※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

運送・倉庫事業を幅広く展開し、地域の物流を支える実勝運輸有限会社。3代目として会社を率いる代表取締役の小川晋悟氏は、20代で家業に戻り、徹底して「現場」と「人」に向き合ってきた。現在でも繁忙期には自らトラックのハンドルを握るなど現場を知り尽くすからこそ、「会社の規模よりも、現場を支える社員とその家族の幸せが第一」と断言する。顧客から「一番の相談相手」として選ばれる理由や、強固な組織づくりの秘訣に迫る。

大手での経験が原点「自分で考え全員で現場を終わらせる」

ーーまずは、家業に入られるまでのご経歴をお聞かせいただけますか。

小川晋悟:
高校卒業後、自動車製造や建設業界などを経験しました。その後、20歳で祖父と縁のあった日本通運へ入社し、そこで3年間勤務した後に家業へ戻っています。日本通運では「自分の責任で動くこと」と「チーム全体で仕事を終える姿勢」を学びました。入社当初から一つの持ち場を任され、わからないことも自ら考えて行動するよう教え込まれましたね。

また、同社は担当領域の広い職場でしたが、自分の作業が早く終われば他者を助け、最後は全員が同じ時間に帰る協力体制があります。誰か一人に無理をさせず、全員で現場を終わらせる考え方は、現在の経営の基盤となっています。

自ら責任を負う覚悟 徹底した「人」への思い

ーー家業に戻られてから社長に就任されるまでの経緯をお聞かせください。

小川晋悟:
ドライバーとして現場を回った後、取締役に就任してからは現場の責任を自ら引き受けました。当時は問題発生時の報告書などに、社長である父親の名前を使わずにあえて私の印鑑のみで提出していました。対外的に私が全責任を負う覚悟を示したかったのです。そうした姿勢で業務を続けるうち、顧客から父親へ「そろそろ代わってはどうか」と後押しをしていただき、2015年に社長へ就任しました。

ーー経営者として最も大切にしている信念は何ですか。

小川晋悟:
「人がすべて」という信念です。社員や顧客を含め、先代のころから「人」を最も大切にしてきました。私自身に特別な能力があるわけではなく、周囲の助けがあってこそ今があります。そのため、例えば全営業所に疲労回復のための酸素カプセルを導入するなど、働きやすさを重視した環境づくりに投資しています。そのおかげか、うちには10年、20年、30年と長く会社を支えてくれるメンバーが圧倒的に多くいます。そうやって長く働いてくれる社員の存在こそが、何より弊社の誇りですね。

「NOと言わない」精神と現場の高い実績が強み

ーーお客様から長く選ばれ続けている理由をどのように分析されていますか。

小川晋悟:
運送と倉庫の両面を担える幅広い対応力と、創業時から受け継がれるNOと言わない姿勢が最大の理由だと考えています。昔、会社を立ち上げた祖父、父、母、そして私の4人で、一言目に「NOという言葉を絶対に使わない」という固い約束を交わしました。どんなに車が足りない繁忙期や厳しいご依頼であっても、まずはどうすれば実現できるかを徹底的に模索し、難しい場合も代替案を考えています。お客様にとって一番の相談相手になることを目指し続けたのです。

その結果、あそこに相談すれば何とかしてくれるという確かな信用が生まれ、中国地方でトップクラスの規模にまで成長することができました。現在でもその精神は管理職や現場に根付いており、常にお客様の役に立つ方法から考えるスタンスが、長年にわたる強固な関係性へと繋がっています。

ーー現場の乗務員が高く評価されている理由は何だとお考えですか。

小川晋悟:
弊社の最大の強みである、社員同士の緊密な情報連携があるからです。新しいお客様や未経験の現場に入る際、最初に担当した乗務員が、ただ荷物を運ぶだけでなく、「ここにある段差に注意」「好まれる言葉遣い」といった、現場に行かなければ分からない目に見えない重要事項を必ず見つけ出してくれます。その気づきを運行管理の担当者を介して全員で共有し、次に引き継ぐため、二番目以降に入る人間も最初から最高のパフォーマンスを発揮できるのです。

また、祖父から「運送業の組織は逆ピラミッドであり社長が一番下だ」と教えられてきたため、私は現場の人間を何よりもリスペクトしています。不注意による事故を除き、業務上の失敗で乗務員を怒ったことは社長就任以来一度もありません。現場が安心して仕事に集中できる環境こそが、高い実績の土台になっています。

売上高よりも「社員の幸せ」を 家族のような温かい組織へ

ーー今後の会社の展望についてお聞かせいただけますか。

小川晋悟:
売上高の拡大や会社の規模を追求することよりも、社員とその家族の幸せを最優先に守り抜くことです。私自身が偉くなりたいわけでも、会社をむやみに大きくしたいわけでもありません。働いている乗務員や管理職、そして彼らを支えるご家族に「この会社で働いて本当によかった」と心から思ってもらえる人生を送ってもらうこと。それが私のすべてです。

そのために、全営業所に打ち合わせでも使える酸素カプセルを導入するなど、社員からこれがしたいと提案された福利厚生やアイデアには極力応えています。また、社内であっても全社員がお客様や取引先様を絶対に呼び捨てにしないなど、社内外問わず、互いを尊重し合う文化が自然と受け継がれています。会社が社員にとって居心地の良い憩いの場所であり続けるよう、これからも心を尽くしていきます。

ーー最後に、採用活動や今後の事業展開への思いを教えてください。

小川晋悟:
社員の幸せを大前提としながらも、企業の勢いを止めないために、来年以降も新しい営業所を開設し、積極的な人材募集を継続していきます。運送業界は人の入れ替わりが激しいと言われますが、弊社にはベテラン社員が数多く在籍しています。彼らが居心地が良いと感じてくれる今の環境を大切に守りつつ、新たな仲間を迎え入れていきたいと考えています。

また近年は、「職親プロジェクト」などの社会貢献活動にも強い関心を持っています。どのような過去を持つ方であっても、ご縁があって入社してくれたからには家族と同じです。互いに寄り添い、一緒に悩みながら前を向ける、温かい会社であり続けたいと願っています。

編集後記

利益や規模の拡大が優先されがちな現代において、「社員の幸せが第一」と断言する小川氏の言葉には確かな熱量と優しさが込められていた。自ら現場で汗を流し、全責任を背負って顧客と向き合ってきたからこそ、「人がすべて」という理念が単なる標語に留まらず、社内文化として深く根付いている。相手を尊重する姿勢と、社員同士の助け合いが生み出す質の高いサービス。家族のような温かさを持つ同社が、これから先も地域や社会にどのような価値を届けていくのか、今後の飛躍が楽しみだ。

小川晋悟/1978年広島県生まれ、2015年代表取締役に就任。