※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

「自分がつくっているものは、昔から変わらない。すべては『インターフェース』なんです」。そう話す阿部淳也氏は、自動車メーカーでコックピットのユーザーインターフェースエンジニアとしてキャリアをスタートした。その後、企業のコミュニケーション戦略を設計する株式会社ワンパクを創業。同社を率いる阿部氏は、前職で消費される広告クリエイティブの世界に疑問を抱いたという。自分たちのクリエイティビティを活かし、顧客のビジネスを中長期的に育てるべく会社を起こし、現在は「100%直接取引」という独自の地位を確立している。ものづくりにおける「摩擦」を恐れない企業文化、そして、AI時代を見据えた組織の進化について同氏に迫った。

消費される広告への違和感 すべては「人とモノの接点」をデザインすること

ーーまずは、ご経歴について聞かせていただけますか。

阿部淳也:
起業の原点は、「事業を中長期的に育てたい」という強い思いです。私のキャリアの出発点は、自動車メーカー系の設計会社でした。そこでは、トラックやバスの運転席の使い勝手や見やすさを追求する設計を担当していました。人間工学や認知科学に基づいた設計の世界です。その後、インターネットが社会に普及していく転換期に、広告制作会社に転職しました。

当時は面白いものをつくって、世の中に評価されたい一心で多忙な環境下の中、熱心に働いていました。しかし広告の特性上、私たちが情熱を注いでつくったものも、数ヶ月の期間が終われば世の中から消えてしまいます。自分たちの創造性がただ消費されているような儚さを感じるようになりました。そんな折、さまざまな事業を立ち上げる方々と仕事をする機会があり、彼らの「事業を何年も育てていく」という姿勢に、本質的なやりがいを見出したのです。

ーーその原体験は、現在の事業にどのようにつながったのですか。

阿部淳也:
現在の事業も、根本的な考え方は同じです。パソコンの画面やスマートフォンのアプリでのコミュニケーション。あるいは私たちが手掛ける現実のイベント空間でも、結局やっていることは変わりません。「人と機械」「人とインターネット」、そして「人と人」がどのように情報をやり取りし、関係をつないでいくかということ。私は一貫して、その「インターフェース」をつくっている感覚を持っています。単なるビジュアルデザインではなく、ユーザーと企業のあいだにあるコミュニケーションそのものを設計しています。

伝言ゲームをなくす「100%直接取引」というスタンス

ーー貴社は顧客と直接取引をされているそうですが、その理由は何でしょうか。

阿部淳也:
情報の齟齬を防ぎ、本質的な課題解決を提案するためです。創業から18年経った現在、弊社の売上高のほぼ100%が顧客との直接取引となっています。間に広告代理店やコンサルティング会社を挟むと、どうしてもコミュニケーションに時間がかかり、意図が正確に伝わらない場合があります。

私たちには、企業の中の現場の方々と密に対話しながら、日々のビジネスに直接関わりたいという強い思いがありました。相手の意図を正確に汲み取り、課題を解決するためには、お客様と直接会話することが大原則です。この対話の深さと素早い対応力が、弊社の最大の強みになっています。

ーー貴社の社内文化や、一緒に働きたい人物像について教えてください。

阿部淳也:
ものづくりには「熱量」が不可欠だという文化が根付いています。世間では相手の意見を否定しない対話が好まれる傾向にあります。しかし、無難な方向に流れることが常に正解だとは思いません。「本当につくりたいもの」や「利用者にとって最良なもの」を真剣に追求すれば、意見の食い違いが生じることもあるでしょう。人と人は必ずぶつかりますが、摩擦が起きないと、そこに熱が生まれることもありません。だからこそ、弊社では本気で意見を交わすことを推奨しています。それは個人の都合を押し通すためではなく、「お客様の立場なら」「利用者の視点なら」という、プロとしての議論です。

もちろん「寝たら翌日にはリセットする」というルールを設けています。弊社にあるのは、良いものをつくるために本気で議論し、互いを高め合える風通しの良い環境です。

全員が全体を指揮できる次世代の集団を目指して

ーー今後の展望をお聞かせいただけますか。

阿部淳也:
これまで事業面では、顧客向けに提供してきた自社プロダクトを、今後は外部に向けて本格的に展開する挑戦を始める予定です。また、弊社も再来年には創業20年を迎えます。苦楽をともにしてきた社員の中から、経営視点を持って新しい事業を牽引する次世代のリーダーが育つことを期待しています。

ーー最後に、組織としての目標をお話しいただけますか。

阿部淳也:
「全員が全体を指揮できる集団」へと組織を進化させることです。現在はAIの技術が急速に発展しています。「デザインだけ」「プログラミングだけ」ができる専門家は、今後AIに置き換わる可能性があるため、専門性を持ちつつ幅広い領域に対応できる組織を目指しています。高い技術を持ちながらも、お客様と直接対話し、視野を広げて要望を形にしていく。技術力だけでなく、事業への理解や人間力を高めることが重要です。

編集後記

「摩擦が起きないと熱は生まれない」。阿部氏のこの言葉に、同社のものづくりに対する真摯な姿勢が凝縮されていた。他社を介さず直接取引にこだわるのも、顧客や利用者にとっての最適な答えから逃げないためだ。技術がどれほど進化しようとも、人と人が真剣に向き合い、熱量を持って生み出す「接点」の価値は決して色褪せない。全員で視座を高め続けている同社が、次にどんな新しいコミュニケーションを世に送り出すのか、非常に楽しみである。

阿部淳也/1974年、宮城県生まれ。自動車メーカにてUIエンジニア、デザイナー・ディレクターを経て、都内クリエイティブプロダクションにてディレクターとして従事し、2008年にクリエイティブファームとして株式会社ワンパクを設立。事業会社のマーケティング、ブランディングを戦略レベルから支援し、クリエイティブ制作・開発までをワンパッケージで提供している。また、一般社団法人 I.C.E.の理事長として業界発展のために活動している。