
インターネット証券の黎明期から金融サービスの変革を見続けてきたLINE証券株式会社の代表取締役 CEO、正木美雪氏。かつては富裕層を中心に利用されることの多かった証券サービスが、ITの力で誰もが手軽に取引できるものへと変わる瞬間に立ち会い、「情報格差をなくして皆様の人生の選択肢を広げたい」という信念を抱いた。その後、大規模な顧客基盤を持つIT企業で金融事業の立ち上げを経て、現在は「投資をもっと身近に、もっと手軽に」というミッションを掲げるLINE証券を率いている。変化の激しい時代において「自分が一番正しいとは思っていない」と語り、チームの力を引き出す同氏。これからの証券サービスのあり方と、組織づくりの考え方に迫った。
富裕層から大衆へ「金融の民主化」を確信した原体験
ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせいただけますか。
正木美雪:
私の原点は、インターネット証券の黎明期に取引システムの立ち上げを支えたITベンチャー企業にあります。入社後約5年間、開発の現場でさまざまな業務に携わりました。当時の証券サービスは、一部の富裕層に向けたものが中心でしたが、インターネットとの融合によって、状況は一変します。インターネットの力によって、誰もが手軽に取引に参加できる環境が整い、投資がより多くの人に開かれていく過程を、私は最前線で目の当たりにしました。
ーーその経験は、現在の考え方にどのような影響がありましたか。
正木美雪:
「情報の格差をなくし、より多くの人の選択肢を広げたい」という現在の思いに直結しています。インターネットの力で産業そのものが変わる姿を見た私は、金融に難しさを感じている方々の情報格差を解消できるのではないかと思うようになりました。「誰もが投資で資産を増やせるようになれば、人生の選択肢はもっと広がるはず」。そうした機会を事業としてつくり出せたことが、今も私の一貫した行動原理として息づいています。
ーーその後は、どのようなキャリアを歩みましたか。
正木美雪:
より多くの方へサービスを届けたいという強い思いから、2006年にヤフーへ転職しました。ヤフーが金融事業へ本格参入すると発表したタイミングでした。すでに大規模な顧客基盤を持つ企業であったため、ここなら「人々の人生の選択肢を広げる」という目標をより大きなスケールで実現できると考えたのです。入社後は、スタート直後の金融商品仲介の企画を担当し、その後も金融情報メディアの立ち上げや、保険、クレジットカード事業などを経験しました。役員に就任するまで、多岐にわたる金融事業の最前線に立ち続けました。
大規模な顧客基盤で描く「投資をもっと身近にもっと手軽に」

ーー貴社の代表に就任された経緯をお聞かせください。
正木美雪:
2020年に社外取締役として参画したことがきっかけです。2018年に設立されたLINE証券は、翌年からサービスを開始していました。私は社外取締役を経た後、2021年から代表を務めています。就任にあたっては、その役割の大きさを改めて実感しました。LINEは日常的に多くの方が利用する通信アプリです。だからこそ、単に便利な機能を提供するだけではなく、お客様の暮らしを直接的に豊かにする価値につなげていきたいと考えました。
ーー貴社が掲げるミッションについて教えてください。
正木美雪:
「投資をもっと身近に、もっと手軽に」というミッションを掲げています。これは、私が業界に入った頃から抱き続けてきた思いそのものです。「投資を通じて資産形成が進み、人々の人生の選択肢が広がる機会をITの力でつくり続けたい」と願い続けてきた私にとって、LINE証券の事業はまさに長年の目標が実現できる場所です。私自身、日々の業務に大きなやりがいを感じながら事業に向き合っています。
ーー貴社ならではの強みはどこにあるとお考えですか。
正木美雪:
お客様が取引の「タイミング」を逃さない仕組みが最大の強みです。常に動き続ける市場に対し、私たちは日常的に使う通信アプリを通じて、相場の急変動や経済指標の通知をダイレクトにお届けしています。そして、そこからワンタップで取引画面へアクセスできる設計にこだわりました。さらに、初心者の方でも迷わず操作できるシンプルな画面設計でありながら、上級者の方にもご満足いただける高度な分析機能も備えており、この「使いやすさと機能性の両立」こそが、私たちの強みだと思っています。
ユーザー目線を貫きチームで正解を導き出すフラットな組織
ーー新しいサービスをつくる際や、経営において大切にしている判断の軸は何ですか。
正木美雪:
常に「お客様の視点」に立ち戻ることです。事業を進める過程では、幾度となく困難や迷いに直面します。そうした試行錯誤のたびに、「本当にお客様のためになるか」という原点を確認するようにしています。具体的には、定期的なアンケートでお客様の声を直接収集し、その結果をもとに機能改善を議論する場を社内に設けています。直近では、そうしたユーザーの声にお応えする形で26年3月にCFDを再開いたしました。おかげさまで、大変ご好評をいただいています。インターネット上では直接対面できないからこそ、一つひとつの声に真摯に向き合い、信頼関係を築くことを全社で大切にしています。
ーー組織づくりや、働くメンバーに対してはどのような思いをお持ちでしょうか。
正木美雪:
どのような事業においても最も重要なのは「人」の力だと考えています。仕事は決して一人で成し遂げられるものではなく、チームで力を合わせることが欠かせません。そのためには、まず働くメンバー同士の信頼関係を築くことが大前提です。その上で、事業目標に向かってともに進む組織風土をつくることが不可欠であり、私自身も会社全体としても、そうした環境づくりに最も力を注いでいます。
ーーチームをまとめる際に大切にしているスタンスを教えてください。
正木美雪:
現場の意見を集め、全員で最適な選択を導き出すスタイルを大切にしています。トップダウンで組織を引っ張る方法もありますが、私は「自分が一番正しい」とは思っていないので、意見を押し付けるのではなく、メンバーの声を丁寧に集め、その中から最善の選択肢を導き出すようにしています。今のように変化の速い時代には、この進め方が合っていると思いますし、実際、社内では若手社員からも積極的に意見が上がります。弊社では現場からの提案をもとに議論を重ね、サービスを前に進めていく風土が定着しています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。
正木美雪:
投資に踏み出せない方々の、身近な「伴走者」であり続けることです。新しい制度も始まり、投資への入り口は広がりつつありますが、一方でまだ難しさを感じる方が多いのも事実です。変化の激しい現代において、投資による資産形成は、ご自身の選択肢を増やす重要な手段となります。だからこそ、私たちはその一歩を後押ししたい。今後も、お客様の資産形成に寄り添うサービスを継続して展開していく決意です。
編集後記
インターネット証券の誕生という業界の転換期を肌で感じ、「金融の民主化」という信念を長年貫いてきた正木氏。その言葉からは、投資を万人のものへと拡大したいという静かな熱意が伝わってきた。大規模な通信インフラを事業の基盤としながらも、「自分が一番正しいとは思っていない」と語る等身大の姿勢。これこそが、常にお客様に寄り添うサービスを生み出す源泉なのだろう。ITの力で人々の選択肢を広げ続けるLINE証券株式会社。そのさらなる進化に、今後も注目していきたい。

正木美雪/金融ITベンチャーにて事業開発に従事したのち、2006年、ヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)に入社。金融商品仲介、FX、クレジットカード、保険など、幅広く金融事業に従事。2013年にグループ会社ワイジェイFX株式会社(現・GMO外貨株式会社)の取締役に就任。2017年、スタートアップに移り、CEOなどを歴任。2020年、LINE株式会社(現LINEヤフー株式会社)に入社。2021年10月からLINE証券株式会社の代表取締役CEOに就任。