※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

香川県高松市に本社を置き、とび・土工事業と一般土木工事業を主軸として地域社会の基盤づくりを支える城北建設株式会社。同社の特筆すべき強みは、この規模の専門工事業者としては異例ともいえる15名もの1級施工管理技士を擁する技術者集団であることだ。徹底した自主管理体制が高品質な施工を実現し、顧客から絶大な信頼を得ている。かつてJALに勤務していた代表取締役の細谷芳久氏は、畑違いの建設業界へ転身し、債務超過に陥った同社を承継。自身の執念ともいえる努力で売上を7倍以上に拡大させ、力強く再生へと導いた。仕事を通じて人格の向上を図ると説く、その独自の経営理念と再生の軌跡に迫る。

JALから土木の世界へ 倒産寸前の会社を継いだ理由

ーーまずは貴社の経営を引き継がれた経緯をお聞かせいただけますか。

細谷芳久:
もともと日本航空株式会社に勤務していました。しかし、実家が共同で出資していた弊社が経営難に陥り、廃業の話が持ち上がったのです。その頃はまだバブル後期であり、私自身に「自営業に挑戦したい」という思いがあった時期でもあり、業界未経験ながら、再建役として手を挙げました。結局のところ、私の自営業に挑戦したいという思いは、動機は不善で私心の塊のようでした。実際に経営を引き継いでみると、会社は深刻な債務超過の状態でした。そのため、初日から資金繰りに奔走するという、想像以上に厳しいスタートとなったのです。

ーー未経験の業界で、どのようにして会社を立て直していったのでしょうか。

細谷芳久:
まずはとにかく仕事を取ってこなければ話になりません。ですが、自分たちの会社の商品を全く知らない状態でしたので、毎日、半日を費やして全ての現場を見て回り、どのような仕事をしているのか、原価はいくらかといったことを必死で学びました。残りの半日は、ゼネコンや役所を回る営業活動を行い、特に最初の3年間は名前を覚えてもらうために役所に月に3000枚の名刺を配り続けました。たった一人で「人海戦術」のような、地道な努力を重ねるしかありませんでした。そういった地道な努力と時代も良かったおかげで再建を果たし、現在は売上高21億円を達成するまでに成長を続けています。

仕事を通じて人格を磨く 人間としての正しさを貫く経営

ーー経営者として大切にされている信念は何でしょうか。

細谷芳久:
弊社の社是である、「真・善・美(Sincerity・Love・Harmony)」です。これは、誠の心で本物を追求する「真」、善良な心で社会の役に立つ「善」、そして調和と秩序のとれた姿こそ「美」であると考え、指針とするものです。

また、私がよく口にする「仕事を通じて人格の向上を図る」というのは、この理念を追求した先にある姿です。人生の大半を占める仕事の時間は、単なる労働ではなく、こうした価値観を磨き、自分自身を高める場であるべきだと考えています。この「真・善・美」の実践を通して、社員一人ひとりが物心両面の幸福を掴み取れる会社でありたいですね。もっともこれは、私が経営の神様と仰ぐ稲盛和夫氏の教えですが。

ーー社員の皆さんには、仕事をする上でどのような判断基準を求めていますか。

細谷芳久:
損得ではなく、あくまで「人間として正しいか間違っているか」を基準にするよう伝えています。その上で、もし会社のためにならないことであれば、相手が社長であっても「それは違う」とはっきり言える人間であってほしい。そうした正しい判断を積み重ねることが、結果として「仕事を通じた人格向上」につながると考えています。

業界でも稀有な技術者集団 高い品質を支える自主管理体制

ーー貴社の最大の強みはどこにあるとお考えですか。

細谷芳久:
1級施工管理技士の資格を持つ社員が15名も在籍していることです。とび土工事業という専門工事業者で弊社ほどの規模であれば、これほど多くの資格者が在籍していることはまずありません。資格を持つ社員は品質や工程、原価、安全といった全ての面で自主管理ができます。現場の作業員が自ら管理できる体制が、元請けであるゼネコンから高く評価される理由の一つです。

ーー品質管理には、どう取り組まれていますか。

細谷芳久:
弊社は、2002年11月1日付で国際標準化機構(ISO)が定める品質管理システムについての国際規格「ISO 9001:2000年版」の認証を取得。また、2010年10月1日付で、「ISO14001:2004年版」の認証を取得しました。

私たちはISOを単なる入札や格付けのための道具にするのではなく、日々の業務やチェック体制と完全に一致させたいと考えています。多くの企業では形式的な導入に留まりがちですが、弊社では会社の品質を本当に高める「生きたシステム」として運用することにこだわっています。具体的には、現在構築中の人事評価制度とも連動させることで、この取り組みを社員一人ひとりの客観的な評価や成長へとつなげていく方針です。世の中の99%の企業が形骸化させていたとしても、ISOが飾りではなく会社の血肉となっている、そんな「残りの1%」の企業でありたいですね。

伝統と革新の融合 次世代へつなぐ未来への挑戦

ーーこれからの事業展開について、どのような展望をお持ちでしょうか。

細谷芳久:
今後の展望としては、大きく「市場の拡大」と「組織の進化」の2点を進めています。まず市場については、2026年1月から東京への進出を始めました。香川と首都圏では市場規模が10倍以上違いますから、事業を永続させるためには、より大きな舞台での挑戦が不可欠だと判断しました。

一方、組織面では次世代を見据えた変革が進んでおり、個々人の業務の成果が組織としてしっかりと機能することにより会社の成長を実現する仕組みつくりを行っています。DX推進に関しては、後継者である息子に一任しています。彼には大手企業での技術者経験があり、私とは異なる新しい視点を持っています。全社員への情報共有のデジタル化など、彼ならではのノウハウを取り入れながら、時代に即した効率化を進めてくれています。

私自身はアナログな人間であり、デジタルによる管理は本来の自分には馴染まない部分もあります。しかし、あえて口出しせずに任せることで、新しい風を吹かせてもらいたい。これに合わせて、客観的で公正な評価制度の構築にも注力し、社員が納得感を持って成長できる土台を固めていきます。規模を追うのではなく、品質と人を大切にする姿勢を次世代へしっかりとつないでいきたいですね。

ーー今後、どのような人材に来てほしいですか。

細谷芳久:
何よりもまず、明るく健康で、やる気があって、素直であること。この3つがあれば十分です。能力は後からいくらでも身につきますし、そうした人は必ず伸びます。若い人たちが将来の自分の姿を具体的に描けるよう、評価制度をはじめとした仕組みづくりで応えていきたいと考えています。

ーー最後に、今後目指す会社像をお聞かせいただけますか。

細谷芳久:
私は常々、社員には「仕事を通じて自分が成長することに喜びを感じる人生を描いてほしい」と願っています。いつか人生を振り返ったとき、本人だけでなく、そのご家族や友人からも「城北建設にいたからこそ、人生が豊かだったね」「あそこで働いて本当によかったね」と言ってもらえるような会社でありたいですね。

編集後記

「人間として正しいか」。細谷氏が繰り返し口にしたこの言葉が、全ての判断基準となっている。畑違いの世界に単身で飛び込み、倒産状態の会社を売上高21億円企業へと再生させた原動力は、この揺るぎない思いにあるのだろう。「仕事は人格を磨くための修練の場である」と説く厳しい視線の奥には、社員一人ひとりの人生が豊かであってほしいと願う温かい思いが込められている。伝統的な職人の世界にデジタルの風を吹き込み、次世代へとバトンをつなぐ同社の挑戦は、新たな局面を迎えている。

細谷芳久/1957年生まれ。香川県立高松高等学校、慶應義塾大学経済学部を卒業後、1980年に日本航空株式会社へ入社。大阪空港支店、客室本部、関連会社出向、ロンドン空港支店、名古屋支店、貨物事業本部などを歴任。1990年8月に城北建設株式会社の取締役に就任し、1992年11月に城北建設の専務取締役を経て、1993年2月より同社代表取締役社長に就任。現在に至る。令和3年国土交通大臣表彰、令和7年黄綬褒章受章。