
2013年の設立以来、「Unreal Engine」(※)に特化した開発会社として業界内で確固たる地位を築く株式会社ヒストリア。近年はコンシューマーゲーム開発にとどまらず、自動車やシミュレーションなどノンゲーム領域への展開も推進している。起業当初から「強みで勝負する」ことを貫いてきたという代表取締役の佐々木瞬氏に、「Unreal Engine」一本に絞った背景から、領域ごとに採用窓口を分ける組織づくりのこだわり、そして今後の展望について話をうかがった。
(※)Unreal Engine(アンリアルエンジン):Epic Gamesが開発した、実写のような高精細な3Dグラフィックをリアルタイムに描画できるゲームエンジン。
自分の強みを武器に「Unreal Engine」一本での起業
ーーまずは起業の経緯から教えてください。
佐々木瞬:
もともと19歳の頃からゲーム業界で働き始め、ディレクターやリードプログラマーを経験してきました。29歳の時に、自分で組織づくりをしたい気持ち半分、自分のゲームが作りたい気持ち半分で独立しました。当時はスマートフォン向けゲームが台頭し、手軽に起業する人が多かった時代でしたが、私は一番好きで、得意だった「Unreal Engine」一本で勝負することに決め、2013年に弊社を設立しました。
ーー当時「Unreal Engine」に特化するのは珍しかったのでしょうか。
佐々木瞬:
当時はライバルである「Unity」がモバイル向けとして爆発的に普及していて、「Unreal Engine」が得意な家庭用ゲーム機の開発では汎用ゲームエンジンを使うことがまだ一般的ではありませんでした。周囲からは「それで仕事はあるの?」と心配されましたね。
しかし、一人で会社を立ち上げるにあたり、他社と同じことをやって埋もれてしまうよりは、自分の強みであり大好きなツールで尖ってみようと考えたのです。そこで、「Unreal Engine」を展開するEpic Gamesの日本支部に「独立して『Unreal Engine』一本でいきます」と挨拶に行き、一緒にエンジンを広める活動から始めました。「強みで勝負する」というアプローチが功を奏し、ツールの普及とともに会社も成長していくことができました。
ゲームの技術力を他業界へノンゲーム領域への挑戦

ーー現在はノンゲーム領域の事業も展開されているのですか。
佐々木瞬:
独立した翌年、「Unreal Engine」が一般向けにフルオープンになったことで状況が大きく変わりました。高品質な3Dグラフィックスが安価につくれるようになり、自動車や建築業界などから「『Unreal Engine』でこういうものをつくりたい」という問い合わせが来るようになったのです。
最初は新しい技術の検証としての依頼が多かったですが、次第にビジネスとして成立すると確信し、約6年前に「ヒストリア・エンタープライズ」という別ブランドを立ち上げ、ゲーム以外のコンテンツ専門のチームをつくりました。現在は自動車業界を中心としつつ、テレビ映像やシミュレーション全般など幅広い案件を手がけています。
ーーノンゲームにおける貴社の強みはどこにあるとお考えですか。
佐々木瞬:
ゲーム業界が培ってきた圧倒的な「技術力」と、各業界のニーズを深く理解した上での「要件定義力」のかけ合わせです。ノンゲームの現場では、お客様のつくりたいものを形にするために、発注元の部署がどんなミッションを背負っているかといった業界構造まで理解する必要があります。長年蓄積してきた技術力と、各業界での10年以上の経験があるからこそ、最適なソリューションを提案できると自負しています。
「夢の方向」を尊重する領域ごとに採用窓口を分ける理由
ーーゲームとノンゲームでは、現場で求められるスキルやマインドも異なるのですか。
佐々木瞬:
両者では働く人たちの志向や熱量が全く異なります。そのため弊社では、あえてコンシューマー、アーケード、VR開発などのゲーム事業と自動車、建築、放送などのエンタープライズ事業で採用窓口をきっちりと分けています。ゲーム事業に応募してくる人たちは、純粋に「ゲームをつくりたい」「クリエイターになりたい」という強い夢を持っています。日常的にゲームをプレイし、制作現場でも「あのゲームのあの表現が〜」といった会話が飛び交います。
一方、エンタープライズ事業に応募してくるエンジニアは、「最新の技術そのものが好き」「この技術を別の業界で活かしたい」というモチベーションを持っています。ゲーム開発では一つのプロジェクトに数年かかるため、途中で新しい技術を導入しにくい側面がありますが、エンタープライズ事業では各社が新しい取り組みを求めるため、最先端の技術を躊躇なく試せるという面白さがあります。
ーーそれぞれモチベーションの源泉が異なっているということでしょうか。
佐々木瞬:
もし「本当はゲームがつくりたい」という人がエンタープライズ事業に入ってしまうと、本気でその業界を切り拓こうとしているメンバーと同じ熱量で夢を見ることができず、互いにとって不幸になってしまいます。だからこそ、それぞれの夢や目標に全力で向かえるよう、入り口の段階からきっちりと分けて採用を行っているのです。
ーー最後に会社としての中長期的な目標をお話しいただけますか。
佐々木瞬:
ゲーム領域においては、これまで得意としてきた受託開発をしっかりと続けながら、自社企画で面白いもの、売れるものを生み出せる体制を確固たるものにしていきたいです。ノンゲーム領域では、各業界にもっと深くコミットし、ゲームエンジンを使ったコンテンツがいかに業務を助け、価値を生むかということを世の中にアピールして存在感を出していきたいと考えています。
そしてもう一つ、私たちが注力しているのが「開発者コミュニティ」の事業です。ゲームエンジンは今後、もっと多くの人が趣味でも触るような、身近なツールになっていくはずです。私たちはつくることの面白さを誰よりも知っているからこそ、その楽しさを世の中に広く伝えていきたい。最終的には、これらの事業を通じて、業界やクリエイター同士をつなぐ「ハブ」のような存在になることが、私たちの目指す未来です。
編集後記
「強みで勝負する」。佐々木氏のこの言葉には、自身の技術への揺るぎない自信と、市場を見極める確かな目線が込められていた。「Unreal Engine」の可能性を誰よりも信じ、ゲームとノンゲームという二つの領域で飛躍を続ける同社。社員それぞれの「夢の方向」を尊重し、最適な環境を提供する組織づくりも、同社の強さを支える大きな要因だろう。技術の力で新しい価値を生み出し、クリエイターのハブを目指す同社のさらなる挑戦に期待したい。

佐々木瞬/コンシューマーゲームのディレクター、リードプログラマーを経て、2013年10月にUnreal Engine(以下、UE)専門会社の株式会社ヒストリアを設立。UEを用いたコンシューマーゲームの開発に加え、自動車業界・建築業界・テレビ業界向けなど幅広いノンゲームコンテンツの開発も行っている。週1更新のUE技術ブログや、WEBメディア「ゲームメーカーズ」をはじめとする開発者への情報発信にも力を入れる。