の人手不足解消や安全性向上を目指し、重機の遠隔操作システム「K-DIVE®」や、ICT施工をサポートする「ホルナビ」など関連商品の普及を強力に推進しています。

さらに、国内の新車市場が今後なかなか伸びない状況が続くと予測される中で重要になるのが、サービス提供力を高めるサポート体制です。良質な中古車の提供や、スピーディーで的確な整備サービスの強化により、お客様の保有する機械(ストック)を新車と中古車の両面からトータルでサポートする体制を整えています。

次世代リーダーの育成と業界の未来をつくる若者たちへ

ーー今後の課題について、どのようにお考えでしょうか。

荒木治郎:
最大の課題は、これらの変革を推進していくための核となる人材を輩出していくこと、すなわち次世代リーダーの育成だと考えています。私たちが求めているのは、現場を起点に物事を考え抜く力があり、変化を恐れずに挑戦できる人材です。そして何より、チームワークを大切にし、周囲の人を巻き込んで動かせる力を持ったリーダーを計画的に育てていかなければなりません。

ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。

荒木治郎:
建設機械の業界は、道路や橋など、人々の暮らしを支えるインフラをつくる「社会の土台」を担う非常に誇り高い仕事です。現在、業界全体でデジタル化や技術革新が急速に進んでおり、これから5年、10年先の未来に向けて新しい価値を提供していくためには、固定観念に縛られない若者たちの視点が不可欠です。変化を恐れず、自らの可能性を信じて大いにチャレンジしてほしいですね。社会に貢献しているという実感を持ちながら、私たちと一緒にこの業界の新しい未来をつくり上げていきましょう。

編集後記

激動の時代に社長のバトンを受け取った荒木氏。その言葉の端々からは、若き日の現場で培われた「ユーザー現場主義」の揺るぎない信念が感じられた。ハードウェアの販売にとどまらず、ICTを駆使した新たな価値の提供や、中古車・整備を軸とした循環型のビジネススタイルへと事業を深化させる同社の戦略は、極めて合理的だ。それでいて、その視線は常に社会の土台を支える現場の課題解決に向けられている。次世代リーダーへの熱い期待を胸に進むコベルコ建機日本株式会社の挑戦が、建設業界にどのような変革をもたらすのか、今後の飛躍から目が離せない。

荒木治郎/1968年東京都生まれ、明治大学卒。1992年神戸製鋼に入社し、建設機械本部へ配属され、国内の販売・サービス会社である神鋼コベルコ建機株式会社へ出向、埼玉でショベル中心の第一線営業からスタート。商品企画、総務、人事グループ長、ファイナンス会社営業部長、東日本コベルコ建機 北関東支社長を経験し、コベルコ建機日本株式会社が新設された2019年から常務取締役営業本部長を3年勤める。2022年、同社代表取締役社長に就任。