
1922年の創業以来、100年以上にわたり日本の屋上や屋根を防水技術で支え続けてきた日新工業株式会社。同社を率いる代表取締役社長の相臺志浩氏は、父からの言葉を受けて、工場の現場配属からキャリアをスタートさせた。人々の目には触れない「防水」という仕事に誇りを持ち、「誰よりも誠実であること」という信念を貫く相臺氏。現場での原体験や社長就任後の組織改革、そして現在推進している人事制度の見直しについて、その真意をうかがった。
「現場」から始まったキャリアと見えない努力への誇り
ーー会社を継ぐことは、幼少期から意識されていたのですか。
相臺志浩:
小学校6年生の卒業文集に「後を継ぐ」と書いた記憶があり、幼いころから漠然と意識はしていました。その思いが確信に変わったのは大学受験のときです。実家の事業が日本のインフラを支え、社会に深く貢献している企業であることを改めて認識しました。この仕事の重要性を再確認したことで、家業を継ぐ決意を固めました。
ーー入社後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
相臺志浩:
後継者として、まずは外部の企業で経験を積むことを選ぶ方もいますが、私は父から「うちの会社に入って工場の現場で働け」と言われていたこともあり、大学卒業後、すぐに弊社へ入社しました。当時は学生気分が抜けておらず、つらいこともありましたが、先輩や同僚に支えていただき、夜勤も経験しました。現場の最前線で製品がどのようにつくられているかを知ることができ、一生懸命働く現場の人たちに支えられた経験は、今の私にとって大きな財産になっています。
就任後の改革と現場の負担を減らす「技術力」

ーー代表取締役社長に就任されてから、どのようなことに取り組まれたのですか。
相臺志浩:
2019年に就任以来、何度か中期経営計画を策定し、収益性の改善や新製品の開発といった組織改革をずっと進めてきました。その中で、全社員が一丸となれたことや、計画が結果として表れたことには確かな手応えを感じています。
ーー貴社の事業における強みはどのような点にあるとお考えですか。
相臺志浩:
高い技術力と開発力です。たとえば、空気中の湿気を取り込んで常温で固まるアスファルトをスプレーする、アスファルト防水スプレー工法「クリンアスNEOスプレー」を開発しました。通常のアスファルト防水は、屋上の過酷な環境下で高温に溶かして施工するため、防水工事の職人さんにとって非常に負担が大きいです。この「クリンアスNEOスプレー」のように、私たちは耐久性や強度といった品質を高めながら、施工の簡略化や機械化を進め、工事をする人たちの負担をどう軽減するかに力を注いでいます。
時代が変わっても「誠実なものづくり」を貫くアイデンティティ
ーー社内のメンバーにはどのような姿勢を求めていますか。
相臺志浩:
「誰よりも誠実であること」を求めています。私たちの扱う防水材は、建物が完成すれば裏側に隠れてしまい、普段は人目に付くことはありません。しかし、万が一不備があれば建物全体の寿命を縮め、人々の暮らしを脅かしてしまいます。だからこそ、見えないところこそ丁寧に向き合い、任された仕事は最後までやり遂げる。そんな向上心や好奇心を持った誠実な姿勢が、個人の成長、ひいては弊社の信頼につながると信じています。
ーーご自身の経営指針となるような言葉はありますか。
相臺志浩:
採用ブランディングをお願いしている学生起業家の方と話す中で「相臺社長の根底にあるのは『貫く』ですね」と言われたことがありました。そのとき、自分の中でスパッと非常にしっくりきたのです。100年以上、インフラを支えるという使命感を持ち、地道な努力を積み重ねてきた弊社の歩みそのものが、この「貫く」という言葉に集約されていると感じました。時代が変わっても、この変わらない軸を貫くことこそが、弊社のアイデンティティだと再認識しています。
今後の展望と新たな柱「屋上活用」

ーー現在、新たに取り組まれていることはありますか。
相臺志浩:
30年近く変わっていなかった人事制度の見直しを進めています。従業員の幸福度を最大化するために、役割等級制度などを導入し、今の時代に即した制度に変えようとしています。「変えたくない」という人間の心理もあるでしょうが、日新工業の新しい変化を生み出し、人材育成を含めた強い組織をつくるためには、避けては通れない改革です。この仕組みを整えることで、次の成長へとつなげていきたいと考えています。
ーー最後に、今後の事業展開についてお話いただけますか。
相臺志浩:
「防水」という本業に加え、屋上の有効活用を提案する屋外のエクステリア事業を大きな柱の1つにしていきたいと考えています。30年前にベルギーから輸入した屋外二重床システム「PFシステム」というバリアフリーのテラス材があり、大阪・関西万博のベルギー館の屋上テラスでも全面採用されました。隙間から雨水が落ちるため水はけがよく、掃除もしやすいと大変好評です。隠れてしまう防水材だけでなく、屋上という空間を活用する形でも社会に貢献していきたいですね。
編集後記
見えないところで社会インフラを支える防水技術。相臺氏の言葉からは、現場で泥臭く培った経験と、自社製品への揺るぎない誇りが感じられた。老舗としての歴史にあぐらをかくことなく、職人の負担軽減や30年ぶりの人事制度改革といった「次なる一手」を打ち続ける同社。「見えない努力を貫く」という信念のもと、日新工業がどのように進化していくのか、今後の展開が非常に楽しみだ。

相臺志浩/1973年生まれ千葉県出身。1997年明治大学経営学部経営学科卒業後、日新工業株式会社へ入社。2009年取締役生産部長、2013年専務取締役を経て、2019年2月代表取締役社長に就任。