
大学で経済学を専攻していたデヴォア・アレキサンダー氏は、サプライチェーンの不透明さに疑問を抱き、株式会社MadeHereを起業した。"Can I confidently give this to my children?"(この製品は自分の子どもに自信を持って与えられるものか?)という強い危機感から、製造現場の透明化を目指す。同社は、3Dプリンターなどの先進技術を駆使し、メーカー生産終了による廃番等で調達困難な部品を迅速に製造・供給するMRO事業を展開。独自のソフトウェアで製造プロセスを統合し、その「迅速な製造力」は米軍の補給を支える防衛テックの分野にまで活躍の場を広げている。日本の製造業のポテンシャルを最大限に活かし、サプライチェーンの強靭化に挑むデヴォア氏に、壮大なビジョンと信念についてうかがった。
「自分の子どもに与えられるか」製造現場の透明化という原点
ーー起業のきっかけや日本の製造業に着目した理由を教えてください。
デヴォア・アレキサンダー:
私のバックグラウンドは経済学なのですが、かつて香港から深圳へと国境を越えた際、物流や食品の品質に関する深刻な状況を目の当たりにしました。当時、国境付近では物資が乱雑に扱われ、不透明なルートで食品が流れていく光景が日常茶飯事だったのです。経済学の視点から見れば、それらは単なる数値や効率の問題に映るかもしれません。しかし、そこで売られているものを見て、"Can I confidently give this to my children?"(自分の子どもに自信を持って与えられるものか?)と強い疑問と危機感を覚えました。
この経験から、サプライチェーンの透明性が何より重要だと痛感したのです。消費者が、どこでどのように製造されたものかを、もっと身近に感じられる仕組みをつくらなければならないと考えました。その後、山梨県を訪れる機会があり、日本の製造業が持つ強固な基盤と、新しい技術を受け入れる市場の可能性を確信し、単身での起業を決意しました。
ーー日本の製造業が抱える課題と、貴社の解決策を教えてください。
デヴォア・アレキサンダー:
現在の日本の製造業は、OEMを頂点として、Tier 1からTier 4までが連なる、強固な階層構造になっています。この構造の硬直化により、状況に応じて迅速に動く「俊敏性」が失われている点が大きな課題です。これを解決するため、弊社ではリバースエンジニアリングや品質管理を含め、OEMと同等の能力を社内に統合し、外部の複雑な階層に依存せずに自社で一貫して完結できる「垂直統合」を進めています。
弊社の最大の強みは、3Dプリント技術(AM技術:アディティブ・マニュファクチャリング)などを駆使し、調達が難しい部品や少量多品種のパーツを、必要な時に即製造できる能力です。そして、この迅速な製造を支える基盤として、これまで企業がアナログで行っていた設計や監査、評価といったプロセスを、自社開発のソフトウェア「Taiga」によって統合・自動化しています。日本の製造業のデータ活用を劇的に加速させると同時に、これまで下請けとして厳しい要求に応えざるを得なかったTier 3やTier 4の企業に対しても、より付加価値の高い仕事を受注し、利益を生み出せるような構造への変革を提案しています。
防衛分野への展開 サプライチェーンの強靭化に挑む

ーー防衛分野での取り組みやサプライチェーン構築について教えていただけますか。
デヴォア・アレキサンダー:
現在、米国海兵隊のインド太平洋地域での活動においては、本国からの補給路が遠く、調達が極めて困難であるという課題を抱えています。有事の際に部隊が即応できる"Mission Readiness"(任務即応態勢)を維持するためには、迅速な部品供給が不可欠です。しかし現状は部品が不足しており、稼働中の機械や故障中の機械から部品を取り外して使い回す、いわゆるカニバリゼーション(共食い整備)を行って無理に運用している状態です。
こうした課題に対し、弊社は「デジタルを活用した一貫製造」というコア技術と、日本の製造業が持つ優れた能力をレバレッジし、日本を製造ハブとする官民パートナーシップを米国海兵隊補給処整備コマンドと締結しています。遠く離れたアメリカ本国から輸送するのではなく、日本で必要な部品を迅速に製造し、インド太平洋地域へ供給する仕組みです。すでに米軍との協業も進めており、日本のポテンシャルを活かしたサプライチェーンの強靭化という壮大なビジョンの実現に取り組んでいます。
ーー防衛分野以外にも、今後注力していきたい分野や独自の強みはありますか。
デヴォア・アレキサンダー:
今後は防衛テックとしての展開に加えて、エネルギー産業にもさらに注力していく考えです。エネルギー分野では、設備が1日停止するだけで数千万円もの損失が発生するケースがあります。防衛分野での作戦行動不能リスクも同様ですが、大量・少量生産の調整が難しい部品を一刻も早く手に入れる必要があるというお客様に対して、的確なサービスを提供できるのが弊社の強みです。弊社は単なる企業同士のマッチングハブではありません。この圧倒的なスピード供給を実現するために、自社の製造能力に加えて、独自のデータ活用と情報の体系化を行っています。
たとえば、非常に優れた技術を持つ鋳造会社があったとしても、その工場が「今現在、製造を請け負える状況にあるか」は外部からは誰にもわかりません。弊社はデータを活用することで、企業自身も気づいていない「ケイパビリティ(潜在能力)」を可視化しています。自社の高度な製造技術と、国内企業の優れた技術をシームレスに連携させ、自動化されたシステムで業務を効率化することで、お客様が求める圧倒的な俊敏性を生み出しているのです。
地域の経済を繁栄させ、希望を持って世界を変える
ーー今後の展望をお話しいただけますか。
デヴォア・アレキサンダー:
今後は、私たちが構築したこの供給網を、インド太平洋地域全体へ拡大していく方針です。具体的には、遠く離れた本国から物資を運ぶのではなく、その地域に根差した既存のサプライチェーンを活かせるような体制の構築を目指しています。また、現在は人の手で行っている設計や認証、監査、品質検査といったソフトウェアレイヤーの業務を半自動化することで、圧倒的なコストパフォーマンスと価格優位性をお客様に提供し、究極的にはその地域の経済全体を繁栄させていきたいと考えています。
ーー最後に、社長が最も大切にしている価値観を教えてください。
デヴォア・アレキサンダー:
私自身が経営において最も大切にしているのは「希望」です。アイルランドの劇作家であるジョージ・バーナード・ショーが「理にかなわない(不条理な)人しか世界を変えられない」と言ったように、私は自社がありふれた平凡な会社になってしまうことを何よりも危惧しています。だからこそ、"Abandoning mediocrity, changing the world with hope."(平凡さを捨て、希望を持って世界を変える)という思いを胸に、現状に満足することなく絶えず挑戦を続けていきます。
編集後記
日本の高い技術力と独自のデータ統合システムをかけ合わせ、防衛分野というシビアな領域で新たな価値を生み出し続ける株式会社MadeHere。デヴォア氏の語る言葉の端々からは、社会課題への深い洞察と、それを解決するための並々ならぬ情熱が感じられた。

デヴォア・アレキサンダー/コロラド大学卒業後、深圳での起業を経て、2014年より日本でのAM技術普及を牽引。現在は株式会社MadeHere代表として、供給網途絶による防衛・重要インフラの停止リスクに対し、デジタル技術を駆使したサプライチェーンレジリエンスの強靭化を推進。少量多品種の迅速供給を可能にし「次世代のMROパートナー」として、国家の安全保障に不可欠な補給品を現代の技術で再構築し、持続性を支えている。