
「人生の折り返し地点を過ぎて、残りの半分はどう生きるか。そう考えたとき、人や社会を支える事業をやりたいと思った」。株式会社NEXT ONEを率いる斉藤徹氏は、2021年の電力市場価格の高騰により、1ヶ月で8.5億円の損失を出し倒産の危機に直面した。しかし、周囲の支えと迅速な経営判断により、わずか11ヶ月で債務超過を解消してV字回復を成し遂げている。その同氏が現在情熱を注ぐのが「障害者雇用支援事業」だ。なぜ農業と福祉を掛け合わせた新たなビジネスに挑むのか。絶望の淵から這い上がった経営者の、人や社会に対する熱い思いに迫る。
誰かの喜びを原動力に24歳で起業 倒産危機で知った「会社は一人では守れない」事実
ーー社会人としてのキャリアは、どのようにスタートされたのですか。
斉藤徹:
私の父は北海道の酪農家に4人兄弟の3番目として生まれ、家庭の経済的な事情から大学へは進学せず消防士として3年間働いて学費を貯めた後、進学のために上京した苦労人でした。そんな父のもと、私は3人兄弟の末っ子として育ちました。高校卒業後、進路に迷いながらも大学へは進学せず、外資系の営業会社に入社したのが社会人としてのスタートです。
飛び込み営業の世界で、「取れるのも取れないのも自己責任」という厳しい環境でした。辞めたいと思ったこともありましたが、結果を出せば喜んでくれる人がいるということが、私の大きな原動力になりました。
営業成績を積み重ね、22歳で札幌支店の立ち上げに携わり、支店長を経験しました。その短期間で経営のノウハウを身につけて大きく成長できたことに自分自身が一番驚き、この会社を通じてより多くの人に成長の機会を提供したいと思うようになったのです。24歳で起業を決意しました。2006年に北海道札幌市で創業し、その後2008年に上京して通信事業やウォーターサーバー事業を中心に拡大していきました。
ーー起業後の最大の転機について教えてください。
斉藤徹:
順調に事業を拡大する中、2019年から自社の新電力事業をスタートさせました。しかし最大の転機となったのは、2021年に電力卸売市場の価格が高騰し、わずか1ヶ月で8.5億円の損失を出し、3.5億円の債務超過に陥ってしまったことです。原因は、電力の仕入れを価格変動のある市場調達に依存していたためでした。
これまでの蓄積がマイナスに転じ、精神的にも深く追い込まれました。しかし、絶望の淵にいた私を「絶対に会社を潰したくない」と一緒に泣いてくれる社員や、辞めずに残る役員たちが温かく支えてくれました。彼らのために逃げるわけにはいかないと奮い立ったのです。
ーーその絶望的な状況から、どのようにして立て直しを図ったのでしょうか。
斉藤徹:
まず、既存の通信事業などへ人員を戻し、足元のキャッシュ創出に集中しました。同時に銀行から資金調達を行い、電力の仕入れについても市場連動から価格を固定する「相対契約」へと切り替え、価格変動リスクを抑えました。
その直後にウクライナ危機が起こり市場が再高騰しましたが、仕入れ価格を固定したことで安定した供給体制を維持でき、結果的にわずか11ヶ月で債務超過を解消し、大きなV字回復を果たしました。あの経験は、「会社は一人では守れない」ということを私に教えてくれた出来事でした。
単なるコストではない「価値を生む仕組み」へ 農業×福祉で目指す社会循環

ーーV字回復を果たした後、なぜ「障害者雇用支援事業」へと舵を切ったのですか。
斉藤徹:
経営危機の中で多くの人に支えられた経験から、人生の後半戦は社会や人を支える事業を行いたいと強く決意したからです。
日本は手帳を持つ障害者の方の数が増加している一方で、彼らに任せられる仕事が見つからないという課題があります。企業側も法定雇用率の達成に悩み、未達成の場合には納付金を支払うなどの対応を課される厳しい現実があります。そこで私たちは、誰もが当たり前に働き、自分の役割を持てる社会をつくりたいと考え、農業と福祉を掛け合わせた事業を始めたのです。
ーーその実現に向けて展開している事業の具体例を聞かせてください。
斉藤徹:
現在は「障害者雇用めぐるファーム」という、スマート農園型の障害者雇用支援事業を展開しています。法定雇用率の達成に悩む企業を支援すると同時に、障害のある方々に働く機会と居場所を提供しています。
私たちが目指しているのは、単なる雇用率達成のための作業の提供ではありません。働く方々が成長し、農業を通じてしっかりと収穫という成果を生み出して社会へと価値を還元できる仕組みをつくることです。福祉を単なるコストとして捉えるのではなく、生産性を生み出し、社会に循環させる仕組みにしていきたいと考えています。
損得を超えた「人としての筋」 関わる人の人生により良い安定をもたらす
ーーこの仕組みによって働く方々にはどのような変化が起きていますか。
斉藤徹:
私たちが目指しているのは、働く方々が自ら収入を得て、社会の一員として自立していくことです。そのために、24時間温度管理されたビニールハウスなど、天候に左右されず安定して働ける環境づくりに先行投資しています。
私たちは天候に関わらず「収穫」という生産性を生むことを目的としています。天候に左右されない環境が整うことで仕事に集中でき、毎日の生活リズムの安定や、働く誇りとやりがいにつながっています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
斉藤徹:
将来的には農業だけでなく、伝統工芸など日本が抱えるさまざまな社会課題の解決にもつなげ、5年後には1万人の方の雇用のお手伝いをしたいと考えています。
私自身、決して一人でここまで来たわけではありません。多くの方々に支えられたからこそ今があります。だからこそ、これからはNEXT ONEに関わる人たちの人生が少しでも良い方向に変わるような事業をつくっていきたいと考えています。これからも損得だけではなく、人としての筋を大切にしながら、誰もが自分らしく生きられる社会づくりに貢献していきます。
編集後記
絶望的な危機を乗り越えた斉藤氏の言葉には、関わるすべての人への深い感謝が満ちていた。福祉を単なるコストや法定雇用率の穴埋めと捉えず、ビジネスの仕組みを用いて生産性を生み出す同社の取り組みは、現代の社会課題に対する一つの明確な答えである。損得を超えて人間としての本質を重んじる同氏の信念が、これからも多くの人の人生を豊かな方向へと導いていくのだろう。誰もが当たり前に働き、自立できる社会を目指す同社のこれからの歩みに、大きな期待を寄せたい。

斉藤徹/1982年、千葉県生まれ。高校卒業後、外資系営業会社に入社し、最年少で札幌支店を立ち上げる。2006年12月、24歳で株式会社NEXT ONEを創業。電力市場価格の高騰による8.5億円の損失を乗り越えた経験をもとに、現在は障害者雇用支援事業にも取り組む。