
小学生の頃からの「社長になる」という夢を叶え、大学1年のときに起業した株式会社和心の代表取締役、森智宏氏。和柄アクセサリーから始まり、全国の観光地で専門店を展開するまで事業を拡大させた。しかし、念願の上場を果たした直後、同社はコロナ禍に見舞われ倒産の危機に直面する。その後、極限のコスト削減と商品の磨き上げを行い、コロナ前をしのぐV字回復を成し遂げた。模倣困難性の追求とAI活用による効率化、そしてプライム上場への挑戦について、森氏に独自の生存戦略を聞いた。
「格好より中身」プライドを捨てて掴んだ急拡大のターニングポイント
ーーまずは、起業の経緯を教えていただけますか。
森智宏:
原点は、小学校の卒業アルバムに「大きくなったら社長になりたい」と書いたことにあります。当時、親戚が食品の製造業を営んでおり、その影響から製造小売業に強い関心を持っていました。実際に起業したのは大学1年のときで、高校の同級生と個人事業を立ち上げたのが、現在の事業の前身にあたります。当時、ある先輩から「好きで得意で、求められていることをやれ」と助言を受け、自身の好む和柄のシルバーアクセサリー制作を始めたのです。そこから派生し、かんざしや傘といった現在の商材へ至りました。
ーー事業を拡大させていく中で、ターニングポイントとなった出来事は何ですか。
森智宏:
大きく二つあります。
一つは、BtoB事業において、取引業界をファッションからアニメ・ゲーム(オタクカルチャー)へと大きく舵を切ったことです。きっかけは、ファッションショーの現場へクライアントの納品に訪れた際、隣の会場で開催されていた大規模な同人誌即売会を目にしたことでした。そこには、当時のファッション業界の常識を遥かに凌駕する熱量と、数え切れないほどの人たちが集まっていたのです。「これからはこの市場の時代だ」と直感し、アパレル業界の下請けから、アニメやゲームのグッズ制作といったオタク市場のBtoBビジネスへとドメインを転換しました。
もう一つは、BtoC事業の立ち位置を「ファッションの店」から「お土産の店」へ変えたことです。当初はファッションとして日本のカルチャーを広める意気込みでした。しかし、現場の販売員から「海外のお客様がみんなお土産として買っていかれる」と報告を受けました。結果として、顧客のニーズに振り切った方が需要に応えられると判断したのです。当時はアパレルに対するプライドもありましたが、それを捨てて「格好より中身」を取りにいきました。この2つの決断こそが、その後の100店舗以上の拡大、そして上場へとつながる最大のターニングポイントとなりました。
上場直後のコロナショック 極限のコスト削減と「刀を磨く」日々
ーーコロナ禍の際、貴社はどのような状況でしたか。
森智宏:
それまで25年間、ずっと右肩上がりで増収を続け、上場も果たして勢いに乗っていたのですが、一転して会社の存続が危ぶまれるほどの危機的状況に陥りました。緊急事態宣言などで外出自粛となった当初、月3億円を見込んでいた売上高が、なんとわずか300万円にとどまり、前年比0.9%という数字だったのです。当時は100店舗以上を展開し、従業員も約650人在籍していたため、毎月数千万円単位の家賃と人件費が発生し、すさまじい打撃を受けたのです。
結果として、その年だけで営業利益は10億円の赤字となりました。好立地に多く出店していたため、退店手続きにも時間を要し、赤字が続く状態でした。上場による調達資金はありましたが、一歩間違えれば倒産しかねない状況だったのです。
ーーそこからどのようにして現在のV字回復へとつなげたのですか。
森智宏:
上場企業として株式を発行し、市場などから資金調達できたことが大きな要因です。それと同時に経費を抜本的に見直し、固定費の削減を徹底的に推し進めました。インバウンド需要が回復するまで耐え忍ぶ期間は、商品や店舗づくりの再構築にあてており、ひたすら「刀を磨き続ける」思いで取り組みました。無駄を極限まで削ぎ落とした状態でアフターコロナを迎えたことにより、残った店舗で力強いスタートを切ることができたのです。
現在、店舗数はコロナ前の約40%に減少しているものの、全店の売上高は当時の220%、利益は4倍ほどの成長を遂げています。あの厳しい環境を乗り越えたからこそ、次の危機にも耐えうる経営体制を構築でき、資産効率の高い筋肉質な組織へと生まれ変わる結果となりました。
「外国人に売れる」は禁句 圧倒的な専門性が生む「模倣困難なビジネス」

ーー高い利益率を生み出す貴社の強みを教えてください。
森智宏:
私たちの強みは「高い資産効率」「高い売上高営業利益率」、そして「模倣困難性」の3点です。投資した資本の回収が早く、現在ROA(総資産利益率)は40%に達しています。そして最も重要なのが、他社に真似されない模倣困難性です。どれほど優れたビジネスモデルでも、すぐに模倣されては意味がありません。
たとえば、自社のかんざし専門店には1800種類、合計1万本ものオリジナル商品を並べています。傘に関しても、独自の製品をつくるため工場と20万本単位で契約を結んでいるのです。好立地において、これほどニッチな商材を圧倒的な規模で展開し続ける。長年蓄積してきたこの徹底した規模と専門性の追求こそが、強固な壁となります。これが他社には容易に踏み込めない長期的な競争優位性を生み出しています。
ーー商品開発において、特にこだわっている点は何ですか。
森智宏:
最大のこだわりは「日本人が本当に良いと思う商品をつくること」です。社内では「外国人が好むから、この程度でいい」という妥協を禁句にしています。インバウンド需要を狙った安直な商品をつくっても、お客様には選ばれません。自身が海外旅行へ行った際を想像してみてください。観光客向けの言語が書かれた飲食店よりも、地元の人が通う美味しい店に行きたいはずです。それと同じで「日本人が本当に良いと思う商品を開発し、それをインバウンド需要の高い場所で提供する」という姿勢を大切にしています。
AIによる徹底した自動化とプライム市場への挑戦
ーー今後のビジョンを教えてください。
森智宏:
2028年の決算をもって、プライム市場への上場を必ず実現させます。さらに、2034年には時価総額1000億円を目指すという目標を掲げています。その達成のため、既存事業の店舗展開を加速させる方針です。同時に、事業シナジーが見込まれる食品関連企業などのM&Aも積極的に進めていきます。特に「ご飯のお供」や調味料を扱う企業などを想定しています。
ーー組織の拡大に向けてどのような体制づくりを進められていますか。
森智宏:
AIとデジタル技術を徹底的に活用し、業務の効率化を推進しています。すでに商品の発注業務は自動化を完了しました。さらに、商品の包装案や店舗改装のアイデア出しにもAIを活用しています。その結果、本部の人員を抑えながらも、以前より高い売上高と利益を生み出せる組織へと進化しました。店舗運営においても、特別なスキルを持つ店長に依存しない仕組みを構築しています。アルバイトスタッフのみで円滑に運営できる仕組みです。
今後私たちが求めているのは、こうした自動化の仕組みをさらに進化させ、事業拡大を牽引できる人材です。AIやDXツールを使いこなし、一人当たりの生産性を高めながら店舗開発やスーパーバイザーといった高度な業務を推進できる、論理的思考力を持った方を必要としています。無駄を削ぎ落とした筋肉質な経営基盤と、最新テクノロジーを融合させることで、次なる飛躍であるプライム上場と時価総額1000億円というステージへ向かって、組織一丸となって突き進んでいきます。
編集後記
コロナ禍という未曾有の危機に見舞われながらも、それを契機として極限まで組織を筋肉質に磨き上げた森氏。伝統文化という一見アナログな商材を扱いながら、その裏側には徹底したAI活用と論理的な経営戦略が張り巡らされている。「海外層に好まれるから」といった安易な思考を排除し、他社には真似できない本質的な価値を追求し続ける姿勢が強く印象に残った。プライム市場への上場、そして時価総額1000億円という大きな目標に向かって突き進む同社のさらなる飛躍に期待したい。

森智宏/1978年東京都足立区生まれ。國學院高校・大学時代に18歳で学生起業。39歳で東証マザーズ(現・東証グロース市場)に上場。コロナ禍で22億円以上の累積赤字・債務超過に陥るも、2025年に売上高27億円・営業利益5.6億円で復活を遂げる。現在は全国の観光地で和小物などの土産屋41店舗(26年7月現在)のほか、アニメ・ゲームMD事業、サウナ&バケーション事業などを展開し、全事業部を黒字運営している。