
103年の歴史を持つ同族会社を引き継ぎ、幾多の荒波を乗り越えてきた丸大観光株式会社。バブル崩壊や規制緩和による過酷な価格競争といった危機を打破し、観光バス専業から「交通弱者の足助け」へと大胆な事業転換を遂げた。その裏には若き日に中国で培った強烈な現場主義があった。現在、同社は売上高100億円を実現するべく「100億宣言」を掲げている。DEI(多様性・公平性・包摂性)を軸とした自律型組織への進化を推し進め、異業種からトップドライバーを生み出す柔軟な働き方を取り入れている。社会貢献への並々ならぬ矜持について齋藤栄作氏にうかがった。
中国での過酷な買い付け経験から学んだ現場主義
ーーまずは、ビジネスの原体験についてお聞かせいただけますか。
齋藤栄作:
私の経営感覚のベースにあるのは、20代の頃に立ち上げたウーロン茶の輸入事業での経験です。1987年当時、中国の福建省の奥地まで27時間かけて直接買い付けに行っていました。当時は私が選んだお茶が帰る頃にはコンテナごとすり替えられているなどということもあったのです。それでも現地で一つひとつ自ら検茶し、本物を見極める泥臭い現場主義と徹底したマーケットリサーチ力を養いました。この時に培った「机上の空論ではなく現場で真実を掴む」という姿勢が後の企業再建の大きな武器になりました。
ーー家業を引き継がれてからはどのような困難がありましたか。
齋藤栄作:
私が引き継いだ時代は、まさに激動の連続でした。バブル崩壊以降、金融機関の貸出姿勢が厳しさを増すなか、小泉内閣の規制緩和によってバス業界は過酷な価格競争に巻き込まれていきました。これまで10万円で受注できていた仕事が5万円にまで落ち込み、周囲の観光バス専業業者は次々と倒産を余儀なくされたのです。業界を導く大手企業の指針もない状況下で、私は国のホームページを隅々まで読み込んでみようと考えました。そこで「これからの時代は環境や福祉や教育だ」という明確なメッセージを発見。「これだ」と直感した私は、既存の観光バス事業に加え、新たな方向へ事業を転換する決断を下しました。そうして、特別支援学校の送迎をはじめとする「交通弱者の足助け」へと、大胆に舵を切ることになります。
強固な財務基盤と行政への逆提案

ーーその大胆な事業転換を支えたのは何だったのでしょうか。
齋藤栄作:
金融機関からの確固たる信頼の獲得です。社会貢献性の高い事業モデルが評価され、公的金融機関からは当時破格の2億円という財務体質強化を目的とする資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)を融資していただきました。またメインバンクからは一定の財務水準を有する企業によって発行されているため「優良企業」との評価が得られ信用力を対外的にアピールする事が可能な銀行保証付き私募債を発行していただきました。このようにして強固な財務基盤を築くことができたのです。この信用力と実績があるからこそ行政に対しても対等な提案が可能になります。
たとえば、行政から「車を用意するから運転手だけ派遣してほしい」と頼まれたことがあります。しかし、整備を含めた安全管理が担保できないためにお断りしました。その上で自社にて車両・整備・運行まですべて責任を持つプランを安全安心の運行が不可欠であると逆提案し、結果的に行政の仕組みそのものを改善することに繋がったのです。
ーー「100億宣言」について詳しく教えてください。
齋藤栄作:
創業から100年が経過したとき、次の100年を見据えました。単なる一企業の成長ではなく地域経済全体を牽引する存在にならなければならないと考えたのです。そのために3年間で全社員の賃金を5%ずつ引き上げる公約などを通じ利益を還元します。社員に利益を還元して地域を活性化させることが不可欠です。そしてこれからの組織づくりにおいて最大の注力テーマがDEI(※1)の体現です。
(※1)DEI:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの頭文字を取った略語。多様性とアイデンティティを尊重し、かつ、公平な活躍の機会を与えられている状態。
多様性の推進と働き方改革が売上高100億円への道を拓く
ーーDEIの体現に向けて具体的にはどのような取り組みをされているのですか。
齋藤栄作:
これまでのバス業界は経験者ばかりの集まりでした。しかし、我々は業界未経験者や多様な背景を持つ人財を積極的に受け入れています。たとえば元々飲食業で働いていた女性を未経験で採用し、会社負担で二種免許を取得してもらいました。彼女は弊社の育成プログラムで経験を積み、わずか1年半でトップクラスの売上高を誇るドライバーに成長したのです。
また、働き方改革も進めており一人ひとりの生活に合わせた柔軟な勤務体系を用意しており、誰もが公平にチャンスを掴み、居心地良く活躍できる強い組織への進化を目指します。
ーー最後に、今後の展望についてお話いただけますか。
齋藤栄作:
私は常に社員に対して「あなた方は旅客運送事業を通じて社会貢献をしている」と伝えています。特別支援学校の生徒や移動に困っている高齢者にとって我々はなくてはならない存在です。助けが必要な方に足助けをするという揺るぎない社会的使命への誇りが大切であり、これこそが最高のインナーブランディングだと信じています。これからも社会に必要不可欠なインフラ企業としての頼もしさを胸に挑戦を続けます。多様な人財が個性を活かし社員一丸となって次の100年へ果敢に挑戦していきたいですね。
編集後記
過酷な価格競争や時代の変化に対し、嘆くのではなく環境や福祉や教育という新たな市場を切り拓いた齋藤社長。利益追求ではなく交通弱者の足助けを事業の根幹に据える姿勢からは社会インフラを担う企業としての強い覚悟が感じられた。異業種からの採用や柔軟な働き方を推進するDEIの体現は古い業界の常識を覆すイノベーションの源泉となっている。地域を牽引する100億宣言に向け多様な人財と共に歩む同社の未来に期待が高まる。

齋藤栄作/1959年、埼玉県生まれ。獨協大学経済学部経済学科卒業。1982年4月、丸大観光株式会社入社。1985年4月、丸大観光株式会社・丸大トラベルサービス株式会社・豊岡丸大タクシー有限会社の取締役に就任。1987年9月、輸入商社として有限会社豊岡大黒屋を設立(現 ビッグサークル・グループ・ホールディングス)、代表取締役に就任。1997年4月、丸大観光・丸大トラベルサービス・豊岡丸大タクシー・専務取締役に就任。1999年4月、上記4社の代表取締役社長に就任。