
食品メーカーや外食産業に向け、多種多様な農作物の加工品や食品原料を供給している株式会社メトロ。創業者である父の背中を見て育ち、大手食品メーカーでの経験を経て家業へ飛び込んだ代表取締役社長の松原孝慈氏は、かつて「売上高と給料さえ上げれば社員はついてくる」と思い込み、組織崩壊の危機に直面したという。いかにして社員との信頼関係を再構築し、要望に「ノー」と言わない強靭な組織をつくり上げたのか。盛和塾での学びを起点とした組織改革から、新商品開発を見据える今後の取り組みまで、松原氏の思いに迫る。
母の強い言葉に背中を押され家業の道へ
ーー家業へ入社されるまでのご経歴を教えていただけますか。
松原孝慈:
大学卒業後は、日清製粉株式会社に入社しました。父の背中を見て育ったことも影響して、私自身も食品に興味があったためです。入社後は食品部へ配属され、スーパーマーケットなどに製品を販売する営業として働いており、当時は「自分が必ず家業を継ぐんだ」といった意識は全く持っていませんでした。
ーーその後、家業へ入る決断をした理由は何ですか。
松原孝慈:
入社の決め手となったのは、実家に帰った際の母からの言葉です。前職の会社で12年ほど働いた頃、父が高齢になってきたこともあり、母から「いつまでお父さんに一人で仕事をさせておくの」と詰め寄られました。さらに「お父さんの稼ぎで育ててもらったのでしょう」「お父さんの会社を後から引き継ぐのはあなたの責任ですよ」と言われたのです。父からは「私の会社に入れ」とは一度も言われませんでした。しかし、母の思いに触れて悩んだ末、覚悟を決めて2003年に入社しました。
かつての私を変えた「盛和塾」での気づき
ーー経営に携わる中で特に苦労した点についてお聞かせください。
松原孝慈:
最も苦労したのは、社員との関係性の構築です。私は前職で営業成績によって評価される環境にいました。そこでの経験から「売上高を立てて会社の利益を出し、社員の給料を増やせば、みんな頑張って働くだろう」と本気で思い、自ら外に営業へ出向いて、利益を還元しようと努めました。しかしその思いとは裏腹に、社員は一向に喜ばず辞めていく人もいたのです。
そんな壁にぶつかっていたときに出会ったのが「盛和塾」でした。そこで稲盛和夫さんから「利他の心」や、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という方程式を教わりました。私に決定的に欠けていたものに気づかされたのです。当時の私は前職で成績を出してきた勢いもあり、謙虚さが不足していました。良い考え方を持ち、謙虚にして驕らず、社員とコミュニケーションを取る。この学びが、私にとって最大のターニングポイントになりました。
ーー社内ではどのようなコミュニケーションを心がけていますか。
松原孝慈:
風通しを良くするため、月1回は社員全員で食事をしたり、率直に話し合える親睦会を開いたり、1対1で話す時間を設けています。ここで特に意識しているのは、「評価の目線をずらさない」ことです。たとえば、社員自身が「自分はAランクだ」と思っているのに、私が「Bランクだ」と評価してしまうと、どうしても認識のギャップが生じてしまいます。そのため、事前に目標シートを使って自己評価をお願いし、それに基づいて私からの評価や期待を直接伝えて、お互いの考えをすり合わせるようにしています。
顧客の要望に「ノー」と言わない実現へ向けて行動する力

ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか。
松原孝慈:
一番の強みは、お客様が実現したい要望に対し、安易に「できない」と言わず行動する力です。たとえば、調達が難しい原材料であっても、長期にわたって供給できるルートを組み立てて提供します。また、お客様に販売する農作物は必ず現地に足を運んで確認するなど、徹底した行動力も私たちの強みです。父の代から続く「まずはどうやったらできるかを考えろ」という姿勢が、今の社員にもしっかりと引き継がれています。
ーー社会からどのような存在として、今後認知されたいですか。
松原孝慈:
食に携わる企業として、食に関する課題や問題が生じたときに、真摯に向き合い解決を目指す会社だと認知されたいですね。現在、農業の現場では高齢化や後継者不足が進んでおり、非常に厳しい状況に直面しています。そうした生産現場の負担を少しでも減らし、日本でつくられた美味しい農作物を後世の子どもたちに残していくことも、私たちの重要な使命です。自社のビジョンからぶれることなく、「美味しい」「欠かせない」と言われる食品原料を確実にお届けしていく。そして、私たちが提供した原料による製品を通じて、「美味しかったね」「また買いたいね」と世の中の皆様に喜んでいただける存在を目指します。
ーー今後の展望や挑戦したいことについてお聞かせください。
松原孝慈:
お客様の要望を待つだけでなく、「メトロとしておすすめします」と胸を張って提案できる原料をつくることです。これまで私たちは、お客様のニーズに応えるための原料を調達・開発し、提供することに注力してきました。しかし、今後会社がさらに伸びていくためには、自社発信の取り組みが不可欠です。
現状、自社の独自商品と呼べるものはまだありません。ですが、「メトロといえばこの原料だよね」と業界内で言っていただけるような、独自の強みを持つ原料を開発します。「これをつくりたいならメトロに頼むしかない」と皆様から頼られるような原料を、今後1つでも生み出していきたいです。
編集後記
自らの失敗やかつての独りよがりな思考を率直に振り返り、真摯に組織と向き合う松原氏の姿勢が深く印象に残った。盛和塾での学びを胸に、社員一人ひとりと向き合う地道な対話の積み重ねが、現在の強固な信頼関係を生み出しているのだろう。社内の目線を合わせ、チームとして顧客の期待に応え続ける同社だからこそ、不可能を可能にする提案力が発揮されている。受け身の枠を越え、「メトロの代名詞」となる新たな商品開発へと挑む同社の飛躍に期待したい。

松原孝慈/1969年5月神奈川県生まれ。慶応大学経済学部卒、日清製粉株式会社に入社し12年間の勤務を経て2003年に株式会社メトロに入社。2012年に同社代表取締役社長に就任。日本の農業の活性化に取り組んでいる。