
家電・日用品の企画製造から流通、配送設置工事・コールセンター・修理といったアフターサービスまで、暮らしに関わる事業をグループ一体で手がけるデンキョーグループ。その中核企業として、生活家電や日用品、電子部品の流通を担うのが大和無線電器株式会社だ。既存ビジネスの枠を超え、防災や防犯、高齢化といった社会課題の解決に貢献する提案型ビジネスにも注力している。
2025年5月に同社の代表取締役社長に就任した河原直樹氏は、チームでの達成を何よりも重視し、個人の限界を超える成果を追求する。社員全員が幸せを感じられる会社を目指す同氏に、チームビルディングの信念と事業の展望について話を聞いた。
仲間と共に壁を越える組織運営の原点
ーー社会人としてのキャリアをどのようにスタートされたのかお聞かせください。
河原直樹:
私は総合エレクトロニクス企業のグループ会社に入社し、量販店向けの営業職としてキャリアをスタートさせました。家電業界に身を置き、約40年になります。若いころは、自分の売上目標の達成に喜びを感じる日々でした。しかし、経験を重ねるにつれ、チーム全員で成果を上げ、喜びを分かち合うことこそが本当の醍醐味だと感じるように変化しました。個人の力にはどうしても限界が存在します。しかし、チームで取り組めば個人の限界を超えられる。そう確信するに至りました。
ーーチームの力とは、具体的にどのようなものでしょうか。
河原直樹:
たとえばスポーツ選手です。個人の能力がずば抜けていても、トレーナーやコーチ、チームメイトがいるからこそ、驚くような結果を出せるのでしょう。仕事の課題も同様です。一人で抱え込まずチームで共有すれば、多様な知見によって解決のスピードが上がります。その結果、顧客からの評価にもつながるはずです。
強いチームをつくる上で、私は公平性と一貫性を何より重視しています。相手によって答えを変えたり、二面性を持ったりしては信頼関係が築けません。公平性と一貫性の大切さは、昔読んだ本から学んだことで、私の原点ともなっています。
成功体験を独り占めしない「オープンシェア革命」
ーー貴社に入社された経緯についておうかがいできますか。
河原直樹:
前職での業務をやり遂げ、一区切りついたタイミングで退職しました。退職後、大和無線電器の当時の社長から話を伺う機会を得て、新しいことを積極的に取り入れる風土について耳にしました。自由闊達な雰囲気があり、個人が挑戦できる環境だという話に感銘を受けました。挑戦を推奨する企業であれば、自身の経験を活かして貢献したい。そう考え、入社を決意したのです。
ーー社長に就任された際、どのような思いを抱かれましたか。
河原直樹:
責任の重さを痛感したと同時に、社員全員が幸せを感じられる会社にしたいと思いました。また、それは簡単なことではないという緊張感も抱きましたが、就任時の決意は今もブレていません。
理想を実現するため、できるだけ社内を回るようにしています。他愛のない話でも構わないので社員と会話をし、相手が今どういう状態なのかを自分なりに感じ取れるよう努める毎日です。京都にも電子部品販売部門の事務所がありますので、京都へも月一回ほどは訪問し、対話を欠かしません。
当社グループには、日報を通じて気づきや思いを共有する文化があり、私も毎日目を通しています。しかし、文章だけでは感じ取れない部分もあります。だからこそ、直接の会話が大切だと考えています。
ーーチームとして力を発揮できる組織にするため、どのような取り組みをされていますか。
河原直樹:
成功事例をナレッジ化し、組織全体で共有することを大切にしています。私がよく引き合いに出すのが、青山学院大学陸上競技部の原晋監督や、メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有投手の姿勢です。原監督は独自のマネジメント哲学を書籍や講演で広く発信し、ダルビッシュ投手は培ってきた投球術をSNSで惜しみなく公開しています。トップを極めた人ほど、知見を独り占めにしない。世間でいう「オープンシェア」の考え方を、私たちは社内で推進しています。
得られた知見を全員でシェアし、良いと思った部分は素直に取り入れる。さらにそこへ誰かの新しいアイデアが加われば、個人では到達できなかった成果が生まれます。具体的な取り組みとして、会議で成功例を発表してもらい、その資料はいつでも誰でも閲覧できる状態にしています。迷ったときのヒントが組織の中に蓄積されていく、そういう仕組みを整えたかったのです。
若手主導の「コト軸プロジェクト」による価値創出

ーー改めて、現在の事業展開についてお聞かせいただけますか。
河原直樹:
家電量販店など小売店向けの家電販売事業と法人向けの電子部品販売事業が主な柱です。変化の激しい市場環境の中で持続的な成長を追求するため、つねに新しいことにチャレンジしています。
現在は、「防災」「防犯」「高齢化」をおもな社会課題として捉え、私たちがどう貢献できるのかを軸に据えて事業を展開しています。社会課題への貢献と事業成長の両立。それが私たちの使命です。
たとえば、令和6年能登半島地震の被災地支援活動に従事した現場ボランティアの方から「屋外で手軽に温水が使えるものがあれば」という声が寄せられました。その声をきっかけに開発した「カセットガスポータブル温水シャワー」は、クラウドファンディングで目標金額の1200%超の支援を集め、大きな反響をいただきました。現場のリアルな声が、そのまま商品になった事例です。メーカーや販売店の皆さまとも協力し、関わる全ての人たちとチームとして提案することを心がけています。
ーー新しい発想や提案は、どのように生まれてくるのでしょうか。
河原直樹:
社内では若手社員が中心となった「コト軸プロジェクト」という取り組みがあります。
「コト軸」とは、商品の機能(モノ)ではなく、その商品によって顧客にどのような体験(コト)が生まれるかを重視する考え方です。言葉自体は以前からありますが、実際に売り場で形にするのは簡単ではありません。このプロジェクトでは、たとえば推し活をテーマに、ベテランでは思いもつかないような売り場提案を若手社員が作り上げました。ヘアドライヤーひとつとっても、機能を説明するより「髪がサラサラになる」という体験を前面に出す。そんな視点の提案が、実際に家電量販店の店頭で具現化されました。彼らにとって、自分たちのアイデアが売り場という形で実を結ぶことが、大きなモチベーションになっています。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
河原直樹:
取引先に「大和無線電器と付き合っていてよかった」と必要とされ、選ばれ続ける企業でありたいです。そして何より、社員が「この会社で働けて良かった」とやりがいを持って働ける会社でありたいと願っています。
そのための具体的な戦略として、現在は組織の連携強化を進めているところです。これまでは家電部門と電子部品部門がそれぞれの強みを持ちながらも、連携しきれていない部分がありました。今はお互いのナレッジをシェアし、すでに新たな取引先との接点も生まれつつあります。法人営業の販路拡大や、既存取引先への新たなアプローチといった相乗効果をさらに広げていくのが、次のステップです。環境変化の激しい世の中ですが、チームで連携し、チャレンジし続ける。その先に、社員一人ひとりが本当の意味で幸せを感じられる未来があると信じています。
編集後記
個人の限界はチームの結束で超えられる。河原氏が語る言葉は、組織運営における普遍的な解の一つと言えるだろう。個々の知見を全体で共有し、相互に高め合う風土こそが、変化の激しい時代を生き抜く鍵となる。社会課題の解決と社員の幸福を同時に追求し、新たな価値創造へ挑み続ける大和無線電器。自由闊達な環境で培われたチームワークが、どのような未来を切り拓いていくのか。同社の更なる飛躍に、これからも期待を寄せたい。

河原直樹/1961年、埼玉県生まれ。総合エレクトロニクス企業のグループ会社に入社後、長年にわたり家電量販店向け営業の最前線で経験を重ねる。2019年に大和無線電器株式会社へ入社後、営業本部長として営業戦略を統括。2025年5月より現職。社内風土を活かして、社員の経験知を組織のナレッジとして共有・活用する仕組みづくりを推進している。