※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

スマートフォンや電子部品から宇宙開発に至るまで、現代の最先端技術を陰で支える「真空装置」分野において、トップクラスのシェアを誇る製品を持つ株式会社昭和真空。同社を率いる田中彰一氏は、新卒入社後、1名での上場準備室立ち上げや中国法人の設立など、数々の困難を乗り越えてきた。同族経営から新たな組織体制への過渡期にある現在、田中氏が掲げる「モノづくりの心を取り戻す」真意と、チームとしての成長を目指す未来のビジョンに迫る。

たった1名での上場準備と中国法人の立ち上げを越えて

ーーまずは、貴社へ入社された経緯を教えていただけますか。

田中彰一:
会社の規模と「水晶用の真空装置でトップシェア」という実績のギャップに惹かれたのが入社の決め手です。当時は他社から内定を得ていましたが、転勤の多さが懸念でした。そこで、地元である神奈川県に本社がある企業を探し直したのです。その際、家庭教師として教えていた生徒の母親が弊社の子会社に勤めており、弊社の社名を知りました。調べてみたところ、先述の圧倒的な実績があることが分かり、そこに興味を抱いて入社を決意しました。

ーー入社後はどのような業務をご経験されたのですか。

田中彰一:
管理本部の業務を経て、店頭上場に向けてのしくみづくりと、中国事業の立ち上げを経験しました。最初は経理や総務など幅広い業務を担当しました。入社から十数年後、大きな転機となったのが店頭上場の準備です。準備室は私1名の部署でしたが、社内規則や業務フローを構築し、原価計算の仕組みなどを上場基準に引き上げました。その結果、2000年に店頭上場を果たしたのです。

その後は中国子会社の設立に携わりました。当初は保守点検ができない生産会社を設立してしまう失敗もありましたが、翌年には貿易会社を立ち上げるなど、右も左も分からない現地でゼロから組織をつくる苦労を味わいました。これらの試行錯誤が今の経営の原点です。

ーーその後、どのような経緯で社長就任という大任を引き受けられたのでしょうか。

田中彰一:
役員となり、常務として約1年が経った頃、経営陣が世代交代の時期を迎えました。当時、私は役員の中でも最年少でしたので、当初は辞退したものの、世代交代の時期を迎える中で次世代のリーダーとしての役割を期待されたこともあり、就任を決意しました。

弊社は長らく同族経営でしたが、同族以外で初の社長である私が就任し、一般的な企業体制へと移行する過渡期にあります。次世代のリーダーを育成し、経営の軸を盤石にすること。そして、その「つなぎ」の役割を果たすことが自らの使命だと考え、社長就任を引き受けました。

「モノづくりの心を取り戻す」チームで挑む組織体制

ーー経営者として、最も大切にされていることは何ですか。

田中彰一:
会社の成長と従業員の幸せが一体となる組織づくりです。私が社長に就任した頃、利益や効率を重視するあまり、メーカーとしての「良いモノをつくる」という意識が薄れていると感じました。そこで「モノづくりの心を取り戻す」という方針を掲げたのです。経営者として、皆で目的を共有し、力を合わせて取り組む会社を目指しています。

ーー具体的にはどのような組織づくりを目指しているのでしょうか。

田中彰一:
個人の力量に頼るのではなく、「チームで製品をつくる」組織です。一つの装置を完成させるには、営業や設計、開発、組み立てなど多くの部署が関わります。だからこそ、部署間の垣根をなくすことが不可欠です。誰かがミスをしても責めるのではなく、全員でカバーし合う。目的を共有し、力を合わせて同じ方向へ進む体制を重視しています。

ーーチームワークを醸成するための具体的な取り組みを教えてください。

田中彰一:
経営陣による朝の挨拶運動と、対話の重要性の啓発です。半年に一度、役員、管理職が入口に立ち、2週間にわたり朝の挨拶運動を行っています。技術系の企業ゆえに表現が苦手な社員もいますが、挨拶は意思疎通の第一歩です。継続するうちに挨拶が返ってくるようになり、社内の雰囲気も和らぎました。

また、顧客に対しても対話を重んじています。単に仕様書通りに作るだけではなく、背後にある本当の要望を汲み取る努力を求めています。

ーー改めて、貴社の事業内容と独自の強みについてお聞かせください。

田中彰一:
真空中で薄膜を形成する装置の製造と、顧客の要望に応じる対応力です。スマートフォンに使用されるカメラレンズに反射防止膜を成膜する装置や、水晶振動子等の水晶デバイス加工用装置において、トップクラスのシェアを持っています。近年は、宇宙空間を地球上で再現する評価用真空装置にも注力しています。私たちの強みは、真空という特定の専門分野における長年の知見と、特注品への対応力です。小回りの利く体制を活かし、保守点検を含めた迅速な対応を行うことで、顧客からの信頼を得ています。

未来を見据えた人材育成と小さくても強い会社へ

ーー今後、会社をどのように成長させていきたいとお考えですか。

田中彰一:
「小さくても強い会社」であり続けることです。社員がやりがいを持ち、モノづくりが楽しいと思える活気のある環境をつくりたいと考えています。また、規模の拡大を目的とするのではなく、5年後、10年後の未来を見据え、既存の主力事業に加えて新たな柱となる事業を複数育て、経営の基盤を固めていく方針です。

ーーその実現に向けた人材育成や採用への取り組みを教えてください。

田中彰一:
将来どのような人材に育てたいかという理想像から逆算した、教育プログラムの実施です。この方針に基づき、教育や研修のカリキュラムを見直しました。たとえば新入社員には、配属前に1年間現場を経験させ、製造の基礎を習得する体制へと変更しています。また、世代交代の過渡期にあるため、管理職の育成にも注力しています。そのため、単に指示を出すだけでなく、自ら現場で共に動く姿勢を求めています。

ーー最後に、読者へメッセージをお願いいたします。

田中彰一:
「モノづくりが好き」という気持ちを持った方に来ていただきたいです。仕事では困難な場面もありますが、チームで結果を出したときの達成感は非常に大きなものです。私たちは、互いの顔が見える良さを残しつつ、時代の変化に合わせて進化しています。共に努力し、モノづくりの楽しさを分かち合える方をお待ちしています。

編集後記

利益や効率を追うだけでなく、原点である製品への愛着や従業員の幸福を大切にする同社。長年培ってきた技術力に驕ることなく、対話や挨拶といった基本を重んじる姿勢が印象的だった。過渡期を乗り越え、個の力を結集したチームワークでどのような「小さくても強い会社」へと飛躍していくのか、今後の展開が楽しみだ。

田中彰一/1985年に明治大学を卒業し、株式会社昭和真空に入社。経営企画室長、経理部長、取締役執行役員 管理本部長、取締役執行役員 常務等を経て2025年4月に代表取締役 執行役員社長に就任。