
1993年の入社以来、30年以上にわたって現場の最前線に立ち続ける今井明飾株式会社の代表取締役社長、今井剛志氏。大学卒業後に入社した大手企業で学んだ「無駄をなくして必要以上に持たない」という哲学は、現在の総合ビル管理という仕事にも深く根付いている。建物の清掃から派遣スタッフの管理までをこなし、「仕事の中に楽しみを見つける」と語る今井氏。役職にこだわらず、徹底して現場と人に向き合い続ける姿勢と、会社が直面する課題、そして今後の展望について話を聞いた。
大手企業から家業へ 他社で学んだ「必要以上に持たない」哲学
ーーまずは、大学卒業後のキャリアについてお聞かせいただけますか。
今井剛志:
卒業後は外部の大手企業に入社し、4年間、設計や技術部門を担当していました。自動車メーカー系列であった同社の業務を通じて、「必要なものを必要なだけそろえる」「無駄なものを持たない」という哲学を徹底的に教え込まれました。必要以上に物を持たず無駄を省く考え方は非常に理にかなっており、この学びはその後の仕事の進め方や経営に向き合う上でも、私の根底に生きていると感じています。
ーーその後、貴社へ入社された経緯は何だったのでしょうか。
今井剛志:
以前から縁があったことが一番の理由ですね。今井明飾は私の叔父が経営する会社で、学生時代からアルバイトとして働いていた場所でした。また、当時はちょうどバブル経済の崩壊直後で社会全体が厳しい事業環境にあり、私も自身の働き方を見つめ直していました。そのような状況が重なって前職の退職を決意し、そのまま弊社に入社することになったのです。
「役職はただの名前」 最前線で現場と人に向き合い続ける
ーー入社後は、どのような業務を経験されましたか。
今井剛志:
入社当初は、アルバイト時代と変わらずマンションやビルの清掃など、自ら現場に出向いて作業を行っていました。それと同時に、各現場で働く清掃スタッフの管理業務にも携わるようになったんです。現在、弊社には約300名のパート従業員が在籍しており、さまざまな建物で毎日清掃を行ってくれています。キャリアを重ねるにつれて、現場での実作業よりも、スタッフへの作業手順の指導や人員の手配・管理といったマネジメント業務の比重が徐々に大きくなっていきましたね。
ーーその後、社長就任時にはどのような役割の変化がありましたか。
今井剛志:
約20年前に社長に就任しましたが、入社時からやっていることはほとんど変わっていませんね。私にとって、課長や部長といった役職は対外的な名称に過ぎないのです。社長に就任した後も、自ら現場へ赴き作業を続けています。役職はあくまでひとつの肩書であり、お客様にしっかりとサービスを提供するという日々の基本は、何も変わりません。
地域密着の事業展開と「仕事を楽しむ」マインド

ーー改めて、現在の事業内容について教えていただけますか。
今井剛志:
主な事業は、公共の文化センターからオフィスビル、ホテルに至るまで、多種多様な施設の清掃および総合管理です。万が一のトラブル時にも30分から1時間以内で駆けつけられるよう、営業エリアは大阪を原則としており、こうした地域密着の迅速な対応もあって、お客様と直接お取引させていただくケースが多いのが弊社の強みです。
また、ビルメンテナンスとは別に、保育士や受付スタッフなどを手配する人材派遣事業も展開しています。一見異なる業種に思えますが、派遣先のお客様から施設管理の新規契約をいただくなど、事業間で非常に良い相乗効果が生まれています。さらに、こうした人材を扱うノウハウを活かし、現場に配置するスタッフの適性を的確に見極めることで、クレームを最小限に抑えられている点も大きな強みです。
ーー現場の業務で意識されていることは何でしょうか。
今井剛志:
どんな仕事の中にも、自分で楽しみを見つけることです。たとえば、床のワックスがけもその一つです。塗り方の工夫や材料の組み合わせを変えるだけで、光り方や効果の持ち具合が大きく変わります。自ら試行錯誤し、良い結果が出たときの喜びは格別ですし、その面白さを見つけられるかどうかが、仕事において大切だと考えています。
人材不足の課題と地に足を着けた今後の展望
ーー今後、取り組んでいかなければならない課題は何だとお考えですか。
今井剛志:
一番の課題は人員不足です。今後は外国人スタッフにも頼っていく必要が出てきますが、そこには言葉の壁や文化の違いが存在します。そうした環境の中で、清掃の手順やトラブルの対応をどう指導していくか。これが、直近で解決すべき最大の課題だと感じています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。
今井剛志:
既存のお客様からのご依頼を確実に行うことに尽きますね。人員が限られている中、むやみに規模の拡大を追うことはしません。丁寧な清掃と迅速な対応といった質の高いサービスを提供し続けることが第一です。そして、直接取引でしっかりと利益を確保することも大切です。材料費の高騰に対応しつつ、従業員の給与や待遇改善に還元していきます。この数年間は地に足を着け、会社を安定継続させる基盤づくりに注力したいと考えています。
編集後記
社長という肩書きを持ちながらも、現場の最前線でワックスがけの奥深さを語る今井氏。その姿からは、仕事に対する純粋な探求心と深い愛情が感じられた。「無駄なものを持たない」という前職での学びや、クレームを出さないための徹底した人員配置。一つひとつの実直な取り組みが、顧客からの直接取引という信頼に結びついているのだろう。規模拡大よりも既存顧客と従業員を大切にする堅実な姿勢は、時代が移り変わっても揺るがない企業の強さを示しているのではないだろうか。

今井剛志/1967年生まれ。1989年、近畿大学理工学部電子工学科を卒業後、光洋精工株式会社(現・株式会社ジェイテクト)に入社。1995年10月、今井明飾株式会社に入社。その後、2005年4月に同社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。