※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

昼は本格的なコーヒーを提供するカフェ、夜は酒場(サカバ)として賑わう。この「二面性」のビジネスモデルで業界を牽引し続けてきた株式会社プロントコーポレーション。同社はテクノロジーの導入や徹底した人財育成を通じ、新しい飲食業のあり方を模索している。サントリー株式会社での現場営業を経てMBAを取得し、メキシコで大規模な組織マネジメントを経験した代表取締役社長の杉山和弘氏。自身の経験から導き出された人を育てることへの強い思いと経営の展望をうかがった。

泥臭い現場営業からMBAへ 相手の経営に向き合うために

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。

杉山和弘:
サントリー株式会社に入社後、キャリアの原点は現場の営業にありました。大阪で6年半、仙台で2年の計8年半、酒販店や飲食店への営業に奔走したのです。当時は、飲食店に卸している「業務用酒販店」を担当し、それに付随する形で飲食店にも足を運びました。すでに酒販店と飲食店の間で契約が成立しているところへ、メーカーの営業として入り込むため、酒販店と飲食店の双方と良好な関係構築が欠かせません。毎日足繁く通い、店主の悩みを聞き、信頼関係を構築する泥臭く複雑な営業活動でしたが、この現場での徹底的なコミュニケーションこそが、私のビジネスパーソンとしての原点となっています。

ーーその後の歩みについて、どのようなご経験を重ねられたのかおうかがいできますか。

杉山和弘:
現場での営業経験を経た後、次は大手飲食チェーンの本部を担当する部署へ異動しました。ダイキチシステムや吉野家ホールディングス、サイゼリヤなど、名立たる企業の経営層と向き合う日々が始まったのです。

それまでは個店ごとの店主と向き合い、熱意が結果に直結しやすい側面がありました。しかし、全国に多数展開する企業の経営陣と相対する本部営業では論理的な戦略や全体最適の視点が求められます。大きな組織を動かす企業経営のダイナミズムを肌で感じる中で、自分の知識不足を痛感しました。この環境の変化こそが、私にとって「経営を学びたい」と強く願う大きなターニングポイントとなったのです。

ーー具体的にどのような気づきや変化があったのかお聞かせください。

杉山和弘:
それまでの営業は、「自社の製品をいかに多く売るか」というメーカー視点の側面が強くなっていました。しかし、チェーン企業の経営幹部とお話をしていると、単にモノを売るためのトークだけでは全く営業にならないことに気づかされたのです。相手の経営課題は何か、コスト削減や育成など、経営全般に役立つ本質的な提案ができなければパートナーとして認めてもらえません。元々私は営業成績ですぐに芽が出たタイプではなかったため、自分にはどのような営業スタイルが適しているのかと深く悩んでいました。そして、本気で経営の勉強を基礎からやり直さなければならないと痛感したのです。

ーーそこからMBAの取得へと本格的に動かれたということでしょうか。

杉山和弘:
ちょうどその頃、社内公募で国内留学制度があることを知りました。ビジネススクールで集中的に学ぶことができる制度で、思い切って応募したところ選ばれまして、早稲田大学のMBAプログラムに1年間通うことになったのです。通常であれば2年を要するカリキュラムを1年に凝縮して履修するため、仕事から完全に離れた人事部付となり極めて濃密な時間を過ごしました。財務会計やマーケティングなど、経営に必要なフレームワークを徹底的に頭に叩き込みました。実務経験で感じていた課題感が理論と結びついて明確に言語化されていく感覚は、かけがえのない財産です。

メキシコで750名の部下を率いて学んだリスペクトする精神

ーーMBA取得後は海外でのマネジメントもご経験されたのですか。

杉山和弘:
MBA取得後は経営管理部を経て、38歳の時にメキシコにあるレストランサントリーメキシコグループの取締役として赴任することになりました。赴任していきなり約750名もの現地スタッフのトップに立つことになり、プレッシャーの大きな挑戦でした。現地で働く日本人は私を含めてたったの4人だけという環境です。言葉の壁はもちろんのこと、文化や労働に対する価値観の違いも大きく、日本式のマネジメントがそのまま通用するはずもありません。まずは現地の文化を深く理解し、皆が何を大切にして働いているのかを観察するところから始めなければなりませんでした。

ーー30代で750名もの外国人スタッフをまとめるのは大変だったのではないでしょうか。

杉山和弘:
直属の部下となる2名の本部長、その下の支配人や部長クラスは、1人を除いて全員が私より年上でした。長年現地でキャリアを積んできた立場からすると、日本から来た30代の若造がいきなり上司になるわけですから、当初は反発や懐疑的な目で見られることも少なくありませんでした。年上のベテランスタッフたちとどう対峙し、どのようにマネジメントすればいいのかと随分悩みました。論理で説き伏せようとしても感情的なしこりが残りますし、強権的に指示を出しても人はついてきません。暗中模索の中で、コミュニケーションのあり方を根本から見直す必要に迫られました。

ーー具体的にどのようなことを見直されたのですか。

杉山和弘:
途中で気がついたのは、年齢や立場は関係ないということです。とにかく相手をリスペクトすることが一番大事なのだと悟りました。年上だろうが年下だろうが、誰からでも必ず何かを学べる要素があります。どんな相手であっても、絶対に自分より優れた何かを持っているはずだという考え方です。この相手へのリスペクトを基盤にして対話を行うようにしたことで徐々に信頼関係が芽生え始めました。皆の意見に真摯に耳を傾けることで、言葉や文化の壁を越えて組織をまとめ、経営の舵取りを行うことができました。この経験は、現在の私の組織づくりの大きな礎になっています。

ホスピタリティのためのDXと二面性ビジネスの強み

ーー貴社の事業の強みや魅力とは何ですか。

杉山和弘:
当社が創業以来一貫して大切にしているのが、「昼はカフェ、夜はサカバ。」という「二面性」のビジネスモデルです。時間帯によって提供するメニューだけでなく、店の顔がガラリと変わることで、同じ場所でありながら全く異なるニーズに応えることができます。近年、固定費が高騰し続ける中で、1つの店舗を昼夜問わず最大限に有効活用して経営効率を上げるという意味でも、非常に理にかなった強固なモデルです。お客様にとっても、昼はリラックスできる空間として、夜は同僚と語り合う憩いの場として、一日の中で二度楽しんでいただける魅力があります。

ーー店舗へのテクノロジー導入についても詳しくお話しいただけますか。

杉山和弘:
飲食業界は長年にわたり、慢性的な人手不足や長時間労働、いわゆる「3K」といった深刻な社会課題を抱えてきました。私たちは人とテクノロジーの融合によって、この業界全体の課題を率先して解消しながら、常に高クオリティな商品を提供するためにテクノロジーの活用を積極的に進めています。その代表例として、自動パスタ調理ロボットを一部の店舗で導入しました。熟練のスタッフでなくても、ボタン1つで常に高品質なパスタを素早く提供できる画期的なシステムです。また、モバイルオーダーの導入なども進め、店舗運営のオペレーションを効率化しています。DXを通じて、従業員の負担を大幅に軽減することが急務だと考えています。

ーーオペレーションの効率化やDX推進の先にある、貴社が目指す店舗の姿をお聞かせください。

杉山和弘:
私たちが目指しているのは、人が介在することでしか生み出せない付加価値の最大化です。テクノロジーの導入は、決して単なる効率化や省人化だけが目的ではありません。不要な単純作業を機械に任せることで、スタッフの業務に「余白」を生み出すことが重要です。その創出された時間を使って、スタッフが目の前のお客様一人ひとりにしっかりとフォーカスし、人間ならではの温かいホスピタリティを発揮できる環境を作ることこそが真の目的なのです。お客様との会話を楽しんだり、細やかな気配りをしたりと、人だからこそできるサービスをさらに高めるためにDXを活用しています。

圧倒的な人財育成と経営を支える強い信念

ーー社員教育や働く環境についてはどのようにお考えですか。

杉山和弘:
私が社長に就任してから最も注力し、投資を惜しまなかったのが人財への投資です。私自身がサントリー時代にMBAという大きな成長の場を与えてもらい、そこで得た学びが人生を変えたという実体験があるからこそ、社員にも自らを高める機会をしっかりと提供したいのです。新卒社員に対する手厚い研修はもちろん、中途採用の社員が早期に活躍できるプログラム、次世代の経営幹部を育成するマネジメント研修に至るまで、徹底した教育プログラムを整備しています。社員一人ひとりの成長が企業の成長に直結するという確信のもと、組織づくりを進めています。

ーーそこまで情熱を持って仕事に向き合うことができる原動力は何でしょうか。

杉山和弘:
ラテン語の「エクセルサ」、日本語で「もっと高く」を意味する言葉を昔から座右の銘として大切にしています。現状に満足せず、常に更なる高みを目指す精神を表しています。他にも、「神は細部に宿る」やゲーテの戯曲『ファウスト』にある「時よとまれ、汝は美しい」に学び、上に立つ者としては、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の謙虚さと、「高い社会的地位には義務が伴う」という思想を示すフランスの道徳観「ノブレス・オブリージュ」の利他の精神を重んじています。

2030年に向けた450店舗体制と「和カフェ Tsumugi(ツムギ)」での世界進出

ーー今後の具体的な事業展望についてお聞かせいただけますか。

杉山和弘:
2030年までにグループ全体で450店舗体制を構築するという明確な目標を掲げています。この目標を達成するためには、直営店を増やすだけでなく、フランチャイズ展開をさらに強化していく必要があります。私たちのビジネスモデルに共感してくださるパートナー企業を全国で募り、共に成長を加速させる方針です。これまでに培ってきた二面性ビジネスのノウハウやDXの成功事例をパッケージ化し、フランチャイズ加盟店に対しても強力なサポート体制を提供することで、全国各地にお客様の居場所となる店舗をスピーディーに広げていきたいと考えています。

ーー450店舗体制のほかに、新たに見据えているステージはありますか。

杉山和弘:
実は国内だけでなく、海外への進出も本格的に計画しているところです。具体的には「和カフェ Tsumugi」というブランドを主軸に据える構想を描いています。「和カフェ Tsumugi」は、日本の伝統的な和の要素と現代のカフェスタイルを融合させたブランドです。抹茶や和スイーツなど、世界的に日本食や日本文化への関心が非常に高まっている海外市場において、このコンセプトは強力な武器になると確信しています。戦略的なターゲットとしては、経済成長が著しく、日本文化への親和性も高い東南アジアを中心に見据え、将来的には世界中の人々に「和の癒し」を提供していきたいです。

ーー最後に読者へ向けてのメッセージをお願いします。

杉山和弘:
私は企業人として「社会の役に立たないと生きている意味がない」と強く思っています。社会課題を解決し、貢献してこそ企業の存在価値がある。この信念のもと、私たちはこれからも挑戦を続けていく決意です。最先端のテクノロジーと、人間ならではの温かいホスピタリティを融合させ、飲食業界が抱える人手不足などの社会課題を解決していく。そして、地域の人々に長く愛される居場所を一つでも多く増やしていきたいと考えています。社員一人ひとりが自ら考え成長し、お客様に最高の体験と空間を提供し続ける、そんな活気と笑顔に満ちた組織を、これからも素晴らしい仲間たちと共につくり上げていきたい。そう願っています。

編集後記

「PRONTO(プロント)」の顔とも言える二面性ビジネスの裏には、緻密に計算された戦略と現場や人を大切にする熱い思いがあった。泥臭い営業マン時代からMBAでの過酷な学び、メキシコでのタフなマネジメント経験。杉山氏のキャリアは決して平坦なものではなかったが、すべての経験が、現在注力する「人財への投資」と「事業を通じた社会への貢献」という、経営者としての揺るぎない指針へとつながっている。「エクセルサ」の精神を体現し続ける強力なリーダーシップのもと、同社がテクノロジーとホスピタリティを融合させ国内外でどのような新しい景色を見せてくれるのか。その果敢な躍進から今後も目が離せない。

杉山和弘/1974年奈良県生まれ。1998年に神戸大学経済学部を卒業後、サントリー株式会社(現・サントリーホールディングス株式会社)に入社。2012年よりレストランサントリーメキシコ取締役へ就任、後に常務取締役を務める。2017年から株式会社プロントコーポレーション取締役、常務取締役を経て、2021年に株式会社プロントサービス代表取締役社長に就任(兼務)。2023年に同社代表取締役社長に就任。