
AI技術が急速に進化する現代において、多くの企業がその活用に課題を抱えている。そんな中、AIに不慣れな人でも「気軽」に使える国産AIスライド作成サービス「イルシル」を展開して注目を集めているのが株式会社イルシルだ。代表取締役の宮﨑有貴氏は学生時代から熱心な読書家で圧倒的な読書量を誇っている。年齢や立場に関わらず本質的な提案を行う熱意とポジティブな姿勢でキャリアを切り拓いてきた。「社会の仕組みを変えたい」と語る宮﨑氏に起業の経緯を聞いた。中小企業に伴走する手厚いサポート体制や今後の展望に迫る。
年間200冊の読書量と会社成長を見据えた本質的な提案力
ーー学生時代はどのように過ごされていたのでしょうか。
宮﨑有貴:
大学時代は10個のサークルに所属したり、自ら探してインターンを複数社経験するなど、とにかく動き回っていましたね。インターンでは営業から採用まで幅広い業務を経験しました。大学に通いながらフルタイムで働いていたため、学業との両立は難しく、半分以上の単位を落としてしまったこともあります。それでも、若いうちから経営層の近くで働いて成果を出すことが楽しくて、仕事に没頭する毎日でした。
ーーインターン時代に印象に残っている出来事はありますか。
宮﨑有貴:
当時、ある程度事業が軌道に乗って安定してきたタイミングで、社長が「自分は本当にこれをやりたかったのだろうか」と悩み、少し精神的に落ち込んでいた時期がありました。私はその姿を見て、率直に「社長、ここで立ち止まるのはかっこ悪いです。今の売上規模で満足するのはまだ早すぎます。もっと前向きに新しい挑戦をしましょうよ」と熱を込めて伝えたのです。すると、私の言葉に社長が涙を流し、「本当に心が変わった」と言ってくれました。それ以降、社長は見違えるように楽しそうに働き始め、私も新規事業のリーダーとしてさらに会社を引っ張る立場になりました。会社の成長に真剣に向き合い、相手を思って本音でぶつかる姿勢は昔から変わっていません。
ーー若くしてそれだけの行動力を発揮できた要因は何でしょうか。
宮﨑有貴:
圧倒的な量の本を読んでいたことと、常に会社の成長を考えていた点に尽きると考えています。当時は年間100冊から200冊は読んでおり、周りの誰よりも勉強している自負がありました。カバンには常に数冊の本を入れ、休日には5冊から10冊を読み込む生活を続けていたのです。また、インターン時代から「どうやったらこの会社が成長するか」を真剣に考えていました。だからこそ自分の考えに自信があり、相手が誰であっても会社の成長のための本質的な提案ができたのだと思います。
アーティスト志望から経営者へ 社会の仕組みを変える決意

ーー起業を志した経緯についてお聞かせください。
宮﨑有貴:
ビジネスを通じて社会の仕組み自体を変えたいと考えたからです。実は、経営者ではなくアーティストになりたいと思っていた時期がありました。私自身、家庭環境が複雑だったときに音楽に助けられた経験があり、音楽で人を支える立場になりたいと考えていたのです。しかし、自分の喉があまり強くなく、長期的に歌手として活動するのは厳しいと冷静に判断しました。
親戚に経営者がいたこともあり、ビジネスという選択肢は身近なものでした。歌や言葉で人の心を支えることも素晴らしいですが、ビジネスを通じて社会の仕組みを変えることができれば、悲しい思いをする人を根本から減らすことにつながります。より社会に広く貢献できるのは経営者だという思いに至り、起業を決意しました。
ーー仕組みを変えるアプローチとして、どのような分野に関心を持たれたのでしょうか。
宮﨑有貴:
さまざまな社会問題の根底にある教育です。大学1年の頃から強い関心があり、インターンの際には教育系の企業でも働いていました。私自身が経験してきたことを鑑みても、適切な情報にアクセスして自分で考える力が全員に備われば、世の中はよくなるはずです。仮にそういった能力が足りない人がいたとしても、別のところで教育の効果が出た人が起業し、社会をリードしていけば着実に前進していきます。教育は社会を前進させる原動力になると確信しています。
初心者でも「気軽」に始められる日本人向けのAIスライド作成ツール
ーー現在提供されている「イルシル」とはどのようなサービスでしょうか。
宮﨑有貴:
AIを用いてスライド資料を自動で作成するソフトウェアです。ChatGPTなどの生成AIが広く普及する前から開発を続けており、国内ではいち早く展開したサービスだと自負しています。海外製のAIスライド作成ツールはいくつか存在しますが、日本のビジネス環境で利用しようとすると、日本語の表現に違和感が出たり、海外特有の派手なデザインになってしまったりする課題がありました。
そこで私たちは、日本人がビジネスシーンで使いやすいツールをつくることに焦点を当てました。テキストを入力するだけで、余計な装飾を抑えた、情報の伝わりやすい落ち着いたトーン&マナーのデザインを自動で生成できます。日本の営業資料などに最適な、高品質なスライドを安定して誰でもパパッと作成できる点が大きな特長です。
ーーどのような方に利用されることが多いのですか。
宮﨑有貴:
AIをまだ十分に活用しきれていない方々に、「初めて触る資料作成AI」として導入いただく事例が多いですね。サービスの強みは、手軽に始められて「気軽に使えるAIシステム」である点です。まずは無料で試していただき、実用的だと判断されれば法人向けのプランなど、上位プランへの移行を提案させていただきます。AIに触れてこなかった方々でも、イルシルを使えば普段の実力以上にきれいで伝わる資料を簡単に作成できるのです。特に営業部門の方々からは、「プレゼンで競合に勝つことができました」「資料作成の時間を削減できました」という喜びの声をいただいています。
手厚いサポートで地方中小企業のAI定着を後押しする
ーー今後の事業展開において、特に注力している領域は何ですか。
宮﨑有貴:
新規の取引先開拓です。特に中小企業や地方の企業へのアプローチに力を入れています。現在、大企業向けの市場には海外の巨大なIT企業が参入し、手厚いサポートを展開しています。しかし、中小規模の企業に対しては、そこまでのサポートが行き届いていないのが現状です。AIのシステムは、ただ導入するだけでは使いこなせず、社内に定着しません。だからこそ私たちがしっかりと現場に入り込み、手厚いサポートを提供することが重要だと考えています。
ーー具体的にはどのようなサポートを行っていますか。
宮﨑有貴:
ツールの使い方や導入支援に加え、資料に記載する内容に対する考え方から提案の手順を設計するサポートまで行っています。AIを使ってデザインを整える前の段階である「何を伝えるべきか」という内容部分でつまずく社員は少なくありません。そこを私たちが支援し、場合によっては、他のAIツールの活用も含めた業務の流れ全体を見直す相談役を担います。始めやすく、かつ導入後も伴走して支援できる体制が弊社の最大の強みです。
ーー最後に、今後の展望をお話しいただけますか。
宮﨑有貴:
3年から5年後を目処に、上場を目指すことです。機能の豊富さや資金力で大手企業と直接競うのではありません。AI初心者でも「気軽」に使えて、手厚いサポートで業務に定着させるという独自の立ち位置を確立していきます。日本国内に根差した丁寧な支援を行うAI企業として、お客様からの信頼をしっかりと積み上げていきます。
編集後記
年間200冊という読書量に裏打ちされた自信と、自分が正しいと思ったことや会社の成長に必要なことであれば、相手が社長であっても真っ直ぐに提案する宮﨑社長のポジティブな姿勢が非常に印象的だった。海外大手が台頭する市場において、イルシルがあえて「AIに不慣れな層」に寄り添い、手軽さと手厚いサポートを武器に独自の立ち位置を築いている点に、経営者としての冷静な戦略眼を感じる。誰もが気軽にAIの恩恵を受けられる社会を目指し、中小企業の変革に伴走する同社のさらなる飛躍に期待がふくらむ。

宮﨑有貴/1998年6月24日生まれ。大阪府東大阪市出身。早稲田大学商学部在学中に広告代理店や教育系スタートアップでの長期インターンを経験。広告代理店では入社7ヶ月にして経営幹部に昇格し、新規事業や採用などを担当。その後フリーランスとして活動し、月予算5000万円ほどの広告運用を経験。2021年3月にイルシルの前身となる株式会社ルビスを創業。2024年株式会社イルシルに社名変更。