
大手企業での営業経験を経て若くして起業し、大きな挫折を味わった細田健一氏。その後、父親が創業した株式会社アケボノに入り、社長に就任した。約20年をかけ、「間接受注100%」から「法人直取引100%」への事業転換を成し遂げた。しかし、社長就任後に見舞われたのはがんの闘病生活だ。そこからの奇跡的な生還が経営者としての覚悟を決め、「私には生きた証がない」「残ってくれた社員に恩返しをしなければ」という強い思いから企業理念を刷新し、5年で売上高を4.6倍に急成長させた。今期22億円を見込み、ゆくゆくは100億円超の企業を目指す同社の強さと、独自の組織づくりに迫る。
挫折と闘病を経て見出した経営者としての「生きた証」
ーーまずは、貴社へ入社された経緯を教えてください。
細田健一:
もともと私はリクルートに勤めていました。その後、そこで培った新規開拓のノウハウを活かして23歳のときに塗装業で起業し、一時は社員を約430名抱え、売上50億円規模にまで事業を急拡大させたのです。しかし実態は、利益が出ていない自転車操業でした。株式公開を見据えて監査法人を入れるなど、背伸びをした経営がたたって、資金繰りが悪化してしまいました。
34歳のときに民事再生を申請したものの、結果的に破産を余儀なくされています。当時は精神的に非常に追い詰められていましたが、家族を養わなければならない責任があります。そんな状況下で、父親が助け船を出してくれたのです。最初は継ぐ気がなく家を出たのですが、この出来事を契機として家業へ入る決断をしました。
ーー入社当時、貴社はどのような状況だったのですか。
細田健一:
当時は建設会社の下請けとして塗装や防水工事を行っており、依頼元との直接取引ではない分、利益が出にくい構造でした。「このままでは会社が危ない」と強い危機感を抱き、入社後は自身の強みである営業力を活かして、製造業の工場をターゲットにした直接受注の営業を自ら開始しました。そして約20年をかけ、利益の出にくい「関節受注100%」から「法人直取引100%」へと事業構造を変えていきました。
「AI教育」と「完全分業制」が支える未経験からのプロ育成

ーー売上高を5年で4.6倍へと急成長させた最大の要因はどこにあるのでしょうか。
細田健一:
事業の専門特化と、それを強固にする「完全分業制」にあります。私たちの強みは、事業を塗装と防水、大規模修繕に特化している点です。顧客のさまざまな要望に対して専門的な提案ができる体制を整えています。その提案体制を支えているのが「完全分業制」です。弊社の営業担当は、新規開拓から見積もり依頼を獲得するまでの工程に集中します。その後の現場調査や見積もり作成は専門の積算部門が担当するのです。そして、実際の工事は専属の現場監督と協力業者が行うというように、業務を完全に切り分けています。
ーー分業制のもと、未経験者をどのように即戦力のプロへと育成しているのですか。
細田健一:
新入社員への「AI教育」の徹底ですね。未経験の方でも早期に活躍できるよう、AI教育の仕組みを導入しました。塗装や防水の専門知識について、AIに指示文を入れて自ら学ぶのです。クイズや動画も組み合わせ、自分のペースで学習できる仕組みになっており、これによって教育にかかる属人的な部分を標準化し、質の高い学習が可能になりました。
また、私が病気から復帰してからは社員への恩返しという観点から働きやすさも重視し、休むときは休み、働くときは効率的に、成果を出しやすい環境を整備しています。そうした仕組みがあるからこそ、高い意欲を維持して成長できるのだと思います。
埼玉・群馬・栃木から関東全域へ 1600億円市場での勝算
ーー次に見据えている新たなターゲット市場を教えてください。
細田健一:
修繕市場でのさらなるシェア獲得と、マンション大規模修繕への本格参入です。現在注力している埼玉・群馬・栃木の3県における修繕市場にフォーカスしています。この市場は推計約1600億円規模であるとみています。将来的にはその1割にあたる「160億円」の売上高シェア獲得を目指します。同時に、今年からは新たに「マンションの大規模修繕」市場への営業を開始し、すでに複数の受注実績を上げています。
ーーさらなる事業拡大の先に、貴社が目指すビジョンは何でしょうか。
細田健一:
将来的に売上高100億円、さらにはそれ以上の企業規模へと成長させることです。今後、北関東から関東全域へのドミナント展開を構想しています。明確な成長戦略を描いており、実現のためには理念に共感してともに挑戦する仲間が必要です。これからも社員への感謝を忘れず、地域を代表する企業を目指して歩みを進めていきます。
編集後記
持ち前の営業力で道を切り拓きながらも、闘病という過酷な試練を経験した細田氏。そこで「社員への恩返し」という利他の精神に行き着いた。その覚悟が、間接受注からの脱却やAI教育の導入、完全分業制といった抜本的な組織改革を推し進める原動力となっている。充実した教育体制と働きやすさを追求する同社の姿勢は、次世代の建設業の好例といえるだろう。北関東から関東全域へのドミナント展開を控え、100億円企業へとひた走る株式会社アケボノのさらなる飛躍に期待したい。

細田健一/1990年、株式会社リクルートに入社後、23歳で起業。10年で売上高50億円、従業員400名、21店舗に拡大するも2005年に民事再生を申請。その後株式会社アケボノに勤務し、2016年に代表取締役就任。2019年に肺がんステージ3が発覚するも、約1年の闘病を経て復帰し、社業に専念して5期連続で売上高30%成長を達成した。波乱万丈な半生を歩む。座右の銘は「因果応報」。