
一人ひとりの「見え方」に徹底的に向き合い、単なる視力矯正具ではない、新たな価値を持つメガネを提供している株式会社グラスファクトリー。同社はオーダーメイドレンズや最先端の検査技術を駆使し、現代人の多くが抱える“眼精疲労の改善”という課題に挑んでいる。アパレル業界で培った知見を武器に、旧来の慣習が残るメガネ業界に変革をもたらすのが、代表取締役の乾寛人氏だ。家業を継承し、異業種の視点から業界の常識を覆そうとする同氏の目に、メガネの未来はどのように映っているのか。その事業にかける思いに迫った。
アパレル業界から家業へ 異業種の視点がもたらした変革
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
乾寛人:
大学卒業後、1年ほどイギリスに留学し、帰国後はアパレル業界に進みました。セレクトショップやオーダースーツの仕事に7〜8年ほど携わりました。祖父がメガネのレンズ工場を、父が小売店をそれぞれ経営していたため、自分でビジネスを持つことが自然な環境で育ちました。そのため、当時はアパレル業界で力をつけて独立しようと考えていました。
ーーそこから、家業であるグラスファクトリーに入社された経緯をお聞かせください。
乾寛人:
自分で独立する準備を進めていたある時、父から「手伝ってくれないか」と声をかけられたのがきっかけです。実は当時、弊社ではメガネだけでなくオーダースーツ事業も手がけていました。私がアパレル業界で培ってきた、対面接客で付加価値の高い商品を提案するノウハウがそのまま活かせる環境だったのです。そのため、まずはオーダースーツ部門の店長として入社し、メガネ事業も手伝う形でキャリアを再スタートさせました。
ーーアパレル業界でのご経験は、どのように活かされましたか。
乾寛人:
アパレル業界は非常に成熟しており、メガネ業界の「数年先」を行く存在です。たとえば、洋服の世界では当たり前の“セレクトショップ”という業態も、ネットが発達した現代では「単にモノを売るだけ」でその価値が薄れつつあります。メガネ業界も同じ変遷を辿ると確信できたため、早々に「モノ(フレーム)売り」から脱却し、「体験(見え方の質)」を提供する方向へ舵を切ることができました。アパレルの成功と衰退のサイクルを肌で知っていたからこそ、業界の未来を予測し、先手を打てたことが最大の強みだと考えています。
「モノ」ではなく「体験」を売る 眼精疲労に悩む現代人への提供価値
ーー「モノ」から「体験」への転換において、具体的にはどのような変革に着手されたのでしょうか。
乾寛人:
「体験」の核として着目したのが、「レンズの医療的進化」です。長らくメガネ業界は、海外の洗練されたフレームを扱う「ファッション訴求」が主流でした。しかしその裏で、医療分野におけるレンズ技術は飛躍的に進化を遂げていました。私たちはそこに特化し、デザイン性よりも、視力測定やレンズ選定という“医療的側面”を前面に打ち出しました。
そのために導入したのが、完全予約制による長時間の接客です。一人のお客様に1時間半から2時間をかけて、じっくりと検査やフレーム選びを行います。「数を売る」従来のビジネスモデルから決別し、一人ひとりに深く寄り添い「最適な視界を提供する」スタイルへと転換しました。
ーーなぜ、それほど一人ひとりに寄り添うスタイルを重視されるのでしょうか。
乾寛人:
市場にモノが溢れる現代において、「多くの人に合う既製品」は、裏を返せば「誰にも最適化されていない」ことと同義だからです。前職では、大量生産された商品が誰の体にも合わず、そのまま廃棄される現実も目の当たりにしました。
そうした経験から、これからは「一人ひとりに合わせて作られた最善のもの」にこそ、本質的な価値が宿ると確信しています。徹底してパーソナルな提案に振り切ることは、競合との差別化である以前に、顧客に対する私たちの誠意であり、責任でもあると考えています。
ーー改めて、貴社の事業の核となる考え方をお聞かせください。
乾寛人:
私たちは単にメガネを売るのではなく、「眼精疲労を改善した状態」をお客様に提供したいと考えています。現代人の目の疲れは、スマホやPCの長時間利用による「ピント調節機能の酷使」が主な原因です。実は、適切なレンズでこの筋肉の働きをサポートすれば、疲れの根本的なケアが可能です。単なる視力矯正の枠を超え、この「現代病」の解決に挑むことこそが、私たちが提供できる最大の価値だと考えています。
最先端技術が叶える究極のパーソナライズ
ーー他社にはない、貴社ならではの強みや技術的なこだわりについてお聞かせください。
乾寛人:
お客様一人一人の目の状態に合わせた「完全オーダーメイドレンズ」と、脳の働きまで考慮した「両眼視機能検査」です。まず、人によって異なる目の高さや耳の位置をすべて計算し、レンズを一人ひとりに最適化することで、既製品のレンズでは避けられない微細な見え方のズレを解消します。さらに、左右の目で見た映像を脳が正しく統合できているかを調べる「両眼視機能検査」も導入しています。この検査は高度な専門知識を要するため全国でも実施店はわずかですが、物理的なフィッティングと視機能の補正を掛け合わせることで、視力の“質”そのものを高められる点が最大の強みです。
ーーフレームに関しても、新たな挑戦をされていますか。
乾寛人:
3Dプリンターを活用したフレーム開発に注力しています。一般的なメガネは「ワンデザイン・ワンサイズ」が基本ですが、当然ながら人の顔の大きさは千差万別です。いくら最高品質のレンズを使っても、フレームのサイズが合っていなければその性能を十分に引き出すことはできません。そこで、多品種少量生産が可能な3Dプリンターの特性を活かし、S・M・Lのサイズ展開ができるブランドを新たに立ち上げました。
メガネの未来を創造する グラスファクトリーの次なる一手

ーー今後の事業展開や、描いているビジョンについてお聞かせください。
乾寛人:
多店舗展開を積極的に進めるより、既存エリアでのサービス密度を高めていきたいと考えています。たとえば、同じエリア内に「スポーツ専門店」や「子供用専門店」などコンセプトの異なる店舗を展開し、「ここに来ればあらゆる用途のメガネが揃う」拠点をつくる構想です。
また長期的には、AR(拡張現実)のような新技術への適応も「必須科目」だと捉えています。たとえデバイスが進化しても、映像を鮮明に見るための「度付きレンズ」は不可欠だからです。既存の枠組みにとらわれず、先端技術を持つ企業との協業も視野に入れながら、メガネの在り方が変わる未来にも柔軟に向き合っていきたいですね。
ーー最後に、どのような方と一緒に会社の未来をつくっていきたいですか。
乾寛人:
自らの価値を高めることに意欲的な方と働きたいと考えています。私たちの仕事は、お客様に価値を提供し、その対価としてお金をいただくことです。個々のスタッフが価値を高める努力をすることが、ひいては店や会社の価値向上につながります。そうした思いを持つ方が仲間になってくれるなら、会社として全力でサポートしていきたいと考えています。
編集後記
アパレル業界で培われた“個に寄り添う”という視点が、メガネというプロダクトと融合し、新たな価値を生み出している。乾氏が語る“眼精疲労を改善した状態を売る”という言葉は、単なるモノ売りからの脱却を目指す多くのビジネスにとって示唆に富むものである。テクノロジーを駆使して一人ひとりの“見え方”を最適化し、メガネの未来そのものを創造しようとする同社の挑戦に、これからの時代のスタンダードが垣間見える。

乾寛人/1986年大阪府出身。大学卒業後はアパレル業界に就職。販売員として経験を積んだ後、2015年に株式会社グラスファクトリーへ入社。「メガネで人々のライフスタイルをより豊かにする」をミッションに掲げ、その実現のために、世界最先端測定機器導入やオーダーメイドのレンズ・フレーム提案を推進。お客様へのよりパーソナルなご提案ができるシステムの構築を続けている。