※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

医療現場のアナログな調整業務をワンストップでデジタル化するスマート手術台帳「OpeOne(オペワン)」を展開する株式会社クオトミー。同社は、事前のスケジュール調整や機材の手配など、従来の電子カルテには残らない「手術前後のプロセス」 を蓄積し、現場の業務効率化のみならず病院の収益向上にも貢献する独自のDX基盤を構築している。医療機関の慣習に合わせた導入しやすい設計を強みに、着実に支持を広げる。同社を率いるのは、整形外科医としてのキャリアから起業の道へと進んだ大谷隼一氏。医療と医療従事者への強い尊敬を抱き、現場のポテンシャルを最大化することを目指す同氏の信念と、国の医療DX推進の波を捉えた今後の展望について話を聞いた。

サンフランシスコで目の当たりにした「生活を変えるインターネット」

ーーまずは、これまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。

大谷隼一:
私は大学卒業後、整形外科医として研鑽を積んでいました。転機となったのは、2015年から2016年にかけてのサンフランシスコへの留学です。当時の日本は、インターネットはインターネットの中に閉じている感覚がありました。しかし現地では、生活に直結する課題がインターネット企業のサービスで劇的に便利になる様子を肌で感じることができたのです。インターネットが生活を変えるダイナミズムを体感し、日本の医療現場も変えられると確信しました。

また、現地の医療現場でも衝撃を受けました。アメリカの手術室は人的リソースが豊富で準備が効率よく回り、医師が手術に集中できる環境が整っている一方で、日本の医療現場は、医療従事者の献身的な長時間労働によって支えられている側面が強くあります。「日本なりのやり方で、この献身的な働き方を支える方法はないだろうか」という思いが帰国後も頭から離れませんでした。

ーーそこから、起業の道を選んだ理由は何でしたか。

大谷隼一:
自分の中に芽生えた「医療現場を良くしたい」という熱量を形にするためには、起業するしかないと考えたのです。留学から帰国すると、だんだんと日々の業務に戻っていく感覚がありました。私は、このままでは熱量を維持できないという強い危機感を覚えました。ビジネスの立ち上げ準備が完璧に整っていたわけではありませんでしたが、この熱量を失わないように、2017年に会社を立ち上げたのです。

現場の若手医師の一言が気づかせてくれた「見えない課題」

ーー起業当初はどのような業務に従事されたのですか。

大谷隼一:
最初は医師向けの専門的なメディアをつくるところから始めました。自分が医師として働く中で、医療従事者が本当にほしいと思えるサービスがないと感じていたからです。そこから数年間は、医師として働きながら試行錯誤を繰り返す日々でした。大きな転機となったのはコロナ禍です。医師同士の知見共有や手術見学ができなくなったため、技術の高い医師の手術動画をウェブで配信し、解説を聞く事業を始めました。

ーー現在の業務効率化の領域にたどり着いた経緯を教えてください。

大谷隼一:
動画配信を見てくれていた若手医師から、思いもよらない現場の実情を聞かされたことが直接的なきっかけです。その医師は、ビデオに出演している熟練の医師と同じ病院で働いていました。私が「普段から直接見学できるじゃないですか」と尋ねたところ「働き方改革の影響で時間がなく、先輩が手術をしている間、自分は救急や病棟患者を診なければならない」と言われたのです。「同じ病院にいても技術の共有ができないんです」とのことでした。

これには大きな衝撃を受けました。医師の働き方改革の影響もあり、日々の業務の情報伝達が、同じ病院内ですら上手く回らなくなっている。昔から、電子カルテはインターネットにつながっておらず、業務調整は対面での会議や紙の伝票、電話などで行われていました。このアナログな環境と外科系医師の働き方改革の相性の悪さに大きな課題を感じました。月に1回の動画配信で成功例を学ぶ以前に毎日困っている現場の業務課題があり、ここに注力すべきだと確信したのです。

医療者のポテンシャルを最大化し、アナログな「川上情報」をデータ化する

ーー改めて、貴社の事業の特徴と強みについて教えてください。

大谷隼一:
弊社ではチーム医療の業務フローをワンストップでデジタル化するスマート手術台帳「OpeOne(オペワン)」を提供しています。最大の強みは、電子カルテ入力前の「川上データ」を蓄積できる点にあります。従来の電子カルテは、チームで調整して決定した結果を記録するシステムです。そのため、入力前の段階には関係者間での煩雑な調整が無数に存在していました。弊社は電子カルテを置き換えるのではなく、その周辺のアナログ業務をデジタル化します。これにより、医療従事者同士の連携がスムーズになります。

また、現場へ真新しいシステムを無理に導入する必要はありません。病院がすでに使い慣れている連絡ツールなどと連携し、これまでの慣習業務に合わせて柔軟に導入できる設計も大きな特徴です。

ーー医療現場の課題解決に注力する根底には、どのような思いがあるのでしょうか。

大谷隼一:
「医療従事者のポテンシャルを最大化し、持続可能な医療をつくる」という強い思いがあります。私は医療と医療従事者を心から尊敬しており、自分なりの形で力になりたいと考えてきました。医療を良くしていくためには、もちろん新薬や新しい医療機器を開発するというアプローチもあります。しかし、現場を知っているからこそ、最前線に立つ方々を「支える側」に回るのが自分の役割だと考えています。

医師には、医師にしかできない中核業務に専念してほしい。私たちのサービスで、少しの不便や無駄な時間を取り除くことができればと考えています。結果的に良いサイクルが回り、より多くの患者さんを救うことにつながると信じています。

データ活用で業務効率化から病院の収益向上へ貢献

ーー今後の展望についてお聞かせいただけますか。

大谷隼一:
これからは現場の外科系医師向けの業務効率化にとどまらず、病院経営の「収益向上」に直結するサービスへと進化させていきたいと考えています。私たちがアナログにしかなかった業務データを蓄積することで、システムが自動で情報を見つけ出せるようになります。たとえば「特定の条件を満たせばより高い診療報酬を算定できる」といった手術加算の算定情報です。コスト削減だけでなく、収益向上という結果を病院にもたらすことができる画期的なサービスです。

ーー医療DXの推進も追い風でしょうか。

大谷隼一:
現在、国は働き方改革や情報共有基盤の構築を強力に推進しています。オンプレミス型のシステムから、クラウドネイティブな医療情報基盤への移行を推し進めようとしており、私たちにとって非常に大きな追い風だといえるでしょう。私たちが目指すのは、すべてを自社で囲い込むことではなく、業務効率化の「基盤」になることです。私たちがデジタル化する医療従事者の業務DXが入り口となり、他のさまざまなサービスと連携することで、より深い価値を現場に届けます。今後も現場志向を大切にしながら、志をともにするパートナー企業とともに、医療業界の課題解決に挑み続けます。

編集後記

留学先で目にしたテクノロジーの力と、日本の医療現場が抱える課題。そのギャップを埋めるため、自らメスを置いて起業という道を選んだ大谷社長。その決断には、医療従事者に対する深い尊敬が根底にある。動画配信事業での若手医師との何気ない対話から「アナログな調整業務」という真の課題を見抜いた。事業を転換させた現場至上主義の姿勢こそが同社の成長の原動力である。蓄積したデータを駆使し、病院の収益向上にまで踏み込むクオトミーの挑戦。日本のチーム医療をどう変えていくのか。その基盤づくりの行方に期待がかかる。

大谷隼一/2006年、名古屋市立大学医学部卒業。東京大学整形外科学教室に入局し、関連病院で研鑽を積む。2015年に米国留学した際のサンフランシスコ生活で、プロダクトにより生活が豊かになる体験に衝撃を受ける。帰国後に医療者向けのプロダクトづくりをすることで医療への貢献ができないかと一念発起し、2017年に株式会社クオトミーを創業。複数プロダクトを立ち上げてはピボットし、現在のサービス「OpeOne(オペワン)」に至る。