
子どもの頃からトラックに憧れ、高校卒業後に地元の運送会社へ就職。その後、独学で経営を学びトラック1台で起業し、30歳で株式会社ベストラインを設立したのが辰己千里氏だ。幾多の壁にぶつかるも、「行動力」ではなく「行動量」を武器に事業を急拡大させた。現在では車両整備の内製化や独自システム構築、海外人材の育成・活用まで見据え、2028年の年商100億円達成を目指す。古い慣習が残る物流業界で、人を信じる「仕組みづくり」を徹底し常識を覆す同氏に、これまでの軌跡と展望を聞いた。
幼少期の夢から独立へ「知っている」と「できる」の壁
ーーまずは、起業に至るまでの経緯を教えてください。
辰己千里:
起業の原点は、幼い頃からのトラックへの強い憧れです。周囲の友人がゲームなどに夢中になる中、私は「大きくなったら絶対にトラックに乗るんだ」という思いを持ち続けていました。そのため、高校卒業後は進学せず、すぐに地元の運送会社へ就職したのです。働きながら独学で経営を学んだ後、24歳のときに念願の独立へと踏み切りました。
ーー独立後、特に大変だったことは何でしたか。
辰己千里:
独立後は、一度個人事業主としてスタートした後にさらなる事業拡大を目指して、30歳のときにベストラインを設立したのですが、最初は失敗の連続でした。独学で知識を詰め込み「知っている」状態にはなっていたものの、実際に経営が「できる」かは全く別の話だったからです。数字の分析や経営の仕組みを深く理解しないまま事業の拡大を急いでしまい、その結果、利益が出ない苦しい時期が5年ほど続きました。この痛烈な経験から、ビジネスモデルや会計の仕組みをもう一度徹底的に学び直しました。それが現在の成長を支える土台となっています。
属人化からの脱却と「行動量」による成長

ーー経営を学び直した後、どのように事業を拡大していったのですか。
辰己千里:
得た利益を次の成長のために投資し続ける「投資先行型のビジネスモデル」への転換と、圧倒的な「行動量」によって拡大していきました。会社の規模が小さいうちは、できることが限られています。そのため、売り上げを1億円から10億円、100億円へと引き上げ、事業拡大における複利の考え方を取り入れたのです。
これに加えて、私自身が経営者として誰よりも大きなエンジンを積み、人より多く動くことを意識しました。私に特別な才能があったわけではありませんが、こうした取り組みを積み重ねて結果を出してきました。しかし、従業員とトラックが40台規模に達した頃、組織の統制がとれなくなる問題に直面します。事故やトラブルが頻発し、経営者として「人を疑うことなく信じ続ける」ことの難しさを痛感しました。
ーーその組織の壁をどのように乗り越えましたか。
辰己千里:
「人を信じるために、仕組みを整理する」という考え方にシフトしました。個人のモラルや根性に依存したマネジメントには限界があります。そこで、採用基準の明確化や日々の業務フローの可視化など、徹底的なシステム化を進めました。人を管理するのではなく、誰がやっても一定の品質で仕事ができる仕組みを整えたのです。結果として組織が安定し、一気にトラック200台規模への急成長を遂げました。
ーー具体的には、どのような仕組みを構築されたのでしょうか。
辰己千里:
大きな取り組みの一つが、車両整備の内製化です。自社で整備士を採用し、車両整備の内製化を実現しました。トラックが増えると、外部に修理やオイル交換を依頼する時間とコストが経営を圧迫するからです。将来的にはタイヤやオイルなどの分野にも事業を広げたいと考えています。
また、国内の深刻な整備士不足を見据え、ベトナムと提携して現地に海外用の整備学校を設立するプロジェクトも進行中です。ここで育成した人材を、日本の運送会社や工場へ派遣する仕組みを構築していきます。
独自のシステム開発とユニークな社内制度で組織を強化
ーー社内の体制づくりで工夫されていることはありますか。
辰己千里:
業務の効率化に向けて、自社で独自のシステムを開発しました。経費の承認フローや車両の稼働状況をGPSと連動して一元管理しています。また、組織づくりの面では、外国人ドライバーが安心して働ける環境を整えるためのグループ会社「B-GLOBAL LOGI」も立ち上げました。習慣や文化が異なる多様な人材が活躍できるよう、日本人向けの就業規則をそのまま適用せず、彼らの文化や習慣に合わせた別法人を設立したのです。これが功を奏し、非常に高い成果を生み出しています。
ーー会社の認知度向上や安全管理の面ではどのような工夫をされていますか。
辰己千里:
企業の認知度を高めるため、ベストライン上野パークや、車体に鮮やかな装飾を施すデザイントラックの導入など、ブランディングを積極的に行っています。同時に、ユニークな事故防止策も実施しています。たとえば、無事故無違反が半年間続いたドライバーのご家庭には、毎月お米を届ける制度を導入したのです。事故を起こすとお米が届かなくなるため、ご家族からドライバーへ安全を促す声かけが生まれ、結果的に、社内の事故件数が劇的に減少しています。
物流業界の常識を打ち破り年商100億円の未来へ
ーー最後に、これからの未来に向けたビジョンをお聞かせください。
辰己千里:
2028年に年商100億円を達成することが、現在の大きな目標です。私たちが大切にしているのは、「最初から正解を取りにいくのではなく、自分たちがやってきたことを正解にする」という姿勢です。これまでも外部環境の変化をチャンスと捉え、果敢に投資を続けてきました。これからも常識にとらわれず、物流業界に新しい道を切り拓いていきます。
編集後記
幼少期からの夢を叶え、トラック1台から事業を急拡大させた辰己氏。「知っている」と「できる」の違いに苦しみながらも、行動量で道を切り拓いてきた言葉には強い説得力がある。特に、「人を信じるために仕組みをつくる」という確固たる姿勢や、お米の配布による事故防止策など、徹底した合理的なアプローチは非常に興味深い。2028年の年商100億円達成に向け、自らの軌跡を「正解」に変えながら進む同社の挑戦に今後も注目したい。

辰己千里/株式会社ベストラインを設立後、経営業務に従事。物流企業の経営、人材育成、組織づくり、IT・DX・AI推進、M&A、物流コンサルティングに取り組む。今現在はM&Aを積極的に行いベストホールディングス株式会社の設立後、グループ全体のCEOとして全会社を管理しガバナンスの強化に従事している。